第7話 戦いの始まり

 もう、時間の感覚は完全に失われた。

 寝て、起きて、また寝る。

 点滴が栄養を与えてくれるので、死ぬ事は無い。

 それだけの生活を、もうどの位繰り返したのだろう。

 ……何一つとしてする気が起こらない。

 もはや、ここを出たいと言う欲求さえ失われ、生かされているだけ。

 それを感じ取ったのか、全身の拘束は解かれ、足だけが壁に繋がれた重い鎖に縛られている。

冷たいコンクリートの床に、申し訳程度にタオルケットが一枚ひいてあり、そこが私の生活スペースだ。

 横になれると言う事に、僅かながらの幸福を感じてしまう自分の心が憎かったが、立ちあがる事に意味もない。

 ……今になれば、めーたんがなぜ「死なないで」と言ったのか理解できる。

 めーたんという希望を失った私には、もはや生き恥をさらしてまで生き続ける意味は無く、死んでしまった方がどれだけ楽かと思う。

 ……だと言うのに、あの「死なないで」が、胸の奥のど真ん中に、深く深く突き刺さっていて、どうしてもそれに逆らえない。

 ……ははっ、まだ、この期に及んで私はめーたんが好きなのか……作られた感情で、私を好きだと言っていただけの彼女の言葉が、こんなにも、命を左右するほどに、意味を持ち続けている。

 でも、それは死を食い止めているに過ぎず、生きる気力を生み出すほどには効力は無いらしい。

 それが結果的に、私を利用する為に生かしている組織の連中にとって都合のいい状況を生み出しているのだから皮肉なものだ。

 生きている、という事実が有り、逆らう気力もなくおとなしく生き続ける。

 ……最高に使いやすい道具じゃないか。

 ガチャン!

 不意の音に、僅かに首を回し、視線を向ける。

 ……どうやら、新しい点滴の投入らしい。

 食事係は二人組で、一人が中に入り、一人が外で銃を構えて待ち構える。

 中に入ってきた男は、やけにビクビクしている。

 ……ああ、こいつは、まだ私が今よりもマシだった頃に、囚われの私を強姦しようとしてきたので返り討ちにしたヤツだ。

 相当酷く痛めつけたので、それ以来私に対する恐怖心があるらしい。

 こいつの恐怖心が伝染したのか、他の警備兵も、そう言う行為をしようとする人間は居なかった。

 それに関してはありがたい。

 正直、相手をするのも面倒だし。

 及び腰で作業を続ける男に、私は何を思ったのか、声をかけた。

「………なあ、めー…教祖様は、どうしてる?」

 なぜそんな事を訊いたのか、答えを聞いてどうしようと言うのか…解らなかったが、聞いてみたいと、思ってしまったのだ。

「……あ?…ふ、ふん、知りたいか?」

「……ああ、知りたいな」

「そうかそうか、なら教えてやろう」

 男は妙に得意げに、上から目線で話し始めた。

 ……以前の腹いせに、思い切り私を見下して自分が優位な立場だとでも思いこみたいのか…?

 ……矮小な男…。

「最近の教祖様は、自ら貢物を要求してくれるようになってなぁ。おかけで教団が潤う潤う。俺ら末端の警備兵までその恩恵を受けられるほどさ。まったく、教祖様と、その恋人様に感謝感謝だよ。きはははは」

