第3話 最初の客から無茶ブリが
「じゃ、あたしがお客の1号ね!」
サラは、勢いよく向かいの席に座った。
後ろにまとめた赤毛が跳ねる。
「そうだな、まあ最初の客だから相談は成果報酬にしとくか。大銅貨1枚・・・は無理か。銅貨3枚でどうだ?」
相場はいろいろだが、大銅貨1枚で2週間ぐらいは暮らせる。銅貨3枚なら2、3日といったところか。
貧乏人から巻き上げてもしかたないからな。
「うーん・・・いいのかな?いいきもする。」
「ま、何もなければ金は取らねえよ。お前に金がないのは知ってる。」
「わかった!じゃ、お願い!」
とりあえず口頭で契約。
契約書を交わしたりはしない。
冒険者(ばか)には字が読めない連中も多いので、契約書は騙(だま)す準備のように見えるらしく、かえって信用されないのだ。
「で、何が困ってるんだ?」
「あたしじゃなくてね、友達のアーチャーなんだけど、やっぱりお金に困ってるの。
矢のお金が、すごくかかるんだけどパーティーは負担してくれないんだって。
ちっとも稼げないから、抜けようか迷ってるって言ってた。」
「問題点は2つだな。
1つめ。サラも困ってた矢の費用。これは鏃をまとめ買いしたらいい。
むしろサラと一緒にまとめ買いしたら、もっと安くなる。
2つめ。冒険にかかった費用分担のルールがない。
まあ、大手になれば出納(すいとう)係がいて、しっかり分担するんだろうけど駆け出し連中には無理だよな。」
「それは、私もわかる。1つめは私の鏃と一緒に買えばいいよね。
2つめは、どうしたらいいの?
私も、矢が高かったとか言ったことあるんだけど、なんか剣士も研ぎ代がかかったとか、魔術師も触媒が高かったとか言って、うやむやになっちゃったんだよね・・・。
私じゃ、相手の言い分が正しいのか高いのかわかんないし。」
「抜けて別のパーティーを探してもいいが、別のパーティーでも付きまとう話だな。そうだな、俺が相場のマニュアルを作ってやるか。」
「そういうの、冒険者ギルドがやってくれるんじゃないの?」
「あんなお役所仕事の素人連中にできるかよ!!」と俺は吐き捨てた。
この世界にも、冒険者ギルドというものはある。
だが、仕事内容は現代の派遣会社の斡旋に近いかもしれない。
依頼を募集し、その仕事ができそうなパーティーに割り振る。
成果の確認をして、支払いをする。
冒険者の登録や抹消(しぼうかくにん)など、人員管理もする。
魔獣素材の買取もする。
しかし、それだけだ。
高位冒険者に対しては、いろいろサポートをするのかもしれないが、一山いくらの駆け出し連中のサポートなぞしない。
ゲームとは違うのだ。
初心者支援はない。農村から無学な食いつめた連中がやって来て、無謀な依頼に挑んで死ぬか、体が不自由になるほどの傷を負って補償もなく、引退する。
1年も続けられる奴は半分もいない。
そういう仕事だ。
素人を相手にした殿様商売、というのが俺の冒険者ギルドへのイメージだ。
だが、マニュアルを作っても、字の読めない連中に配布はできない。
文字通り、絵に描いた餅になるだろう。
文字が読めない食いつめた素人に、どうやって相場感や交渉を教えるか。
なかなか悩むところだ。
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