第303話 魔物の肉

そうして現場を分析しているうちに、ゴブリンの巣を探しに行っていた隊から連絡があり、巣を発見した、との報告があった。

さすがに一流クラン。仕事が早い。


「以前、森の中で人喰巨人(オーガ)に奇襲を受けたことがあったからな。今では、その手の捜索と警戒訓練もしている」


とは、指揮をしたジルボアの言葉だ。


「巣の周囲は包囲してありますから、逃がす気遣いはありません。こちらに連れてくることもできますし、男爵様をお連れすることもできます。我々が護衛につきますから、どちらでも男爵様の安全は保証できます。男爵様は、どうされますか?」


と、ジルボアから一応、質問したのだが、俺には男爵様の答えが聞く前からわかっていた。


「当然、行くに決まっておるではないか!巣も観察しておきたいからな!」


まあ、そうなりますよね。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


ゴブリンのような怪物が、どのように発生するのか、正確には知られていない。

大地の穢(けがれ)が集まって怪物になる、という説もあるし、動物のように繁殖により発生する、という説もある。

突飛な説になると、この世界の神と対をなす悪神が召喚している、などというものもある。

魔物に共通しているのは、その肉を食べると魔物になると言われている、という俗説だ。

食べられれば動物、食べられなければ魔物、というわけだ。


巣に向かって歩きつつ、男爵様と俺は魔物の発生について巷で一般的に知られている説を検討していた。


「だが、実際、魔物を食べたという記録がないわけでもない」


「そうなんですか?」


「うむ。飢饉に襲われた村、魔物の群れに襲われ孤立し籠城した街、そういった極限状況となれば、死ぬよりはマシと考えて魔物を食べる、ということはないわけではないのだ」


「なるほど、ありそうなことですね」


この世界の食糧事情は厳しい。魔物を駆逐しきれないせいで大規模な農地を拓くことが難しい上に、各地を結ぶ流通が貧弱で経済的で効率的な生産の分担ができないためだ。

そんな状況だから、魔物の襲撃などで食料の需給バランスが崩れることはよくある。

飢えてしまえば禁忌(タブー)よりも目の前の肉を食べることを選ぶのは、人間として当たり前のことだ。


なぜ、魔物の肉を食べないのか。不思議に思いつつも、これまで自分の体で試すわけにはいかなかったので、その記録には大いに興味がある。


「それで、どうなりましたか。記録にはなんと?」


「魔物を食した村や街は、いずれも内紛で自滅した、とあった。それが魔物の肉の作用なのか、魔物の肉を食べるほど飢えていた結果の内紛なのか、原因は不明だ」


「そうですか・・・」


魔物の肉に、何か化学的な原因物質が含まれているのか、魔術のある世界であるから魔法や呪い的な何かがあるのか、そのあたりの分析は俺には難しい。

まさが、人体実験をするわけにもいかないし。

自分の思考に入り込んでいた俺は、


「動物か何かに魔物の肉を食べさせる、という方法もあるな・・・」


と、男爵様が呟くの聞いて、慌てて止めに入るのだった。

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