第426話 復興の道標
何やら不穏な方針が聞こえたので、数秒で考えをまとめてから声を上げる。
「領地の復興方針について、提案がございます」
提案、という前向きな発言が必要である。できない、という後ろ向きな発言は聞いてもらえる可能性はない。
「何とかしろ」の一言で終わりである。
すると、2人の聖職者は「まだいたのか」と言わんばかりの視線をこちらに向けた。
提案という言葉で関心を引くことに成功はしたものの、それは本当に少しだけの関心であったらしい。
だが、ここで怯んではならない。言うべきことを言わねば、尻拭いをするのは自分になるのだ。
「今の領地は、プルパン殿の苛政により、土地、人心の双方が大変に荒んだ状態にあることが想像されます!」
実際には、想像ではなく数値で知っているのだが、最初から数字を出すのは控える。
数値で訴えかけて動いてくれるのは官僚であり、その上の政治家を動かすには感情と心情で語らねばならない。
ニコロ司祭は文官ではあったが、最近は出世して、より政治家的な振る舞いになっているだろう。
また、そうならなければ文官は出世できない。
「・・・それで?」
「教会の温情と正義により、村の民が救われたという事実を示さねばなりません!」
ここぞとばかりに、俺は教会による介入の必要性を説いた。
村には前の領主であるプルパンに対する恨みが渦巻いているであろうこと。
更に厄介なのは、プルパンが不平等な統治をしていたこと。
全員に平等に苛政を敷いていたのであれば村民は団結は保たれているであろうが、実態はそうでないこと。
村民の中にも不平等が生まれている、ということだ。この点を正さねば次の統治も危うく、
その不平等の是正は教会の名においてなされるべきこと。
実際の調査結果と、村人の証言をまとめた羊皮紙の資料を元にした主張を無視することは得策ではない、と2人の聖職者は気づいたようだ。
少しばかり方針を修正しようと話し合いを始めた。
とうぜん、その話し合いに俺は加わることはできない。
良い結論がでることを待つばかりだ。
「どうかね」
「・・・一考の余地はありますな」
「たしかに」
頭が良く偉い人達の会話というのは、本当に言葉が少ない。
頭のなかで政治的な力関係や人事、資金など様々な要素を検討した上で最適解を導き出し、それが共有して理解されていることを当然であると考えているフシがある。
できる部下は、その上司の頭の中で考えているシナリオに先回りして有益な提案を上げるものだが、この世界や教会組織に関する基本的な情報量に差がある俺には、その種の振る舞いは難しい。
「それで?」
ニコロ司祭から声がかかる。
これはつまり、提案を上げろ、ということだ。
問題点を上げたからには、解決まで道筋が立っているのだろうな?という言外の重圧(プレッシャー)も感じる。
「まずは仇が必要でございます。次に恵みが必要です。最後に希望が必要であると考えます」
「具体的には?」
「仇、つまり今回の苛政の目に見える犯罪者、石を投げる対象が必要です。村人の恨みを目に見える相手にぶつけさせなければなりません。今回の裁判では正義が行われました。ですが、ここより遠く、文字の読めない村人には正義が行われたことが理解できません。村人達に、理解できる儀式が必要です」
「火炙りにでもせよ、というのか。効果的には違いないが」
ニコロ司祭ならば、必要とあれば顔色一つ変えずにやりそうであるから困る。
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