「……そうか」

 男の嫌みたっぷりの言葉を私は聞き流す。

 こいつのつまらない自尊心を満たす事に協力するような余裕は今の私には無いし、そもそもつきあっていられない。

「……ちっ、つまんねぇの」

 それが気に入らなかったのか、男は舌打ちをしながら去って行った。

 ………めーたん……やっぱり、私のせいであいつらの言いなりになってるのか……。

 ……そんな事、してくれなくていいのに…。

 私の事なんて、さっさと忘れてくれればいいのに……。

 ……しかし…そうなると、おそらく、外ではめーたんに対する批判も高まっているのではないだろうか。

 今までは、向こうが勝手に貢物を持ってくるだけで、それによって選別が変わることなど無かったからまだ良かったが、自ら貢物を要求となれば話は違ってくる。

 それに、陶松達は、貢物の金額によって結果が変わる位の事を触れまわっていても不思議ではない。

 ……今までくすぶっていた、教団に対する「敵」側の不満はさらに高まり、そのうち大きく発火するかもしれない。

 その時、私の代わりにめーたんをしっかり守ってくれる人間が居るだろうか、悪意の壁はキッチリ発動してくれるだろうか…。

 私はいつの間にか、祈っていた。

 めーたんの安全を、平和を……幸せを。

 ……忘れられないのは、私も同じ…か。

 愛だの恋だのってのは、難儀なもんだなぁ…。

 めーたん……。

 私は久々に、めーたんを想って少しだけ泣いた。



      ・



「敵襲!敵襲――――!!!!」

 辺り一帯に、叫び声と同時にけたたましいサイレンの音が鳴り響く。

 突撃チームが、防弾加工された大型バスで門をぶち破り、そのまま建物内部のロビーにまで突入した!

その中には、暁花の姿も有った。

突入の勢いそのままに走り続けるバスの中から、外へ向かって銃を乱射する。

 ドガガガガガガガガガガッッッ!!!

 虚を突かれた警備兵達は、一人はバスに撥ねられ、一人は銃で撃たれ…次々と倒れて行く。

 だが、あとからあとから湧いてくる警備兵達は、数の力で暁花達を抑え込もうと、跳弾すら気にせずにひたすらに銃を乱射してくる。

「ちっ!このままじゃジリ貧だな…おい!」

 圭次郎が合図をすると、運転手が何かボタンを押した。

 すると、バスの周囲に煙が立ち上がり、敵の視界を遮る。

「出るぞ!」

 煙の中から外へ手りゅう弾を投げつけると、激しい爆音と光が周囲を包む。

 その隙に、半数近くが外へと飛び出す!

 暁花もそこに混じり、最前線へ!

「走れ!」

 圭次郎と暁花を中心にして、その周囲を守るように集団が形成され、そのまま移動する。

「今の時間なら教祖は選別の部屋に居る筈だ!なだれ込め!」

 銃声と銃弾が、豪雨のように降りしきる中、頭を低くして、出来る限りの速度で走る!

「ぐぁぁっっ!!」

 暁花の斜め後方から叫びが聞こえた。

 誰か仲間が被弾したのだ。

「振り返るな!」

 圭次郎の一喝で、暁花は振り向きかけた首を前方に向きなおす。

 今はただ、目標へ向かって走るだけだ…!

 それが出来ないなら、全てが無駄になるのだから!!

 一本のまっすぐな廊下にたどり着く。

 その先が選別の間!

 だが、当然のように警備兵がひしめいていて、簡単には先に進めそうもない。

「一気に突っ込むぞ!」

 しかし、まだ止まれない!

 視線で合図を送ると、後方の一人が廊下に向ってランチャーをぶっぱなす!

 激しい爆発音と、反響する断末魔。

 それに乗じて、一気呵成に前進する。

 僅かに開いた隙間をぬって、暁花が先陣を切る。

 二人の警備兵の間を通り過ぎつつ、その二人を刀で斬りつけ、銃で撃ちぬく!

「………!」

 どくんっ…と暁花の胸が高鳴った。

 初めての実戦で、初めて人を傷つけた。

 必死だったから、どう斬ってどう撃ったのかも判らない。

―――――殺してしまったかもしれない

 そう考えると、昂っていた精神が急速にクールダウンしていくのが感じられた。

 どくどくと心臓が脈を打ち、体が震えそうになるのを抑えるのに必死だ。

「暁花っ!!」

 だが、そこへ響いた圭次郎の声が、意識を引き戻す。

「後悔も懺悔も後でいくらでも出来る!今は今すべきことをしろ!それだけを考えろ!」

 その声に背中を押され、暁花は熱が戻ってくるのを感じた。

 ……そうだ、死んでしまえば、私が今までやってきた全てが無駄になる!

 やってやる!やってやる!

 無関係の人間を巻き込んでも知ったことか!

 教祖を殺すまでは、絶対に止まれないっ!

