第421話 私設小法廷
私設小法廷という名称は知識にないが、教会内の揉め事の仲裁裁判所のようなものだろうか。
この世界の教会は王国よりも大きな存在感を持っているので、教会に関する司法権を独自に保持しているのだろう。
「こちらへどうぞ」
先導する聖職者が奥まった通路のドアを開くと、地下へと向かう階段が見える。
「地下か」
教会や城の地下というのは、物語では牢屋などがあるものだ。
暗くぽっかりと開いたドアの向こうからは、ヒンヤリとした空気が漂ってくる。
「小法廷は地下にありますので」
一応、クラウディオが頷くのを確認する。
この先が私設小法廷であることは間違いないらしい。
ある程度の準備を整えてきたとはいえ、ここは敵地なのだ。
用心するに越したことはない。
地下への階段は狭いので、クラウディオ、俺、スイベリーの順になって進む。
スイベリーが最後尾につくのは、奇襲を受けた際に逃げ道を確保するためだ。
ふと、教会に入ってスイベリーがやたらに周囲を見ていたのは襲撃を警戒してのことか、と思い当たった。
てっきり、好奇心で見回していたのだと思った。悪いことをした。
地下に誘い込んで襲撃、というシナリオは杞憂だったらしい。
下りきったところは広く寛げる空間が造られて、高い天上と壁には採光用の窓もある。
完全な地下室というより、半地下のような作りになっているのだろうか。
あるいは、採光用の部分は外側の土を掘り込んであるか、斜面になっているのかもしれない。
さすが教会。金がかかっている。
俺は、なんとなく想像していた秘密裁判めいた暗い場所でないことに、とりあえず安心した。
「控室はこちらです」
そのまま一室を与えられ、開廷まで待つようにと言われる。
ちょっとした卓や椅子、ソファーなどの基本的な家具が備え付けられていて、壁際に置かれた美術品の趣味も良い。
水差しなども置いてあるが、当然、口にすることはない。
「意外に丁寧な扱いだな」
雑談のつもりで感想をもらすと、クラウディオは否定した。
「いえ、これは代官様を迎えるには部屋の格も家具の質も不十分な対応です。状況はあまり良くないのかもしれないですよ」
「そうかな?つまり、これは以前の話がうまくはこんでー」
俺が言いかけた時、ドアがノックの後、開けられた。
「開廷致します。私の後についてお進みください」
先程まで先導してくれていた聖職者とは別の、少したくましい体格をした聖職者が先導してくれるようだ。
廷吏のような存在なのかもしれない。
入廷すると、これも事前に漠然と想像していた裁判所のような部屋ではなく、小さな礼拝堂のようなつくりの一室だった。
部屋の奥には5人程の聖職者がこちらを向いて座っており、ニコロ司祭も加わっている。あとの4人の顔は多少、見覚えがあるような気もした。
俺達3人は向かって左側に座るよう指示された。
向かって右側、つまり反対側には3人の男達が既に座っているからだ。
中の1人は大柄で肥満し、襟がヒラヒラとした服装で妙な頭髪のカツラを被っている。
そのカツラ男の刺すような視線に、確信する。
こいつが、例の悪代官か。
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