第4話

「次は……というかもう最後だけど大丈夫かな? ――防衛班」


 遂にやって来た。防衛班とはミツヒロ達のことだ。一応リーダーのクニヒロが返事をする。


「え~っと……俺達防衛班は引き続きこの森の浅いところをずっと見張ってここに町から何かやってこないかずっと見張ってました。まぁこの森には猟師とかがたま~にやって来るくらいでその猟師達もここまで奥に来そうな人たちはいなかったから、前に皆で決めた通りに接触を一切してこなかったんですけど――ごめん。接触は……してねぇけど遭遇?交流? まぁ言い方はいいや兎に角、


「大丈夫なのそれ? ていうかその謎の袋が凄い不安なんだけど」


「先に謝っとく。ごめん。マジごめん。元はと言えばヨッシーが連れて来たから悪いんだこいつ人の話聞いてねぇから」


 先程から会話を聞いていたミアーナが空気を読んで袋からにじり出て来るとゴブリンの集会場は騒然となった。


「「「「「女子だ!!!」」」」」」


男と言うのは取り敢えず美人を見たらテンションが上がるものだ。


「え? まじ? 超美人じゃん!!」


「スゲー!! 金髪じゃん!! パツキンじゃん!! 本物のパツキンじゃん!!」


「うわー!!やべー!!やべーよ!!!」


 しかし地球に居た頃も女性と言えば母ちゃんくらいしか接さない男子高校生だったゴブリンたちは次第に戸惑いの空気に包まれていく。


「え? ていうかマジ? 現地の人?」


「現地の人とは接触するなってみんなで決めたよな?」


「またヨッシーだろ? 話聞かねぇもんあいつ」


「というかどうすんの?」


「え? どうすんの? 取り敢えず名前聞く?」


「お前聞けよ」


「嫌だよ、お前聞けよ」


 因みにこの間ミツヒロとクニヒロは敢えて喋らないようにしていた。もう遅いがこいつらと同類の変態と思われても困る。もう手遅れで同類の変態なのは間違いないのだがこれ以上傷口を広げる真似はしたくなかった。

 ヨッシーはただ静かにボーっとしているだけだ。多分はやくチョコレート食べたいとか考えてる。


「あの」


ミアーナが口を開いた。途端にゴブリンたち全員がピタッと黙る。


「私はミアーナという者です。この森を調査しに来たらわけのわからないゴブリンに捕まりました。この場所に来ればちゃんと説明してくれるって言うから来たんだけど、誰か説明してくれない? あなた達は一体……何?」



「ミツヒロ何も説明してないの?」ダイソンが尋ねて来た。


「ヨッシーが捕まえて来たから真っ先に俺たちが喋るの聞かれちゃってるんだよね。だから開放するのもまずいし、こっちから全部説明するのも変だろ、現地人には会わないって決めたんだから。だから何も教えずにここに連れて来た。あ、俺達の中身が人間ってことは分かっているっぽい」


「ごちゃごちゃ言わずにさっさと教えてくれない? ていうかあんた達こんなに沢山居たのね。それになんか立派な建物もいっぱい建てているし、全員喋っているし、それに見た目じゃぱっとわかんないけどもしかして全員オス?」


「オスっていうか全員男です。はい」クニヒロが答えた。


「なに? あんた達なにか呪われてゴブリンにでもなったの? それともゴブリンが賢くなったの?」


「えーっと……面倒くさいな、もういいよミツヒロここまで連れて来たんなら説明してあげなよ。みんなもいいだろ?」ダイソンは頭を掻いてみんなに聞いた。


ゴブリン達のまぁいいんじゃね? 的な空気を読んミツヒロはため息を一つ吐いてミアーナに説明を始めた。


「俺達はこことは違う世界から来た人間です。男子校の……男だけで色々勉強する所から何か突然光に包まれてここに来ました。そして時には何故か全員がゴブリンの姿に変わっていました。それが今から半年ほど前の事です」


「ふーん。何となく予想していた通りね……じゃあ、あなた達の世界じゃ誰でもこんな建物とか家具とか作れる技術持っているの?」


「いやーそれはスキルとか魔法とかでやってますね。勿論元に居た世界の知識を活用していますけど」


「スキルや魔法を全員使えるの?」


「まぁなんかスキルはみんな使えますよ。魔法は半分くらいっすかね」


ふーんと言ってミアーナは顎に手をやり思案顔をした。そして、しばらく考え込んだ後沈黙の中、ゴブリン達を見回した後小さく呟いた。


「……決めたわ」


「はい? なんすか?」


「私ここに住むから」


「は!? 住むの? マジで!! 言っちゃなんだけどここゴブリンの巣だよ!?」


「あんた達が何かとんでもない存在なのは分かった。それを放っておけないでしょ? それにさっき聞いていたわよ? 何か食べ物を作ったって。もしかしてそれも美味しい物じゃないの? 他にもここってあなた達の世界の良い物が結構あるんじゃない? 頂戴よそれ。あとゴブリンなのも全員変態なのも我慢するから私の家も作ってね。ていうか思い出したけどさっき右とか左とか言っていたの誰!?」