 それは、暁花の強がりで有り、本心でもあった。

 本気で人を殺せるのか、その自信は無かったが、そんな事で迷っていられる程の余裕もない。

 そんな暁花に出来る事は、自分を騙し、高揚させ、前以外は見ないこと!

 それを魂の芯に置き、ひたすらに走る!

 ほんの一瞬、何かが違っただけであっさりと命が奪われる、奪われ続ける戦場を駆け抜ける暁花と圭次郎達。

 半分以上の仲間を失いながらも、遂に選別の部屋にたどり着く!

 重く大きい扉にプラスチック爆弾で穴を開け、強引に突破!

 中に入ると、薄暗い中、教祖らしき人物が、一人の体格の良い警備兵に守られながら、地下への入口へと体を滑り入れているのが目に入った!

 その瞬間…暁花の全身の血がぶわっ…!と沸き上がる感覚…!

「…………教祖ぉぉぉおおぉぉおぉおおおーーーーーーーーっっ!!!!!」

 有りっけの声で叫びながら、銃を乱射しながら最短距離で近寄る!

 だが、一歩遅く教祖は地下へと潜り込んだ!

「くそっ!」

「逃がしたか!?」

 少し遅れて、圭次郎も追いついてくるが、既に地下への入口は閉じられていた。

 暁花は、入口のあった場所に触れるが、僅かな突起があるだけで、どうすれば開くのか見当もつかない。

「……一緒に居た警備兵には何発か当たったと思うけど……教祖には届かなかったと思う…」

 あと少しと言うところで手が届かなかった悔しさと、自分の「敵」を明確に認識した事で昂る感情が暴れそうだったが、冷静に現状を報告する事でなんとか抑え込む。

「そうか…とりあえず、ここを開ける手段を探そう。そのためには、まずこの部屋を制圧する!いくぞ!」

「………はい!」

 今すぐにでも追いかけたい気分だが、物事には優先順位がある。

 入口を開ける手段を探すにしても、爆弾でふっ飛ばすにしても、そんな事をしている暇と隙を与えてくれるような生易しい敵ではない。

 ともかく、時間を作る為にも今はここを制圧する…!

「うぁぁあぁああぁ!!!」

 暁花は、叫びながら銃を撃つ。

 それが、目的達成に繋がると信じて、今は引き金に手をかける……!



       ・



 地鳴りのような響きで目が覚める。

 ……なんだ?地震…じゃない、これは…!

「敵襲…!」

 間違いない。

 敵が攻め込んできたんだ!

 かすかに聞こえる銃声が、それを証明する。

 思わず立ち上がり、鎖を引きずりながら、少しでも外の様子を確認したくて、出来る限り鉄格子に駆け寄る。

 点滴がガシャガシャと耳障りな音を立てた。

 ……見える範囲の廊下には誰もいない。

 まあそうだろう、敵が攻め込んできたんだ。

こんな、もはや動く気力もないような人間の見張りなどしてる暇が有ったら、迎え撃つために出撃するべきだろう。

「めーたん…!」

 久しぶりに、その名前を口に出した。

 それだけで、愛しさが溢れ出しそうで、少しだけ涙がこぼれた。

 ……けど、私に何が出来る?

 閉じ込められて動けず、武器も無い……そもそも、もうめーたんを守る理由もない…。

 ―――いや、そうじゃない。

 理由なんて関係ない。

 ……でも、でも私は――――!!

 答えの出ない問いが脳内をぐるぐると回る。

 だが、どんなに考えても、答えが出ても出なくても、ここに居る私には何も出来ない。

 それが、現実だ。

 私は、そっと鉄格子から離れて、牢屋の奥の壁に背を預け、そのままずるずると崩れ落ち、座りこむ。

 ……敵がここを制圧して、私を見つけたら、私の処遇はどうなるだろう……。

 まあ、もういいか…。

 死ぬならそれも良い。

 生かされるならそれも良い。

 私には、「私」が無いのだから。

 めーたんに貰った新しい「私」は、もう居ないのだから……私はもう、誰でも無いんだ…。

 ―――かすかに漏れ聞こえてくる、雨音のような銃声と、断末魔の叫び。

 死がとても近いような、遥か遠いような不思議な感覚を味わいながら、ゆっくりと目をつぶる。

 次に目を開けた時に見る景色を夢想しながら、そのまま意識を閉じようと試みる。

 ……だが、それを邪魔するかのような音――今までのように壁や天井越しではない、生の音が耳に入り、意識が覚醒する。

 足音……それも、かなり体格のいい男の足音だ。

 ……だが、どこか違和感と言うか……音が一定ではない気がする。

 これは――――?

