第3話

やっと来た集会の日


「じゃあミアーナさん集会に連れていくんでこの袋に入ってくれますか?」


「嫌よ。なんで入らなきゃいけないのよ普通に歩いていくわよ」


「ミアーナさんがそのまま歩いて行ったら集会場に辿り着く前にパニックになりますから。最悪、集会場に辿り着く前に俺達が他の全員からリンチされます」


「それ私関係無くない?」


「そんな……」


「まぁまぁミアーナ様。もしみんなに滞在の許可が下りたら皆の施設使って色々出来ますぜ? 飯だってあっちの食堂の方にはもっといい食材ありますから、我慢してくれたらもっと美味しいの食べられるようになりますよ?」


ミアーナって……ますますクニヒロの下僕っぷりに磨きがかかっている。


「……わかったわよ。入ればいいんでしょ入れば。で? 袋に入った私をどうするの? まさかクニヒロが担ぐなんて言うんじゃないでしょうね?」


「はい、まぁあっしが担がせていただきやす。はい」


「嫌よ。あんた絶対変な所触るもん」


「いや俺、紳士的だって近所のおばちゃん達に評判だったんすよ?」


「黙れ女の子の日」


「さいせん」


「じゃあヨッシーさんお願い。私を最初にここに担いできたから大丈夫でしょ?」


「うん? 俺? りょーかい」


 ヨッシーのあの「りょーかい」の言い方は全く話を聞いていなかった時の「りょーかい」だ。不安が残るが女騎士さんが指名しているんだし早く集会所に向かわないと。ただでさえ俺達は村から一番遠いエリア担当なのだから。


 ヨッシーがミアーナさんを担ぎ俺達は村に出発した。村のある所は俺達が日本から飛ばされたこの広大な森の奥深い場所だ。俺達以外のクラスの連中はそのエリアを中心に開拓、開発、猥談その他諸々を行っている。


 

 森の中を突き進むことおよそ2時間程。ゴブリンの身体能力を駆使してかなりとばしてやって来たおかげで予定の昼前になんとか間に合うことが出来た。

 森の奥深くへ潜ると俺達が切り開いた生活エリアが目の前に現れた。またしばらく見ないうちに建物が増えている。最初は木を組んで作ったログハウスがいくつか並んだ集落のような形から始まったのだが今では四角いコンクリート製の建物が所せましと並んでいる。壁は迷彩色に塗られ、窓にはちゃんとガラスがはまっている。

 村に入ろうとすると、見張り当番であろうシンバルが声を掛けて来た。


「おうヨッシー何それ? また何か美味いやつ?」


「おう! 久しぶりこれはミア「これはやばいぜ!! 今日の集会用のサプライズだ! 楽しみにしておけよ?」


「おお! またヨッシーがなんかやらかしたんか! そりゃやばいな!」


 急いでヨッシーの口をふさいでそそくさと生活エリアの中に入った。ミツヒロはヨッシーの脇を軽く小突いて叱った。


「ばか。お前何でわざわざ袋に入ってもらってるかわかってんのか?」


「そういえば何で? 普通に歩いてくれば良かったじゃん」


「やっぱり話聞いてなかったな、お前」


 分かってはいたが何度説明しても覚えた傍から記憶が蒸発してしまうヨッシーの脳みそに期待してもしょうがない。ミツヒロたちは目的となる集会所へ向かった。


◆ 


 集会所に着くと、もうほとんどの奴が集まっていた。集会場は体育館をイメージして作られた木造の建物だ。一部の奴が元の世界の学校のようにバスケやバドミントン、バレーがしたいと張り切って作った物だが、肝心のボールがちゃんと跳ねる物を作ることが出来ず今ではこうした集会や雨の日にフットサルをするくらいしか使われていない。


 そこに様々な見た目のゴブリン達が床に思い思いの体勢で座っていた。


 ミツヒロ達も空いているスペースに座り込むと先ほど会った見張りのシンバルなども集会所に入って来た。それ以降入って来る奴がいなさそうなのを見て俺らのリーダーのダイソンが立ち上がり声をあげた。因みに何故ダイソンがリーダーかというとクラス委員長だったからである。あと一番のムッツリ高レベル弩変態だからだ。



「はい、では第5回2年3組クラス集会を始めます。一応聞くけど誰か足りない奴いる? またマサシ忘れて来てない?」


「俺、目の前に座ってんのにそれ聞く?」


 よく存在を忘れられて置いてかれるマサシが返事をした。マサシは前回の遠征に参加し途中ではぐれたにも関わらず、二日後に遅れて帰ってくるまでずっと気づかれなかった男だ。


「ああ、素で気がつかなかった。いるんならいいや。じゃあまずは俺達、遠征班から報告を始めます。ここから北に100キロ行って森の端まで辿り着きましたが目的のドラゴン級のモンスターは発見できませんでした。やっぱりあのドラゴンがこの森どころかこの辺り一帯で一番強いモンスターだったっぽいです。でも今回の遠征でなんとカカオやコーヒーに類似する植物を発見しました。これは既に料理班に回してますので続いて料理班報告お願いします」


「え~料理班は今回のカカオから既にチョコレートの制作に成功しています。まぁでも量はないので今日の飯では一人3個までです。因みに保存料的なやつ入れてないので後で食べようとして持ち運ぶと速攻で溶けるんで気をつけて下さい。コーヒーも一応完成はしてます。しかも、タダシがバリスタって言葉を気に入って究極の一杯を求め始めたんで味の方はどんどん改良していきます。その他細かいのは今日の飯の時に確かめてってことで」


「美味いコーヒーってんなら、あれは? 猫かなんかに豆食わせてうんことして出て来た奴のコーヒー」


「あ~なんか発酵が良い感じにされるからうまくなるって奴? それウンコじゃなくて豆が消化されずに出て来るだけだから」


「いやそれウンコ豆じゃん。コーヒーなんて元々ウンコ色なのに更にうんこじゃん」


「それが可愛い女子のウンコ豆だったら?」 


「女子のだったら……う~んでも流石にウンコは無理だわ」


「女子ってんならコーヒーの母乳割り飲みてぇわ」


「あぁそれは俺も飲みてぇわ」


「でも母乳ってそんな美味くないって言わん?」


「どうだろ? 母乳の味なんて知らん――というより忘れたし」


「誰か母乳の味覚えてる奴おらん?」


「というか母乳だったらコーヒーで割らずに直で飲みたいわ」


「は? それなら俺だって飲みたいし」


「じゃあ俺は左でお前は右のね」


「OKそれで行こう」



「サイテー」


 袋の中のミアーナさんの呟きが聞こえた。同感ですけど野郎ばっかりの会話なんてこんなもんですよ? いつもならミツヒロやクニヒロも積極的に猥談に参加しているのだが今は紳士的に黙っている。

 すまんみんな、俺達はこれ以上変態を晒すわけにはいかんのだ。替わりにお前たちの変態がばれてしまうがそれはもう日頃の行いの自業自得だ。せめて今日はマイルドな下ネタに留めてくれ。もう手遅れかもしれないが。ミツヒロは心の中で合掌した。


集会の報告はまだまだ続く。



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