第244話 美人はお化粧が大事

販売方法が課題となったのを機会に、これまで想定していた販売方法を振り返ってみる。


まず、冒険者向けの守護の靴について考えると、街中の需要については剣牙の兵団の靴として認識されていることもあって、ジルボアに直接依頼が来ることが多い。守護の靴は、普通の冒険者にとっては、まだまだ高級品の類なので、一流の大きなクランによる、まとめ買いが多いのだ。


一方で、街の外の冒険者達への輸出は、街間商人達に任せている。彼らが余所の街へ輸送し、その先で販売している。売却額について情報を共有することが契約条件なので取引情報は集まっているが、取引先の名称から判断するには、彼らもどこかの商会に卸しているだけのように見える。


まとめると、会社(うち)では、守護の靴については、いわゆる小売りということをやって来なかった。製造から卸までの商売(ビジネス)を展開してきたと言える。


開拓者の靴についても、基本的には同じ方法を取るために教会に接触し、王国全土に組織を持つ教会に直接卸すことで、支店網を持たずに全土への普及を狙っていたわけだ。


ところが、ここで誤算が起きた。教会内での普及を促すための宣伝行為であったはずの、枢機卿に靴を履いてもらう、という施策が、教会の司祭達の間で右に倣えの行動を誘発したり、教会内の政治的暗闘のとばっちりで、俺が命を狙われる羽目になったり、それらを回避するためにジタバタしていたら、気がつけば、開拓者の靴が高級ブランド品へと認知されていた。

だが、高級ブランド品を売る体制なんて会社に整っていない。


ここで、製造から卸までの商売を中心としてきた会社の体制と、高級ブランド商品を作り出してしまった、という事実の間に葛藤が起きているわけだ。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


という説明を、サラ、アンヌ、キリク、ゴルゴゴにしてみたのだが。


「なんか、あんた本当にややこしい頭してんだな」


というのがキリクの感想であり


「まあ、売るのはケンジに任せるわい」


とだけ、言いおいてゴルゴゴは作業場に逃げ込んでしまった。


サラは腕を組んで懸命に理解しようとしているのだが、高級品を使う人達の生活、というものがイマイチ、ピンと来ないようだ。

まあ、俺も庶民だからピンと来ないのは一緒だが。


そんな中で、アンヌだけは元気だった。


「なんだ、お前、わかってんのかよ」


とキリクに尋ねられた時も


「お金持ってる人に、高いもの高く売るのは当たり前じゃない。せっかく高く売れるモノを、安く売ろうとしてるケンジが変なのよ。それにね、あたしみたいな本当の美人はね、お化粧とドレスと髪をきちんとして、豪勢な馬車で貴族の旦那様にエスコートされるから、その美しさが際立つの。あんたみたいなガサツな男に連れられたんじゃ、女の価値が下がるってもんでしょ?高級品を売るってのは、そういうことよ!」


「誰がガサツだ!」


と、二人は言い合いを始めてしまったが、アンヌの言うことは間違っていない。

高級品を売るには、そのための販売ルートが必要なのだ。

販売の許可はまだ教会から下りていないので、営業機能をどうするか、考えて試行する時間はある。


「まずは、営業を外注できるか、打診だけでもしてみるか」


身辺警護の関係で、俺が直接に出向くのは避けた方が良い。

仕方ないので、羊皮紙に手紙を書いて工房の人間に持たせて送り出す。

そこそこの儲け話の筈なので、利益があると思えば先方から来てくれるはずだ。


だが、しばらくして持たされてきた返信には、用件があるならこちらへ来い、という旨の内容が記されていた。


なるほど、そうくるか。


俺は返信されてきた手紙を読みつつ、唇を歪めた。

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