第6話 少女と化生
――聞いていない。
この世界に、あんな規格外の破壊を撒き散らす手段が存在するなんて、そんな話は聞いたことが無い。――いや、この世界だけじゃなくて、どの世界でも、あんな奇妙な破壊を見たのは初めてだ。
まあ、そもそもぼっちだったから誰かから何か話を聞くなんてことは有り得ないんだけれど、それにしても、長い転生の記憶を
あの力は、いったい何だろうか?――あんな不可思議な兵器は、見たことがない。何もない中空に、突然巨大な燃える岩が出現した。まるで、杖を持った者たちが、それを招来したかの様に思えた。
――
けれども、そんな馬鹿な。無から有を招来する。そんな大それた行為は、もっとずっと文明が進んだ世界ですら、不可能だった。――けれども、もしそれが、この世界では可能なのだとしたら?
人間同士が戦うのは、何も珍しいことじゃない。石器時代の昔から、当たり前の出来事だ。都市一つ、あるいは国家一つを滅ぼす兵器や発明だって、腐るほど存在した。
しかし、それらは
「……これは、確かめざるを……得ないな」
誰に語りかけるともなく、独りごちる。そうだ、僕は確かめなければならない。あの巨大な力の源が、何であるのかを。そして、知らなければならない。無から有を招来する、そんな神の御業とも称するべき偉業が、本当に、過ぎれば朽ちる
目立つ
「――ッ!!――――ッ!!」
まだ遠くに居るうちに、こちらの姿を認めた少女は、破れた鎧と盾もそのままに、何かを叫びながら、それはそれは真剣な面持ちで駆け寄って来る。
「無事だったのですねッ!?――良かった。本当に、良かっ、た……?」
兜を脱ぎ、丁寧に編み込まれた空色の髪を惜しげもなく夕日に晒して、精一杯の笑顔を浮かべる少女。その声色は、生き別れになった兄弟か、でなければ恋人にでも掛けるかのように、親し気だった。――少なくとも、途中までは。
「……ただいま」
「――あなた、いや、お前……は……ッ!!」
ひとまず挨拶を返すと、少女の表情が凍り付く。それまでの親し気な様子はなりを
「……僕だと、分かったみたいだね。……けれども、何故?……今の姿は、君達人間と、寸分も
問い掛けには答えず、少女はただ涙を流す。
血と埃で薄汚れてはいるが、こうして太陽の下で眺めてみると、どうして中々美しい少女だ。絶世の美女――と呼ぶには少々色香が足りないが、容姿だけなら千人に一人、いや、万人に一人の部類に入るだろう。
そんな少女が、夕日に照らされてはらはらと涙を流す様子は、まさに物語の一場面だ。もし、時を止めることが出来るなら、今この瞬間は、これまで味わってきた
――そんな見当違いの感想を抱いて少女の様子を眺めていると、やがて、どうにか我を取り戻したらしい彼女は、さも
「――そうよね、トルキアは囲まれていたのだもの。誰も、逃げられるハズがない」
力なく
「……君は、あの街の出身なの?」
「ええ。――あなたも、トルキアを知っているのね?」
「……いや、今日知ったばかりだよ。……ここで待っていても、多分、街の人は誰も来ないよ?」
「知ってるわ、そんなこと。言われなくても、分かってる。――分かっているけれど、でも……、でも……ッ!」
「……僕には、何も分からないよ。……君たちが、何と戦っているのかも、何故戦っているのかも、全然分からないね。……知っていることを、話して欲しい。……それはきっと、僕にとって、この先必要な情報だ」
「……、…………」
「……沈黙も、また一つの
「――ごめんなさい。今は、誰とも話したくないの」
「……君に、拒否権は無い。……と、言いたい所だけれど……。喋らなければ、殺す――と、脅したとしても。……今の君には、効果が無さそうだね?」
「…………、………………」
「……苦しいなら……。……楽に、してあげようか?」
「………………、……………………」
「……死者を
「――あなたは、何が言いたいの?」
「……君と、取引をしよう。……どんな願いでも良い。一つだけ、僕は君の願いを叶えてあげる。……だから君は、知っている限りのことを、僕に教えて欲しい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます