第37話 まずは歌から

 剣牙の兵団の連中は、冒険者として高い練度を誇っているが、

 学があるわけではない。


 新しいビジョンが、などと会議をしたり、理屈をこねるのは有害無益だ。

 それなら、団長が殴って言うことを聞かせる方がマシだ。


 脳筋どもに、どうやって変化の芽を仕込むか。

 俺は悩んだ末に、最初の一歩を提案する。


「歌だな。酒宴の席で吟遊詩人に唄を作って歌わせよう。


 剣牙の兵団でも、依頼を達成したら酒宴を開くだろう?

    

 その席で剣牙の兵団の精神、勲(いさおし)を称える唄を歌わせる。

 予め話を通して、何曲か歌を作らせる。


 酒宴の席でなら、団員達も、いい気持ちで歌うだろう。


 一番、盛り上がった勇ましい歌を、次の酒宴でも歌う。    

 次の酒宴でも新しい吟遊詩人に唄を作らせよう。

 剣闘士の勝ち抜き戦のようなものだ。

 評判が勝った歌は、次の酒宴でも歌われ続ける。


 これを繰り返して、2月もすれば、団の歌ができあがる。


 それを訓練や、勝利した時に歌うんだ。」

   

 自分たちは何者なのか。自分たちは、どうありたいのか。


 冒険者は、基本的に根無し草だ。

 だから、自分達が何者であるか、という物語を必要としている。

 剣牙の兵団のような一流クランの連中でも、それは同じだ。


 だから、歌う物語を用意してやるのだ。

 現代世界で、どこの軍隊も伝統として軍歌を持っている所以(ゆえん)だ。


 そして、上から押し付けるのではなく、

 酒席を繰り返す中で自発的に選ばせる。

 冒険者って連中は、上から押し付けられることを

 何よりも嫌う連中だからだ。

   

「なるほど、単純に見えて奥が深い。

 冒険者の気質って奴がよくわかってる。

 ケンジ、お前ならうちで副長が務まるぞ。」


 ジルボアは声を上げて笑った。

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