 思わず、音につられて目を開けると、鉄格子の向こうに現れたのは…高畑だった。

 一瞬目が合ったが、高畑は無言で、ゆっくりと……牢のカギを開けた。

「……なんのつもりだ?この混乱に乗じて、私を殺すようにでも命令を受けたのか?」

 ありえない話ではない。

 テロリストに殺された、なんて、言い訳としては充分過ぎるし、もしかしたらもうめーたんには新しい「恋人」が居るのかもしれない…。

 ――――自分の想像に、胸が締め付けられる。……バカか私は。

 高畑が、一歩牢の中へと足を踏み入れる。

 ――――だが、そこから動かない。

 牢の入口に仁王立ちになり、こちらを見つめている。

 ……相手の思考が読めず、武器も抵抗する気力も持ち合わせない私は狼狽する他無い。

 この型物の男が、この状況で私に乱暴をしに来た、なんてのは到底考えられない。

 …じゃあ、いったい…?

 まだ遠くからは銃声と叫び声と爆発音が響き渡る中、妙な緊張感が私達を包み込む。

「……出ろ」

 それを打ち破ったのは、高畑のその言葉。

「……なんだって?」

 私の足元に投げつけられたのは、鍵…鎖を外す鍵だった。

「出ろ、と言った。聞こえなかったのか?」

 高畑は、そう言いながら一歩横へずれると、開け放たれた牢の入口が露わになる。

「……どういう事だよ、何で急に?そもそも、アンタなんでこんな所に来てるんだよ、めーたんはどうした?アンタが守ってるんじゃないのか?」

 一度めーたんがここを訪ねた時の警備状況を見ても、私の代わりに主任警備兵をしているのは、おそらく高畑だろう。

「…教祖様は、そこの扉を出て、右に200mほど進んだ部屋に居られる。覚えているか?以前のテロの時に、お前と教祖様が隠れていた地下の部屋だ」

 高畑が指差しているのは、牢屋の前の廊下と、別の廊下を繋ぐドア。

 地下…そうか、連れてこられる時目隠しされていたが、ここはあの地下通路にある部屋の一つなのか……って、ちょっと待て…!

「なんでそんな所にめーたんを一人で置いてくるんだよ!ちゃんと守ってやってくれよ!」

 怒りと疑問を同時にぶつける。

 高畑は、気に食わない奴だが、仕事に対する愚直さだけは評価出来る。

 それが何で…!?

「……だったら、お前が守ってやれ」

 そう言って、後ろ手に持っていたのか、ゼリー状の栄養食品を三つ、こちらに投げて来た。

「落ちた体力をそれでカバーできるとは思えないが、何も食わないよりはだいぶマシな筈だ。部屋へ向かいながら食え」

「……ちょ、ちょっと待ってくれよ。なに言ってんだ?なんで私にそんな…」

 その瞬間、私の喉は言葉を発するのを止めた。

 気付いてしまったのだ、高畑の足元に、血だまりが出来ている事を。

「アンタ…!それ!」

「…下手をうった…自分はもう、教祖様を守れないだろう……そして、お前の他に教祖様を確実に守れるだけの実力者が思い浮かばなかった…それだけの事だ」

 私は言葉を失う。

 突然の事態に、どう行動するべきか、しばらくまともに使っていなかった脳が反応できない。

「隣の部屋に、お前の服と武器一式が置いてある、それを持って行け」

 ……立ちあがる。

 熱が…少しずつ戻ってくる感覚。

 私はまた、めーたんの傍で、めーたんの為に、戦える……いや、戦えるのか?

 本当に私が?

