第420話 喚問状

襲撃から3日後、ニコロ司祭に呼び出されたので1等街区の聖堂まで行くことになった。


「召喚・・・かと思えば喚問か。どう思う?」


ニコロ司祭から使者を通じて届けられた羊皮紙には、喚問状とあった。

召喚であれば呼ばれるだけだが、喚問となると司法や裁判の匂いがする。

このあたりの知識に詳しいクラウディオに聞いてみる。


「そうですね。書式から判断すると教会法に基づく書類となりますね。何らかの記録を残すためでしょうか」


「俺が罪人になるってことか?」


「流れによっては」


冗談で返したつもりであったが、クラウディオは真剣だった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


1等街区に入れる人数は制限されていたので、護衛としてスイベリー本人が、法律面での助言者としてクラウディオがついて来ることになった。

もっとも、襲撃を心配して1等街区の門までは10人以上の完全武装した剣牙の兵団の連中が盾を揃えてついて来た。

その迫力に通り道の市民達は逃げ出し、門番の兵士達がビビって剣を構え応援を呼ぼうとした程だ。


「副団長、日が沈むまでに帰ってこなければ、全員で救出に行きますからね」


と大声でキリクががなる。

実際、門番と、その雇い主達に聞かせる意図があるのだろう。


「なに、10人や20人なら、相手が誰だろうと切り破ってくる」


とスイベリーは腰の魔剣を叩いて笑うが、それを聞く門番達の顔は引きつっている。

普通、平民が1等街区に入るときは武器を取り上げられるのだが、前回のジルボアがそうであったようにスイベリーも帯剣が認められるらしい。

高価な魔剣だから預かりの対象とならないのか、もしくは剣牙の兵団の街における社会的地位が思っていたよりもずっと高いのか。

いずれにせよ、魔剣を振るうスイベリーの手にかかれば、門番の兵士など中隊単位でかかっても歯が立たないだろう。


1等街区では門番の1人の先導に従い大聖堂に入る。

正門から入るのは前回の代官任命から2度目だ。

なるほど、正式な書類で呼び出すだけのことはある。


そこで先導者が交代し、若い聖職者に従って大聖堂の奥へと進む。

スイベリーが興味深そうに周囲を見回している。

これまで、表で交渉する仕事はジルボアが手がけていたので、意外と初めて来るのかもしれない。


「何か?」と先導していた聖職者が訝しんだが「何でもない」と返して進む。


前回来た時とは違う通路を通っているので、どこに進んでいるかはわからない。


「いや、これは・・・私設小法廷に向かっているのですか?」


先導する聖職者に対し、クラウディオが焦りのこもった声で問いかけるも、返答はない。


「これは思ったより大事になっていますね」


とクラウディオが耳打ちしてくる。


「なんだ、私設小なんとかというのは」


スイベリーが耳慣れない言葉の解説を求める。


「簡単に言えば、聖職者の内々で行う裁判です」


裁判か。それは確かに、大事(おおごと)だ。

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