第285話 ボトルネック
ある条件で生産しようとした時、何かの要因のために生産に制限がかかる状態のことを、ボトルネックという。
瓶の首が細くなっているために、ボトルの水が一度に出てこれない状態を例えに使っているわけだ。
最も、この世界ではガラス製のボトルは高級品で普及していないので、適当な用語が見つからないので、サラに説明するのには苦労している。
「うーん・・・銀貨は用意できるかもしれないけど、字が書ける人を、そんなにたくさん用意するのとか、絶対無理だよね。なんだっけ、その花瓶の口が細くなってるってやつ」
結局、ボトルの代わりに、少し高級な宿に行くと置いてある花をさすための花瓶で例えてしまった。
形状としては似ているのだが、サラの生活に密着する例えではなかったせいで、あまり記憶に定着しなさそうだ。
これなら、水を入れるための革袋とかに例えたほうが良かっただろうか。
水用の革袋は羊の胃を加工して作られているので、口が狭くなっており、機能的には似ているのだから。
「まあ、課題があるのはいつものことだよ。教会の印の部門を立ち上げた時と話は同じだ。問題が難しい時は、分けて考える。1つ1つなら、解決できない問題じゃない」
「分けて考える・・・例えば?」
「そうだな。まずは、最初の10冊と、残りの1000冊に分けて考える。最終的に1000冊の冊子を用意しなきゃいけないとしても、最初に10冊程度の実物を作ってテストをする。守護の靴を作るときにもやったろう?サンプルを作るんだ。冊子だけでも工夫するところは、たくさんあるはずだ。どんな文章を入れたらいいのか、材質は何にするのか、大きさはどのくらいにするのか。それと、どうやって利益をあげるのか」
「利益には、こだわるのね」
「自分の仕事は、靴の製造だけで精一杯だからね。冊子の制作が儲かる仕事になったら、誰か他の人がやろうと言ってくれるかもしれないだろ?」
儲かっている仕事なら後継者は見つかるし、儲かっていない仕事には後継者は見つからない。
農業も、中小企業の後継者不足も根は同じ。儲からない仕事だから、後継者が見つからないのだ。
逆に言えば、儲かってさえいれば仕事を都合と考える人は必ずいる。
だから事業が儲かる構造を作ることは、最も重要な要素なのだ。
「・・・そうね。それで、どんな冊子にするつもりなの?たぶん、ケンジ以外は、どんな冊子にするか考えてる人っていないと思うの」
サラが最終成果物のイメージを聞いてくる。たしかに、最終形をすり合わせがないまま議論しても、話が進まないので方針の説明を試みる。
「そうだな。まず、安い冊子にしたい。安くしないと1000冊も配れない。1冊作る時の費用を銅貨1枚下げられたら、銅貨1000枚が下がるわけだからな」
「そう考えると、銅貨1枚でも大きいわね」
大量に作るのだから、安くすることは必須の条件である。
普及のためにも、まず安く、を第一の方針として挙げる。
「それから、早く作れるようにしたい。今の見積もりだと、制作に時間がかかりすぎる。そして、早く作れるってことは、安く作れるってことだ。なんぜ、材料費よりも字を写す人に払う人件費がかかってるわけだからな。写す字が少なくなれば、早くなるし安くなる。材料費を安くするよりも、そちらに力を入れるべきだと思う」
「どうして?材料は安ければ安いほうが嬉しいでしょ?」
「そうだなあ。例えば、材料を安くするだけなら羊皮紙なんてやめて、ゴブリンの皮を使う方法もある」
「ええっ!や、やだ。気持ち悪い」
「でも、安いぞ」
「安くてもいや!」
「・・・とまあ、そう言われるわけだ。冒険者のサラでも嫌なんだから、教会に置いてもらえるわけがない」
「例えは気持ち悪いけど、言いたいことはわかる」
低価格品が嬉しくても、粗悪品が好きな人はいないだろう。
そういうことだ。
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