「「おうふ!!!」」 


 さっきの下トークの中で特にひどかったのを聞かれていたのを知って変態二人が這いつくばっている。あれはシンバルとノリモトだ。


「ほんとやめた方がいいと思うよああいうの」


ストレートにキモイと言わずに距離を感じる優しさが余計に辛い。当分は寝る前に今の事を思い出してもだえ苦しむだろう。


「兎に角もう決めたから。取り敢えずさっき言ってたの食べてみたいからすぐ持って来てよ」


あまりの横暴にゴブリン達は焦った。もしかしてこの女ヤバい奴なんじゃないかと思い始めた。しかし、下手に口を聞いて変態扱いされるのは嫌だ。


「ええっと……どうしよっか?」ダイソンもどうすればいいか分からないようだ。


ここでずっと黙っていたテルさんが口を開いた。


「ここはいつもの多数決だろう」


「多数決って言ったって何を決めるんだよテルさん」


 通称ダブりのテルさん。留年の為同じ学年ながらこのクラスの年長者であるテルさんにみんなの視線が集まった。ミツヒロがミアーナを集会まで待つように言った時のまとめ役とはリーダーのダイソンではなくテルさんの事だった。


「そりゃあ、そのミアーナさんをここに住まわせるか追い出すかだろ。ここに住むんだったらもてなすし。追い出すんだったらヨッシーに……は駄目だなミツヒロにでも近くの街に縛って連れて行ってもらう。その場合はここまで作ったこの村を捨ててまた別の場所に行かなきゃならんけどな」


「は? 何それ私そんなの困るんですけど?」


「……すまんが俺達の世界じゃ民主主義って言ってな大事な事は皆で決めるんだ。決めた掟は絶対だ。故意に破れば追放だ」


「じゃあヨッシーさんは? さっきの話じゃ私を捕まえた時点で掟に反するんじゃない? 現地の人と会わないんでしょ? ヨッシーさんやミツヒロとかは追放?」


「……ヨッシーはあれだ。いつも掟を破るから例外だ。だから、皆違う場所に住んでいただろう?」


 説明すると長くなるがヨッシーは決まり事を破り過ぎて体よく防衛班という形で皆と離れて森の入り口付近に住んでいる。ミツヒロとクニヒロはその付き添いだった。


「ヨッシーさん可愛そう。あんないい子なのに」


「いい奴なのはみんな知っているがとにかく人の話を聞かねぇんだ、あいつは。今も多分聞いてねぇ。おいヨッシー!!いい子だってよ!良かったな!」


「ん? え? なに?」


「ほらな?」


ヨッシーのあまりのアホさにビミョーな空気が流れた。


「もういいだろダイソン、後は任せた。いつも通りくじ集めて集計してくれ」


「りょーかい。じゃあ各自で枝用意してー。えーっとミアーナさんをここに住まわすならそのまま。追い出すのなら分かりやすく引っ搔いて傷をつけて袋にいれて。数が合わなかったりどっちか分かりにくい枝があったらやり直しだからちゃんとしろよー」


 既に決まっているルーチンを流すのはダイソンの得意分野だ。そしてトラブルが起きた時はテルさんがそれをフォローする。この世界に来る前からこのクラスはそうやって今までうまくやってきていた。


ミアーナさんは不服そうだが黙ってゴブリン達が袋に枝をいれるのを眺めている。


「全く……現地の奴と接触すんのはまだ早いよ。まだこの世界のこと全然分かっていないんだからリスクが大きすぎる」


「大体なんであんな性格の悪い女を住ませなきゃならんのだ。野郎だけで楽しくやって来たじゃねーか」


「クニヒロやミツヒロみたいなエロ魔人は許すだろうが普通は部外者入れるのだってあり得ねーよ」


「はっ!おっぱいぶら下げてりゃなんでも許されるような顔しやがって。俺は騙されねーぞ」


 皆口々に文句を言いながら、そしてミアーナさんをチラ見しながら回って来る袋に枝を入れる。


 黙って入れろや糞ボケが。とミツヒロは思った。


 分かっていないな。おっぱいも良いがあのゴミを見るような上から蔑む眼差しがたまらんのだ。とクニヒロは思った。


 全員が袋に枝を入れた後ダイソンが袋の中を漁りとりえず人数分の枝があるかどうか数えた。


「あ~はいはい。OK、OK」


にやけた顔でダイソンはおもむろに袋をひっくり返した。


「全会一致でミアーナさんをここに住まわせることに決定しました」


床には傷の入っていない枝だけが散らばっていた。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る