第17話 女二人

「全く、うちの旦那ときたら変なことを言いだすんだから!」

思惟は滅多に飲まない酒を一気に飲み干して、がんとジョッキを机に叩きつける。それはもう、ひびが入りそうなくらいの勢いだ。

「まぁまぁ、それであたいのところに来るのはいい判断だったと思うねぇ。私の手にかかれば、あんたの旦那なんてイチコロよ!」

「そうね……本当に助かったよアカ姐」

「あっはっは!」

アカ姐、もとい思惟の先輩であるアカナは豪快に笑いとばす。片手には焼酎瓶。それを飲み干す姿は、男よりも漢らしい。

「しっかし、こうして家出するとは珍しいじゃないか」

「ま、まぁ……流石に頭にきちゃってさ」

思惟はばつが悪そうに髪をいじる。もじもじと目をそらす姿は、アカナの心のうちに懐かしさをこみ上げさせた。

いつか恋人と喧嘩した時もこうしてあたいのところに愚痴りにきたな、なんて。

付き合い10年、結婚2年、ようやく後輩の身のうちも落ち着いてきたかな、と安心しつつも一抹の寂しさを感じていたが、結局変わらないらしいということに少し安心する。

可愛い後輩は、いつまでたっても可愛いもんだぜ。

と、焼酎をそのまま飲んでいると、ぷるると鳴る電話音。それは、思惟のポケットからだった。

「あ、旦那から電話だ……!」

「へえ、あいつかぁ。ちょいと変わりな」

「え、ああ、はいどうぞ」

アカナはニヤニヤとしながら電話を取り上げると、

「やい旦那ぁ! お前の嫁さん離婚したいって泣いてるゼェ?! ほら、とっとと来ねえとどっかいっちまうぞ!」

と、電話の向こうにいるだろう男に、恐ろしいほどの啖呵をきった。流石の思惟も、それはやりすぎじゃないかというほどに、恐れおののく。

「ふん、これくらい言っておかなきゃ、だめなのさ」

「そ、そうですけれど……」

たははと笑いながら、ケータイを返してもらう。

やはり、こういう強引なところは昔から変わらないなぁ。

思惟はお酒をチビチビと飲みながら、そう懐かしみを覚える。

それに何度救われたか、数え切れないけれど。


ほどなく、旦那は謝りに二人の元へ来た。その姿は、大柄の体に似合わず、子羊のように震えている。

そんな旦那を女二人がかりでいびり倒したのは、流石にやりすぎな光景だったのかもしれない。

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