第449話 歴史と賃金
一通りの説明を終えると、ジルボアは「なるほど。賃金か。たしかにな」と考え込んだ。
「剣牙の兵団は傭兵団であると同時に冒険者でもある。だから依頼を受けての報酬は、基本的には参加した連中で分配する。稼ぎの一部は兵団の運営に使われる。そういう仕組みだ」
「そうすると、うちに来ている2人の稼ぎはどういう理屈で出ているんだ?」
こちらから依頼したことではないから、2人は研修というか出向の扱いで来ていることになる。
そんな方式が剣牙の兵団にあるのだろうか。
「それは、キリクと同じだな。ある種の護衛依頼のように長期間の派遣を前提とした依頼を行っている、ということになる」
「あの2人に護衛されるのか。そこまで弱くはないぞ」
キリクは体格も大きく、実際に剣の腕を披露するところを見たこともある。
キリクが剣を鞘ごと振るうだけで、暴漢達が冗談のようにクルクルと回転するのを見て、味方で良かったとつくづく思ったのものだ。
「そうだな。冒険者を辞めて、お前の腕は落ちているかもしれんが、修羅場の度胸はむしろ上がっている。あの2人相手なら、いい勝負ができるだろうさ」
ジルボアの見立ては、なかなか厳しい。
まあ、専門家の言うところだから、俺の剣の腕は客観的に見てそのあたりなのだろう。
「そうすると、俺が2人に賃金を払うのは依頼先で褒美を貰うようなものか」
剣牙の兵団が職制に応じた賃金制度を採用していたら団の中の秩序が面倒な話になるところだったが、単純に依頼の扱いというのであれば、成果給の一部として処理が簡単になる。
「下っ端で若いくせに生意気な」ということでなく「働いているのだから当然だ」ということだ。
「そうなるな。金額さえ知らせてもらえれば、そちらで賃金を上げるのは問題ない。何かやらかして罰金を課すのであれば、一応こちらにも知らせて欲しいがな」
「了解した。一応、今回の合意事項として書面にはしておく」
剣牙の兵団と会社(うち)で人材交流が増えてくると、この種の問題が増えてくるだろう。
こうして一つ一つ課題を潰していくことが、今後の組織拡大における前例となっていく。
剣牙の兵団で問題が解決したので、後日の男爵邸同道の日時について改めて確認した後、その足で教会の方に向かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「駄目ですね」
「駄目ですか。そこは何とかなりませんか」
「なりません」
一方で、教会の方から派遣されている2名に関する賃金交渉は難航した。
クラウディオもパペリーノも非常に頑張ってくれているので賃金を上げたいと申し入れたのだが
「それは賄賂になりますから」
とキッパリと否定されてしまった。
さすがに教会は歴史ある組織だけあって、聖職者の年次や成果によって詳細に設定された賃金テーブルのようなものがあり、その等級に定められた賃金が2人には報酬として払われている、ということらしかった。
考えてみれば、教会は人員の派遣に慣れている。
聖職者になる、という人材を集め、教育し、各地の教会に派遣するのは教会の組織であり、業務そのものだ。
上の方になると賄賂なり特別報酬なりでいろいろとやっているのかもしれないが、若手のうちはしっかりとした組織の仕組みが存在しているわけだ。
これが歴史ある組織というものか、とある意味で感心させられる。
いずれにせよ、2人には別の形で待遇を考えなければならない。
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