第402話 サービスメニューの作り方

靴修理の記録を読むと、修理する箇所や損傷の程度は様々で、なかなか統一的に教えることは難しいように思えた。


「靴修理の講座か。ゴルゴゴ、靴修理のやり方を教えられるか?」


「無理じゃな。お前さんのように喋れということじゃろ?性に合わんわい」


靴修理の提携先に、どのようにサービスを提供するか。

最初に靴修理の仕方のような講座を考えたのだが、ゴルゴゴは講師が務まらないと否定した。

たしかに、想像できない。


「それに、奴らはそもそも自分の工房を構える職人じゃ。初歩的なことを教えられて、いい気持ちはせんだろうよ」


「確かに、個別の職人の技術を見れば、向こうの方が高いわけだからな」


技能を教える、という観点は捨てた方がいいのかもしれない。


「ならば発想を逆にしようか。工房の親方達に教えてもらおう」


「教えてもらう?」


ゴルゴゴは太い首をかしげた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


それから、俺とゴルゴゴは靴工房の親方達の元を数軒、訪問して回った。

もともと提携について説明する必要はあったし、既に街の靴工房でも冒険者から持ち込まれた冒険者の靴を修理することが常態化していたので、実態調査という名目もあった。

靴工房では、俺の代官という身分を怖れたか、あるいは剣牙の兵団の威光が効いたのか、あっさりと立ち入り調査を許可した。


訪問をすると、ゴルゴゴは聞いた。

どんな損傷だったのか。修理の際に困ったことはなかったか。どんな材料が必要だったか。

俺も聞いた。

何足ぐらい持ち込まれたことがあるのか。どのくらいの費用を受け取れば、商売として成り立つのか。


靴工房の親方達は、まず驚き、そして恐縮していた。

ゴルゴゴは、外から見れば大工房の工房主であり、俺は教会から懇意にされる代官様だからだ。

身分が高くなれば、命令するのが普通だ。3等街区の靴工房の親方など、彼らから見ると身分上は何段も下の人間だ。

ところが、工房を訪問した身分の高いはずの彼らは、靴の革を補修する素材は何を使ったのか、だの、靴を縫い合わす針はどんな形が優れているか、だの、銅貨2枚がいいか5枚必要か、だのと下々の暮らしに気を使い、靴の技術にも詳しい様子で貪欲に聞いて回った。


「あそこまで考えてくれるんなら、提携してもいいかもしれないなあ」


2人が帰った後、靴工房の親方は呆れた様子で感嘆の声を漏らしていた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


一方で、工房を辞した俺とゴルゴゴは、訪問した靴工房について評価の話し合いをしていた。


「いろいろと、参考になる訪問だったな」


「うむ。今の工房は革を縫う針の形状がいいのう。あれなら、連続して縫うときに革同士の間隔が緩むことがない」


「膠の質は良くなかったな。あれならうちから提供した方がいい」


「素材も不足しておったな。爬虫類(リザード系)の革はつま先にしか使わないから、高価なものは在庫できないものかもしれん。逆に、靴紐はかなり良い物を使っておったな。何か伝手があるのかも」


「それも提供案件だな。あの工房、ゴルゴゴから見て技術力はどの程度だ?」


「ふうむ。守護の靴を修理するだけなら充分。5点満点で4点じゃな」


「では、4点・・・と。あと6店舗ぐらいは回りたいな」


「やれやれ、人使いの荒いことじゃわい」


調査結果をメモしつつ、数日かけて3等街区の靴工房を回る。

こういったことができるから、代官とか街の有力者という地位は便利なものだ。

そうして数日後には、守護の靴を修理するために必要な部材、治具、価格設定表などの情報が収集できた。


聞いて回ったことは、そのまま提携先へのサービスメニューになった。

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