第359話 初めての質疑応答

Bチームのクラウディオが、説明を始める。


「本日は、私どもにかかる機会をいただき光栄に存じます。これより事前調査の結果と今後の調査計画について、チームの発表をさせていただきます。


さて、私どもは代官様に与えられた調査計画について、どのように進めるべきか議論し考察を深めました。


まず前提として代官と地位についてですが、通常は貴族法に基く貴族領地の遠隔地や貴族当主のやむを得ない事情に伴う暫定的な代理統治権と徴税権を有する地位と規定されておりますが、今回の代官様は教会領ということなので事情が異なります。


教会法に規定される代官とは教会が喜捨されたことで有する教会領地における聖職者派遣を補佐する代理的統治権と徴税権を有する地位と規定されております。


両者の違いとしては、前者の貴族法に基づく場合は貴族の代理としての性格が強いことに比較し、後者の教会法に基づく場合は教会聖職者の補佐としての性格が強いということになります。


これが実務として、どのように影響するかと申せば、それは領地に赴いた場合には、領地には教会があり、前任の聖職者が勤めておられますから、実務的に協力する必要があるということであります」


このあたりまでは、聖職者が得意な法律論の話か。

興味深い話ではあるが、Aチームの面々はイマイチ理解しているようには見えない。

それどころか、Bチームもクラウディオ以外は理解していないのではないだろうか。

説明は続く。


「該当の領地についてはニコロ司祭が聖職者として管理運営を委託された領地ではありましたが、御存知の通りニコロ司祭は中央教会に詰めていることが多く、以前から代理人を任命しておりました。その方はケンジ様の任官に伴い異動されております。


私どもは前任者の資料について、権限の許される範囲で閲覧し、結果についてまとめております。それによりますと人口は157人。戸数は50戸。耕作地の広さについては記載がありません。喜捨の高については、徴税記録は閲覧権限がないため、許可を待っている状態です。

主要産業は特筆すべきものの記載はありませんでした。


領地運営を阻害する要素として怪物被害が考えられますが、冒険者ギルドに照会したところ、ここ数年間でギルドのへの依頼はありませんでした。ですので、特に怪物被害はないものと考えております。


今後の調査計画としましては、徴税記録等、権限外資料の調査、及び開発計画と連動しての調査が必要と考えております。


3日間の予備調査の結果としては、以上です」


一応、終わりのようだ。

個人としてはいろいろと感想はあるが、講評の前にAチームに質問を振る。


「さて、質問はないか?」


他人の説明を理解し、質問をするという行動も平民には馴染みの薄い習慣である。

何となく納得はいかないが、どう言語化していいのかわからない、という雰囲気が漂う。

これは誰かを指名しないとダメかな、と思い始めたところで、手が上がった。

サラである。


「あの、あたし最初の方の話がよくわからなかったんだけど、領地には司祭様がいるってことなの?」


「そうなります」


と、自信満々にクラウディオが答える。


「じゃあ、ケンジのやることに司祭様が反対したら、やめないといけないの?」


そう聞かれると、クラウディオは意表を衝かれた顔をした。


「法理論上は・・・そう・・・なります」


「じゃあ、今の司祭様ってどんな人なの?ケンジに協力してくれそう?」


「ええと・・・お名前だけはわかっていますが・・・そこまでは・・・」


クラウディオの応答がしどろもどろになってきたので、助け舟を出す。


「大事な観点だな。為人(ひととなり)については、調査の課題としよう。他に質問はないか?」


質疑応答の要領がわかってきたのか、次々と手が上がる。


その後の質疑でクラウディオ達のチームは、火達磨になった。

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