第66話 先立つモノは金

冒険者用の靴製造株式会社を立ち上げるための構想は固まった。

だが、それはまだ、俺の頭の中の存在に過ぎない。


何より、予算(かね)がない。

この世界に事業計画に金を出してくれる銀行はないから、事業資金は自分で稼ぐしかない。

靴の優先販売権は、俺が靴を生産した実績がないから信用がない。


冒険者(かけだし)を案内して稼いだ金は無駄遣いせず持っているが、まだ始めて3カ月ちょい。

貯まった資金は大銅貨100枚程度しかない。


個人の資産としては、小さな家と畑と家畜を買って引退できる程にはあるが、

事業に使う金としては2桁足りない。


冒険者用の靴に大きな可能性はあるが、一足飛びにジャンプすると失敗する。

事業は1年かけて軌道に乗せればいい。


最初の目標は、冒険者用の靴を100足作り、剣牙の兵団に納入することに定める。

そこまでは具体的な計画もできていたし、コントロールする自信もある。


それができれば手元の資金は倍増するし、生産のノウハウも固まる。

紹介先の秘密を守れる革細工職人の手元だけで生産するので、技術流出のリスクも少ない。

いろいろなトラブルも潰せる。


モノづくりは、構想や宣伝も大事だが、何より実績と実物がモノを言う。


100足の新しい靴を剣牙の兵団のような一流クランが購入した、という実績は必ず靴の評判に良く影響するだろう


そうして時間と金を稼いでいる間に、会社化するための準備を並行して進める。


利権に気が付いて、有象無象が集って来る前に、チームを組んで跳ね返せる体制を作らないといけない。


「行けそうだな」


思わず声が出る。


「何が?」


宿で朝食を取りながら考え事をするのが、すっかり癖になっている。


サラは、勢いよく麦粥を口に運びながら俺を見る。


「今日は、ちょっと剣牙の兵団まで行ってくる。いい革細工職人を紹介してもらうんだ」


ふうん、とサラは気のない返事をする。

まあ、剣牙の兵団には連れて行ってないからな。


「来るか?」


「うん!行く行く!だって、団長さん、すっごい格好いいんでしょ!一度、見てみたかったの!」


間髪入れずに、サラが目を輝かせて返事をしたのが少しだけ面白くなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る