第286話 小さいことはいいことだ

もう少し、アイディアを詰めていく。

まずは冊子一冊あたりの価格を低価格するためにはどうするか。

しかもある程度の品質を保ったままで、だ。


「羊皮紙でなく、別の怪物の皮、例えば魔狼や魔猪なんかの、比較的、気持ち悪くない連中の皮を使う方法もある。他には、皮ではなくて薄い板に書く方法もあるな」


板、粘土板などは、羊皮紙や紙が高価な時代は使われていた代替素材だ。

だが、それにはサラから異論が出る。


「でも、板ってすぐ割れちゃうわよ?」


「そこが問題だ。落としたりしたときに割れやすいし、重くて取り扱いに注意する必要があるから運搬コストが高くなる。それに、俺達は、皮なら革通りで安く買えるから、材料費の優位もあまりない」


「そうね。板はやめた方がいいわね」


この世界では、板材はあまり安くない。俺達が製材所に地縁(コネ)がないという仕入れ上の事情もあるし、森の伐採には怪物の脅威があるので大々的に行うことができない、という産業構造上の課題もある。

確認したことはないが、板材の加工には水車小屋の動力で大型の丸鋸ぐらい使用しているのだろうか。

何となく、そこまでは技術が進んでいない気もする。


「あとは、冊子の大きさを小さくしてみるとか。サラは、普通の冊子の大きさをどのくらいだと思ってる?」


「ええ?えっと、このくらい?」


サラはA3サイズぐらいの大きさを示してみせた。

この世界では、本は高級品扱いなので、大きく豪華になる傾向がある。

本の注文をするのは貴族や聖職者のような金持ち連中だし、かかった額に見合うだけの大きさと背表紙の豪華さが求められるのだ。

元の世界でも、ふた昔前は書斎の装飾用に読みもしない大百科事典などを飾ることが流行ったが、似たようなものだろう。


「ああ。俺は、そのサイズの四分の一ぐらいでいいと思ってる」


要するにB5サイズのポケット文庫だ。


「小さくない?そんな大きさの本で大丈夫?」


「確か、助祭が持っている神書なんかは、そのくらいのサイズのはずだ。見たことがある」


「えっと、そうね。私も村の司祭様が持ってるのを見たことあるけど、あれって神書の一部を自分で書き写したものでしょ?ちょっと違わない?」


「安く作れたら、小さくても問題ないさ」


サラの抱いている違和感を言葉で表現すると、以下のようになる。

要するに、売り物であれば費用がかかるので高価になる。高価なのだから豪華で大きくなる。

反対に、自分用のメモであれば小さくても問題ない、ということだ。

だから売り物としての冊子を小さくしよう、ということを考える人間が少なかったわけだ。


「それに、小さいといいこともある」


「例えば?」


「まず、材料費が少なくて済む」


「でも、書く内容の量はいっしょだから、ページが増えるだけじゃない?」


「羊皮紙っていうのは、皮の部位を切り取って作るんだ。小さければ、他の用途に切り取った皮の端切れで作れる。だから材料費は、きっと下がる」


「そうね。工房でも、靴を作った後に余ってる革があるものね」


「あとは、小さいと運搬が楽だ」


大きい物よりも、小さいもの方が運びやすい。いずれ王国中の教会に配布することも計画しているのだから、物流網が貧弱なこの世界では、輸送費が安くつくことに越したことはない。


「それに、冊子が小さければ、余計なことを細々と書かなくて済むしな」


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宣伝文句を変えてみました。が、正直なところあまり自信がありません。

おすすめレビュー等で魅力的な宣伝文句をいただけるとありがたいです・・・

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