第4話 気紛れ
薄暗い洞窟の中、かつて捕食した人間の記憶を頼りに、たどたどしい言語を操る。五歩の距離を置いて対峙する、仮面の騎士と
「信じられない。お前には、知性があるの?」
「……君こそ?……武装して、……断りも無く人の住居に押し入って来るなんて……。……それが理知的な生物のする事だと言い張るなら……常識というものを、疑うよ?」
出来る限り、警戒させない様に丁寧な口調で話しかけると、返って来たのは、上から目線の
この場所を住居と呼ぶべきか、それとも
「……君は、毒を浴びた。……治療しなければ、死ぬ。……助かりたいかい?」
我ながら、悪役としか思えない
お蔭でほら、折角救いの
彼女からは、依然として凛とした闘気が伝わってくる。毒に冒されてなお闘志を失わないその姿勢は、立派なものだ。けれども、彼女が戦う積もりなら、僕も応戦しない訳にはいなかい。そうなれば結果として、僕は彼女の命を奪う事になるだろう。
こちとら、
いや、でもしかし。良く考えたら、それも少し違うかも知れない。もし本当に助けたいだけなら、有無を言わさず拘束して、頭から
きっと、暇を持て余していたのだと思う。乾季の間中、いや、
物言わぬ動植物ではなく、言葉を操る人間との触れ合い。会話とも言えない単調な遣り取りにすら、不思議と心が躍る。
でも、ほんの少しだけなら、悪くはないかも知れない。たまに触れ合う分には、人間というのも、存外捨てたものではないのかも知れない。
――ならば、結構。この僕に、再びそんな気持ちを抱かせた功績に免じて、君の命は助けてあげよう。君が助かりたいかどうかなんて、この際どうでも良い。僕が助けると決めたから、君は助からなくてはならない。剣と盾で武装して、無断で人の家に上がり込むという
「――断る。人外の誘惑には、屈さない。トルキアの守り人として、人に
彼女からの返答は、半ば予想通り。まあ、ここですんなり首を縦に振られても、それはそれで何を考えているのか分からないから困る。だから、
「……別に、何も対価を要求したりはしない。……死にたくなければ、手遅れにならない内に、血清を飲むと良い」
既に、手足の先が痺れてきたのだろう。剣と盾を支える腕が、小刻みに
「……いや、飛沫を浴びた程度なら、飲まずに患部に塗るだけで良い……かも知れない。……それ以上すると、今度は血清のせいで苦しい思いをする」
剣を支えにして、荒い呼吸を繰り返す女性。こちらの話を聞いているのかいないのか、仮面に隠されたその額からは、大粒の汗が流れている。――良く見れば、唇がもう青紫色だ。これは、急がないと間に合わないかも知れない。
「――どういう積もりだ、化け物?」
「……別に、ただの
じっと相手の出方を待っていると、やがて観念したのか、彼女は
「……その薬は、体内の毒を中和する。……信じるのも、信じないのも勝手だけれど。……もし、運よく助かったら……里に降りて、腕の良い医師に
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