第35話 お前はなんなのだ

「あ、それから。」と付け加える。


「貴族出身者を雇った方がいい。三男だか四男だかの行き場

 のない連中がいるだろう。

 そいつらを鍛えて身内にして、貴族に対する人質にするんだ。


 前線で使えなくてもいい。遠隔地の貴族とやり取りするには、

 貴族の文字と文章が書ける書記が必要になる。

 団長(ジルボア)も、読めて理解できるようにならんとな。」


   

「・・・ケンジ、お前は、なんなんだ。」とジルボアに温度の

 下がった声で言われてヒヤリ、とする。


 しまった。少し調子に乗り過ぎたか。


 だが、その心配は杞憂だった。

       

「つまり、剣牙の兵団を騎士団にしよう、ということだな?」


 ジルボアは、本質を掴むのが本当に上手い。

 こいつが貴族階級に生まれていたら、方面軍の指揮官が務まったろう。


 だから、こんな街の傭兵隊長の扱いで終わらせてはいけないのだ。


「そうだ。平時の怪物に対処する専門(スペシャリスト)の騎士団だ。

 戦争がない時も、常に戦場に立つ特別な練度を持つ戦士達だ。

 そのように売り込み、貴族達に認めさせるんだ。

    

 訓練、出陣の手順、装備の統一、凱旋式も騎士団のように行う。

 貴族達に使い走り扱いされないよう、評判を作り上げて盾にするんだ。」


 ジルボアは、少しの間、黙って考えているようだった。

 俺が一気呵成(いっきかせい)に喋った提案の全てが届いているとは限らない。

 それでも、実現性のない施策はなかった筈だ。


 俺は、剣牙の兵団はもっと上に行けると思っているし、

 そのための手助けとなり、予算(かね)も、それほどかからない

 現実的な施策を選んで喋ったつもりだ。

   

 俺が提示した剣牙の兵団の未来を、団長(ジルボア)がどう評価するか。


 俺は、じっと待つことしかできなかった。

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