第403話 人を増やすには
結局、独立性も技術も高い親方達に命令、指揮する形の提携はやめることにした。
組織化するためのコストが見合わないし、俺の趣味ではない。
冒険者を支援する時と一緒だ。命令するのではなく、便利だから使いたくなるようサービスを組み立てればよい。
基本的な方針は、以下のように定めた。
・修理技術を教えることはしないが、聞かれたら答える。
・修理に必要な素材、便利な道具を販売する。
・手に負えない修理は、こちらで引き受ける。手数料は払う。
・修理の標準価格は提示する。従っても従わなくても構わない。ただ冒険者には価格を知らせる。
それと、小さな木の看板に、守護の靴にもいれている印と同じ印を刻んだものを作成した。
これを掲げることで、その靴工房では守護の靴の修理を取り扱える、という印になるわけだ。
いずれは、3等街区の工房でも販売できるぐらい価格を下げたいものだが、今は修理するのが精一杯だろう。
それに3等街区の靴工房には、守護の靴を必要なだけ仕入れて在庫にする体力がない。
まあ、そのあたりはボチボチとやっていくしかないだろう。
結局、修理提携先としての工房の自主性を最大限尊重する形になったわけだが、それで最も喜んでいたのは工房でなくゴルゴゴだった。
「やれやれ。儂が教えなくて済むというのは、ありがたいのう」
と、嬉しそうに印刷機の改良に戻っていった。
連続印刷の技術が確立していないので生産性は悪いのだが、定型書式ぐらいは羊皮紙に印刷できるようになったので、俺としてもありがたく活用している。
とりあえず靴修理の箇所を管理するために、靴の形を印刷した羊皮紙を200枚、印刷するように依頼した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
靴工房に噂が広まったことには、意外な収穫もあった。
その日も朝早い内から会社をあけ、職人の家族達と朝食をとっていると小間使いの少年が「知らない大人が革通りの入口で会いたがっている」と言う。
「その大人たちは、どんな格好してた?剣を持ってるとか、高そうな服を着てるとか、年寄りだとか」
「えっとねえ、父ちゃんみたいな感じ」
ということは、若い職人風ということか。
暗殺者の類には最近狙われていないが、一応、要人のために護衛のキリクに確認してきてもらうことにし、朝食を続ける。この先、何があるにせよ食っておかないと、いざというときに動けない。
それにしても、狙われることが日常茶飯時になったせいか、だんだんと腰が座ってきた。
感覚が麻痺しているだけかもしれないが。
しばらくすると、キリクが頭をひねりながら戻ってきた。
後ろには、職人風の若い男が3人ほどついてきている。
怪しい奴らならキリクが連れてくるはずがないから、何かの説明があるだろう。
そうして待っていると、キリクが言った。
「小団長、こいつら今の靴工房をやめて会社(うち)で雇って欲しいそうです」
「いや、急にそんなこと言われてもなあ・・・」
産業スパイ的なものだったら困る、という思いもないではない。
実のところ、今の工房の強みは個別の靴製造技術もそうだが、真の強みは安く大量に生産するための生産技術が強みなので、親方工房ではそもそも真似ができない。
ラインの職人を1人2人引きぬいたところで、管理技術なしでは生産ラインの再現ができないので真似は難しいだろう。
どちからと言えば困るのは、単純な破壊工作であったり暗殺者であったりした場合だ。
キリクが身体検査ぐらいはしただろうから後者の可能性は薄いにしても、会社(うち)に妙な恨みや被害妄想で放火でもされたら目も当てられない。
コネ以外の新人採用を、どのように進めるか。
会社(うち)が拡大しようと思えば、採用プロセスを考える再考する必要があるのかもしれない。
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