第36話 組織を変えるには

 数十秒の緊張に満ちた沈黙の後、ジルボアは口を開いた。


「・・・ケンジの提案は、ひどく魅力的だ。

 だが、俺達にやり切れるものだろうか?」

   

「簡単にとは言わない。だが、団長(あんた)が諦めない限り、

 必ずできるとも。」


 俺は請け合う。

 ジルボアのような男でさえ、変化を怖れるのか。

 それとも新しいビジョンに目が眩んで、踏み出しかねているのか。

   

 組織のリーダーの孤独は理解できる。

 剣牙の兵団の長ともなれば、俺には想像もできない

 しがらみも多いのだろう。


 それでも、剣牙の兵団には、トップクランとして

 冒険者達の先頭を走って欲しかった。

 それは現状に不安を抱いていた兵団のメンバー達も同じ思いだったろう。

   

「自分は、ケンジの提案(ビジョン)を支持します。」

  

 スイベリーは言った。、


「自分は学がないんで、正直、内容の半分もわかってないかもしれません。

 ただ、貴族の連中に使い走りされる現状を変えられるなら何でもします。

   

 それに、俺たちは剣牙の兵団です。

 もっと強い敵と戦って、もっと強くなりたいんです。」


 それで、ジルボアの腹は固まったようだった。

 

「ケンジ、お前なら、どうやって進めるかについても、

 何か考えはあるのだろう?」


 俺は頷く。


「ああ。だが、時間はかけた方がいいだろう。

 あんたの腹が決まったのなら焦る話でもない。」

 組織の方向性を決めて、それをどのように浸透させるか。


 物語なら、リーダーが格好良く宣言すれば団員達はついてくる。

 だが、現実では、そうはいかない。


 リーダーが変われば組織は変わる。しかし、変化には摩擦が伴う。

 摩擦が大きすぎれば、組織は割れる。

      

 ジルボアの理解力は大したものだが、

 団員達を、その水準で測ってはならない。


 組織を方向転換させるためには、徹底したビジョンの共有と

 全員が理解するだけの時間と手段が必要なのだ。   


 理想的な組織の方向転換とは、ある日、急激に変わることではない。

 小さな変化を積み重ね、気が付いたら大きく変化していた、

 というのが望ましい。


 小さな変化を、どうやって作り出すか。

 このディテールが支援の腕の見せ所だ。

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