第448話 遠征報告会への招待

ジルボアの冗談めいた追求から身を躱すために、話題を変える。

男爵様との遠征がどうなったか、興味があったからだ。


「ところで、今回の遠征はどうだったんだ。例の男爵様の依頼だったんだろう?たしか人喰い巨人(オーガ)を生きたまま捕らえるとか。うまくいったのか?」


「うまくはいったさ。大分、苦労はさせられたがな。男爵様は、無傷で捕らえたいと無茶を仰るもんでな。注文に応えるのは苦労した。いつもの調子でやると、殺してしまうからな」


いつもの調子とは、隊列を組んでの剣牙の兵団の集団戦闘のことだろう。

先日、代官罷免の事態に絡んで、雇われの食い詰めた冒険者や乞食達を相手にした兵団の戦闘を間近でみる機会があった。

数では若干の劣勢だったのだが、まさに鎧袖一触。

数度、干戈を交えただけで相手の集団を蹴散らしてしまった。

実際の戦闘は1分もなかったのではなかろうか。


たしかに、あの調子で戦ったのでは、人喰い巨人(オーガ)と言えども、あっという間にハリネズミなることだろう。


「すると、やはり何かの工夫をしたんだな。鏃の工夫か?鍵型にして抜けないようにとか。あるいは落とし穴か」


「なんだ、ずいぶんと食いつくのだな。関心があるのか」


呆れてジルボアが聞いてくる。


「まあ、それはな」


俺も引退したとはいえ、元冒険者だ。

俺はリスクは計算して避ける性質(たち)だったので、人喰い巨人(オーガ)のような大物の討伐依頼は受けなかったし、そこまで腕が上る前に引退してしまった。

人喰い巨人(オーガ)討伐は、ジルボア達のような一流クランにとっては日常の業務に過ぎないだろうが、俺のような普通の人間にとっては危険と浪漫の象徴なのだ。


「ふむ。ならば、男爵様の訪問には同道するか。数日後、今回の遠征の報告会を男爵様のアトリエで開く。貴族のみが参加する会だが、代官になった今ならば資格も十分だろう。こちらから男爵様には伝えておく」


報告会。要するに趣味の会か、学会のような集まりか。

そういったものがあるだろうとは想像していたが、呼ばれて参加するのは初めてになる。

身分があがると面倒なことばかりだが、この種の知的サロンに参加できるのは嬉しい。


「ところで、兵団(うち)から派遣した2人は役立っているか」


剣牙の兵団からは2人が新人官吏として、会社(うち)に出向してきている。

元貴族のロドルフと、元商人のリュックのことだ。


「もちろん、役立っているさ。今日は彼らのことで相談に来たんだ」


「なんだ、ただの野次馬ではなかったのか」


「まあな。もちろん男爵様の報告会には同道させてもらいたいが。ジルボアも報告を受けているかもしれないが、前任の代官様がいろいろとやらかしてな。教会で私設小法廷とやらで対決する羽目になった」


「対決する羽目になった?罠に嵌めてやったの間違いではないのか?」


ジルボアの冗談は、どうもキツイところを突いてくる。


「そう言うな。戦うからには勝たないと。そうだろう?そもそも後任の俺に嫌がらせをしようとして、無茶な税金を掛けようというのが間違いだったんだ。危うく領地に農民から餓死者が出るところだった。俺を暗殺しようというぐらいなら見過ごせるが、俺は弱いもの虐めをする奴は嫌いなんでね」


「相変わらず、お前の正義感は回りくどいな」


憮然とする俺を、ジルボアは口を開けて笑った。

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