 それに、めーたんは私を……。

 様々な思考が頭の中をかき回し、私は動く事が出来なくなった。

「……どうした?行かないのか?」

 平静を装いつつも、高畑の息が少しずつ荒くなっていくのが解る。

 ……足元の血だまりは広がり、もう限界だろう。

「私は………私は……行けるのか?行って良いのか?」

 自問自答を繰り返し、言葉にも出してみる。

 ―――解らない、私は…私は―――!

「あの時の言葉を、気にしているのか?」

 高畑のその言葉が、明確にあの時の記憶を呼び覚ます。

『心を操って――――』

 慌てて頭を振る。

 いやだ、あんなこと、思い出したくないのに―――。

「馬鹿野郎!ふざけるな!」

 突然の高畑の一喝に、私はビクリと体を震わす。

「操られていたからなんだ!たとえ操作された気持ちでも!想いでも!教祖様は…あの子は、お前を待ってるんだ!」

「…待ってる?めーたんが、私を?」

「そうだ!あの子は、この地下へ逃げて来た時に、真っ先にこの牢屋へ向かおうとした!自分が危険なのに、お前を助けたいって!泣きながらここへ走ったんだ!」

 ドクン…と、心臓が高鳴る。

「たとえあの子の気持ちが操作されたものだとしても、お前の気持ちはどうなんだ!お前の、あの子が好きで、守りたいって思った気持も、全部ウソなのか!」

「……違う、私の気持ちは…!」

「だったら何を迷う!したいようにすればいい!それともお前の想いは、相手も自分を好きじゃなかったら価値が無いのか!本心から自分を好きな相手しか助けたくないなんて……お前はそんなくだらなくてちっぽけな人間なのかよ!」

「違う!私はめーたんが好きだ!その気持ちに嘘は無い!たとえめーたんが…!」

 ……そうだ、たとえめーたんが私を好きじゃなかったとしても、どうして私がめーたんを守らない理由になる?

 どうしてめーたんを好きで居続けたらダメな理由になるんだ!?

「―――――くそぉぉおおぉ!!バカか!バカだ私は!大バカだ!」

 何も迷うことなんてなかったんだ!

 ただ、私のめーたんへのこの想いだけ有れば、それで良かったのに!

「……解ったらさっさと行け。部屋は完全防弾で、一応警備兵も二名配置しているが、敵に見つかったらそう長くは持たない」

 ――――一人で置いてきた訳じゃなかったのか……はは、こいつは本当に…!

 私は、鍵で鎖を外す。

 同時に開放された心と体が疼く。

 今すぐにでも、駆け出したい―――!

「――――じゃあ、行くよ…アンタの治療もしてやりたいけど…」

「…バカを言うな。……お前は信じないかもしれないが、自分はいつだって、あの子を守る為に必要だと思う事を愚直にやってきたつもりだ」

「……知ってるさ」

 そう、感情的な要素さえ排除すれば、高畑の行動には常に信念と一貫性があった。

 それはいつも感じていた事だ。

「……そうか、なら、言うまでもないよな」

「ああ、悪いけど、私はアンタを見捨てるよ」

 その言葉に、高畑はニヤリと笑って、

「それでいい」

 そう呟いた。

「アンタの笑顔、初めて見たよ」

「……そうか…男前だろう?」

「―――私の好みじゃあないけどな」

「ふん、ありがたいことだ」

 そうして、二人で少し笑った。

「……じゃあな……ありがとう」

 それだけ言葉を残し、ゼリーを拾いながら私は外へ出る。

 もう振り返らない。

 隣の倉庫へと向かう途中で、ゼリーのふたを外し、思い切り吸い込む。

一飲み毎に、体に力が漲って来る気がする。

 一飲み毎に、気力が充填されていく気がする。

 気のせいかもしれない。

 ただの錯覚かもしれない。

 それでも私は確かにそう感じていた。

―――――背負ったから。

 今まで殺してきた命達とは違う、別の重さを持つ命を背負ったから。

「………重いなぁ……けど…」

 けど、どこか心地良かった。

 力を貰えている気がした。

 私は、早々に飲み終えたゼリーの空を後ろに投げ捨てると、二本目を口に運ぶ。

「……っ…!さあ、行こうか…愛の為に!」

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