第7話 願い
幾千年、あるいは幾万年の時を渡る旅人、すなわち転生者である僕は、どんなことでも知っていて、出来ないことなど何もない――なんてことは、勿論ない。何度生まれ変わっても、どの世界にも、不可思議なことが満ちている。
今日、僕はそうした不可思議の中でも、とりわけ大きく、かつ異質なモノと遭遇した。
だとしたら、問わなければならない。問い
「あなたに、私の願いが叶えられる、というの?」
――けれども、その糸口である少女は、
――正直、メンドクサイ。
「……うん、叶えてあげるよ。……人の望むことは大体、出来る積もりだから。……だから、良く考えて、願い事を言うと良い。……でも、願いを叶えるより、僕の質問に答える方が先だ」
詐欺としか思えない口上で、年端もいかぬ少女に語りかける。――いや、
僕の返事を聞いた少女の理知的な
まあ、この反応も致し方ないだろう。今は人の形をしているとはいえ、中身が異形の――
「――そんなことをして貰わなくても、質問には答えます」
けれども少女の返事はあっけなく、そして意外だった。
「……良いのかい?……多分、本当に、大抵の願いは叶うよ?」
「――構いません。私が知っていることは、全てお話します。だから、あなたもどうか、教えて下さい。見てきたのでしょう?――トルキアの最期が、どんな様子だったのかを」
***** ***** ***** ***** *****
少女の名前は、フェリシアと言った。ローレシアとゴンドワナ、二つの大国を繋ぐ馬車の道。その中継地点の一つとして栄えた、城塞の街トルキア。その
ゴンドワナの軍勢によって包囲を受ける
もっとも、当のフェリシアには、ただ逃げる積もりは無かった。包囲の外に出た彼女は、山の向こうにある同胞の街に一刻も早く急を報せ、あわよくば助力を求めようと、不慣れな山道を急いだ。その途中で、
別段、じらす理由はない。トルキアの最期が知りたいとせがむ彼女に、自分が見てきた光景を告げる。涙を
「――そうですか。――ありがとう、ございます。――私は決して、今のお話を忘れません」
「……街が滅びても、その中にいる全ての人が、殺される……とも限らない。……気休めを言うつもりは無いけれど……。……まだ、生きている人も、大勢いるだろうね。……もっとも、死んだ人と、生き残った人と……。……どちらが幸せかは、分からないけれど」
「……さて、今度は、僕の質問に答えて欲しい。……あの、杖を持った男たちは、何者なんだい?」
「あなたの見た人物が、紫の長衣を
「……魔法というのは?」
「――えっ?魔法は、魔法です。――ええっと、ほら、たとえばこんな風に」
そう言うと、彼女は壁に立て掛けていた盾を、手で触れずに動かして見せた。――テレキネシス、と言うのだったっけ、これ。
「……それじゃ、君もボードワンの様に……。……何もない所に、
「もし、そんなことが出来るなら――私は、トルキアから逃げたりしません」
「……しかし、それに近いことは、君にも可能な訳だ。……他には、魔法でどんなことが出来る?」
「遠くにある物を動かしたり、ロウソクに火をつけたり、熟練した術者になると、自分を遠くに動かしたり――どうして、そんなことを知りたがるのですか?」
「……ボードワンは、突然、何もない所に大岩を出現させた。……魔法は、これまでに無い物質を創造することが……つまり、無から有を創り出すことが、出来るのかい?」
「それは――。私には、分かりません。けれども恐らく、ボードワンが使ったのは、大規模な
彼女の発言は、非常に興味深かった。けれども同時に、僕が失望するには十分な内容だった。もしも魔法が、無から有を創造する、神の
――けれども、蓋を開けて見ればこれだ。本当に、下らない。
「……ありがとう。……知りたいことは、もう他にない。……雨季が来るまで、僕はこの洞窟で寝ているとするよ。……質問に、答えてくれた礼だ。……君は、見逃す。……どこへなりと、去ると良い」
期待した分、何だかどっと疲れた。――もう、新しい
形態変化を解き、膨らみかけた植物の華蕾に蛸足を生やした様な、元の不定形の身体に戻る。すると、全方位が万華鏡の様に重なって見える二十四の視界の、それも真ん中に、手を胸に当て、片膝を折り
――いったい、何をしているのだろう。一度は
「……そこを、どいて欲しい。……邪魔だ」
「いいえ、どきません。――お願いです。どうか、私に――いえ、私たちに、力をお貸し下さい」
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