第358話 説明する力

3日間、靴の事業を経営しつつ、2チームの行動を比較しながら見ていた。

いろいろと口を挟みたくなることはあったが、聞かれるまでは答えない。

聞かれても、聞かれた以上のことは教えない。


不親切に映ったかもしれないが、それには俺なりの育成指針と意図がある。


彼らには官吏として育って欲しいが、自律的な組織を作るためには、俺が教えて彼らが学ぶ、という関係性を最初から作るわけにはいかないのだ。

自分の足で情報を集め、議論を通じて理解を深め、自分で気づく。

そういった自律的学習プロセスを身につけてもらいたい。


面白いもので、2チームは、大体同じ程度の能力の人間が集まったはずだが行動には顕著な差がでている。


サラが所属するチーム、仮にAチームと呼んでいるが、彼らは積極的に外出し、様々な資料や証言を集めているように見える。もっとも、情報の整理や出力は不得意にも見える。

チームのために用意した棚には、乱雑に羊皮紙の写しや木切れの板が積み上がり、傍目にはどんな情報を集めているのかよくわからない。

機密性の高い資料があったらまずいので、ゴルゴゴに頼んで簡単な錠と木箱を作ってもらい、そこに集めた資料を入れることと、夜間には事務所に移動させるようにした。


一方でBチームは、聖職者のクラウディオが中心となって議論を深めていくスタイルで進めているようだ。Aチームに比べると、調査計画をしっかりと作ってから、調査を始めてるように見える。

集めた資料は、Aチームと比較すると少ないが、資料がきちんと整理されて、木板も紐で括られている。

Bチームは、俺に質問に来る回数は多い。自分達の立てた計画についてどう思うか。調査すべき資料はどこにあると考えるか、など、こちらの意図を探っているようだ。


心情的にはAチームのサラを贔屓したくなるが、Bチームの組織人として正しい動きも評価したい。

結局のところ、どちらのアプローチが正しいかは、結果を見て評価することになるだろう。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「では、3日間の成果を説明してもらおうか」


工房が閉まる頃合いに、2チームに3日間の活動結果を説明してもらう時間を持つことにした。


「まずは、クラウディオ達からだな」


最初に説明する側として、Bチームを指名する。

その順番には一応、意図がある。


説明能力は、明らかにBチームのほうが高そうに見えるので、Aチームにやる気があれば、参考になるだろう。


指名をうけて、聖職者のクラウディオが立ち上がる。

やはり説明は聖職者の彼がするようだ。


複雑な物事をわかりやすく説明するには頭の良さも必要だが、それ以上に場数がモノを言う。

この世界では一般教育が普及していないため、不特定多数の人間に自分の見解を説明する機会は、特に平民には限られたものだ

平民でそういった技能を身につけようと思えば、ジルボアのように傭兵団を率いるか、聖職者としての教育をうけるしかない。


説明力(プレゼンスキル)は、この世界では希少(レア)な技能(スキル)なのだ。

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