俺たち異世界に飛ばされたってよ~少年は異世界少女の夢を見る~

@mojishowky

第1話俺たち飛ばされたってよ

 とある地方都市河原崎町


 かつて石炭と軍事重工業で栄えていたが、時代の試練によって衰退の下り階段を一段ずつ歩み続けるよくある地方都市だ。


 だがその地方都市でとんでもない大問題に見舞われる事になる。


 事の発端は約一ヶ月前、四月のある日の事だった。


 それは非常に不正確で、周囲が急に真っ暗になって気が付くと世界が変わっていたという人もいれば、光に包まれたと言う人もいる。


 恐らく十人に聞けば十通りの答えが返ってくるだろう。


 まあとにかく分かっている事は、河原崎町が丸ごと異なる世界へ移動していたと言う事だ。


 当然ながら町が転移された直後、町民達みんなが騒然となった。


 しかし元々日本にいた頃から陸の孤島状態で半工半農の町だったのと、ライフラインを含めて自活ができる状況だったため物質的な破綻は免れる事が出来た。


 何より幸運だったのは、代々の町長達が自衛隊誘致に積極的であった事だ。


 自衛隊の協力もあって当面は町の維持運営は可能であろうと判断され、町は平静を取り戻していった。


 おかげで異世界であっても人々の日常は通常通り続いており、世は事も無しとして町は回って行くのだ。


 そんな町の中にある中高一貫『武蔵乃学園』高等部一年の教室で、一人の女子生徒が現国の授業を受けていた。


 その女子生徒はルックス・スタイル共に完璧な造詣で、間違いなく街を歩けば誰もが振り向くレベルな美少女だ。


 授業を進める教師の話を右から左に聞き流しながら、ボーっと窓の外に広がる河原崎町の景色を眺めている。


「おーい鈴谷。鈴谷八重! 今言った所をもう一度言ってみろ」


 ふいに授業を進めていた現国の教師が声を荒げた。


 しかし鈴谷は言い訳するでも反抗するでもなく軽い謝罪の言葉を口にして、またぼーっと外を見ている。


 その態度に教師は叱ろうとするが、彼女の持つ独特な雰囲気に当てられると上げたこぶしを下せなくなるのだった。


「外ばっかり見ていないでちゃんと話を聞け。そんな事じゃ良い大学に入れないぞ」


 結局は教師がよく使う紋切り型の小言でお茶を濁す。


 だが今回の場合は完全に失敗だった。


「大学って……、この世界にあるんですか?」


 教室内がざわっとなる。


 河原崎町に大学は無い訳で、となれば当然この世界に大学は無いだろうと多くの者は推測できるからだ。


 四階校舎の窓からはあまり綺麗とは言えないが、生徒達にとって見慣れた河原崎の町並みが見える。


 だが見慣れた光景の先には、見慣れぬ光景が広がっていた。


 草木があまり生えていない赤茶色の荒野が地平線を作り、一本の大きな濁流の川が流れている以外何も無い。


 ここは確実に日本列島では無いのだ


 それは昼間の景色だけでなく太陽が落ちると見える満点の星空も同じで、日本があった地球とは違う惑星に町が存在いる事を示していた。


 鈴谷は物憂げに窓の外を見ていた。

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