第三章

第6話 世界の変質

 暗い。

 寒い。

 硬い。

……思い出す。

 明るくて、暖かくて、柔らかい朝の目覚めを。

 めーたんが傍に居た、あの頃を。

 ――――ゆっくりと目を開ける。

 だが、当然のようにそこにめーたんはいない。

 目に入るのは鉄格子と、味気ないコンクリートの壁、床、天井。

 薄暗い廊下の灯りだけが、辺りを照らしていた。

「ふ…ははは」

 力無く笑う。

声が反響するが、それは誰にも届かない。

 ………もう、何日経ったのだろう……日の光が届かない地下の牢屋は、私から月日の感覚も奪った。

 おそらくは1・2か月程度だとは思うのだけれど、一年以上は経っているような錯覚さえ覚える。

 その錯覚の原因は、言うまでもない。

 ……めーたんに会いたい…!

 会って、思い切り抱きしめたい……!

 私は、代替行為のように自分の体を強く抱きしめようとするが、それさえ叶わない。

ただ虚しさと、めーたんへの愛しさが募るばかりだ。

 ……くそ…どうしてこんな事に……。

 ――――いや、決まっている。

 私が甘かったのだ。

 私の読みの甘さが作り出した、自業自得――――。

 どんなに悔やんでも悔やみきれない。

 あの日、あの時、私は―――――



 無断外出の買い物から帰って来た私とめーたんが部屋へと帰ろうと廊下を歩いていると、向こうから慌てて駆けて来る人影が見えた。

 メイド服を着ていたが、いつものメイドさんではない。

 とはいえ、見た事はある。

 いつものメイドさんの休日には、変わって私達の世話をしてくれる、いわば第二メイドのユカさんだ。

「教祖様!佳奈恵様!」

 息を切らし、表情は険しく、ただ事ではないとすぐに感じ取れた。

「…どうしたの?」

 そう問いかける私の肩を、走ってきた勢いそのままに掴むと、切れた息が整うのも待たずに、言葉を吐き出す。

「た、大変、なんです…!…っっ…はぁ…あの!サトミちゃんが!サトミちゃんが!!」


 バガンッッッ!!

 思い切り蹴飛ばした両開きのドアは、そのままの勢いで壁にぶつかり、ドアノブが壁に傷を付けたが、そんな事は知ったこっちゃない。

 部屋の中は、学校の教室二つ分程の広さの会議室。

 部屋の奥と右側に、L字型のように机が置かれ、そこに教団幹部がずらりと並んでいた。

 そして、その部屋の左奥の隅には……!

「メイドさん!」

 頑丈な縄で椅子に縛り付けられ、服は乱れ、乱れた服の奥にのぞく綺麗な白い肌には無数の傷、可愛かった顔は赤黒く晴れ上がり見る影もない……そんな姿の、メイドのサトミさんが居た……。

「………っっテメェら…なんて事をっっ!!」

 それは、明らかに拷問を受けた痕。

 メイドさんは、私と、あとからついて来ためーたんに気づき、にこりと笑ってくれたが、いつもの素敵な笑顔には程遠く…。

 それでも、笑ってくれた事実があまりにも申し訳なくて悲しくて、私は立っているのも辛いくらいに全身が震える。

 …怒りと、後悔に震える…。

「おや、お戻りになったようで嬉しい限りです教祖様。しかし困りますなぁ、勝手な事をされては。おかげで、しなくても良い手間をかけてしまいました」

 ずらりと並んだ幹部の中心に、背を向けて椅子に座っている男。

 そいつがゆっくりと椅子ごと振り向きながら、ニヤニヤと厭味ったらしく言葉を吐き出す。

「お前は…!」

 噂は聞いていたが、実際に見るのは初めてだった。

この教団の最高幹部、綾塚 陶松(あやつか とうまつ)……ほとんど人前に出る事はなく、裏側から教団の全権を握っているのがこの男だと言う話だ。

 めーたんの生家の近所に住んでいた男で、いち早く味方と選別され、教団の設立を言い出したのも、そもそもこの陶松だと言う話も有る。

めーたんを除けば、一番高い地位に居るのがこの男だろう。

 そんな男がここに居ると言う事は…!

「……キサマの命令か…!」

 最大級の怒りをこめて、陶松を睨む。

 他の腑抜けた幹部達に、ここまでやる覚悟があるとは思えない。

 陶松の指示である事は、ほぼ確定事項だろう。

「なぜこんな事をした!彼女は関係ないだろ!」

「そうは言われましても…私共も、急に教祖様が居なくなって心配していたのですよ。もしや悪漢にさらわれでもしたのではないかと……しかも主任警備兵様まで一緒に消えたとなれば、一番近い位置で世話をしていた者に事情を訊くのは当然でしょう?」

「――――これが事情を訊くってレベルかよ!こんなもんは拷問じゃねぇか!」

「…仕方が有りませんよ、私共も必死でしたから。しかも、彼女がなかなか話をしてくださらないので、少々ムキになってしまいまして」

 ……ふざけんな…!

 ふざけんなふざけんなふざけんな…!

 これが少々ってレベルかよ…!

 ……だが、怒りが全身の熱を高める中で、一つだけ引っかかった。

「……メイドさん、どうしてですか?もし何か聞かれたら、全部私のせいにして話していいって言ったじゃないですか!」

 話しさえすれば、こいつらがいくらクズでもここまでは…!

「……だ…ごほっ!…だって…お二人の邪魔を、したく、無かったのです…。私が我慢すれば、それだけお二人が長く楽しめるって思ったら……言えませんでしたのです」

 口の中が切れているのだろう、もしかしたら、舌を傷付けられているのかもしれない。話すたびに口から血をこぼしながらも、そう言ったメイドさんの表情は、笑顔だった。

「………ごめんなさい…!ごめんなさい…ごめんなさい…!私達の為に…ごめんなさい…!」

 私には、他に言葉が無かった。

 ただ、涙を流しながらそう言う以外に、何も無かった。

 床に膝をつき、手を付き、ただただ謝る以外しかできなかった…。

「謝るのなら、私達にも謝って欲しいモノですね、主任警備兵。あなたのしたことは重罪ですよ」

「そうだそうだ!」「何を考えているのかね君は!」「少しはわきまえたまえ!」

 失意の底に落ちた私に、最高幹部陶松の声と、それに続く幹部達の声が降り注ぐ。

 ………うるせぇな………うるせぇよ…黙れ、黙れ、黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ……!

「黙れぇぇええぇえぇぇぇぇぇぇぇーーーーーー!!!!!」

 叫んだ。

 人生で、最高の大声で叫んだ。

 その声に、部屋が静まり返る。

 私は、ゆっくりと、立ちあがる。

「―――――認めよう、確かに私は罪を犯した。償っても償えない罪を。……今後一生をその謝罪に使えと言われるのなら、甘んじて受け入れるさ。けどな―――――」

 腰に挿していた銃を取り出し、安全装置を解除する。

「テメェらにも償ってもらうぞ……その薄汚ねぇ命でな!」

 私は銃口を陶松に向けるが、その時には既に間にフルフェイスのヘルメットと防弾チョッキで武装した数人の警備兵が立ちふさがり、サブマシンガンの銃口をこちらに向けていた。

「……どけよ、今の私は抑えが利かないんだ。……あんた達はただ仕事を遂行しているだけだと解ってる。…でも、邪魔するなら容赦なく殺すぞ…!」

 私の本気の言葉に、警備兵達がたじろぐ。

「構わん、撃て」

 そこへ、陶松の声が飛ぶ。

 自分は後ろに隠れておいて好き勝手言ってくれるもんだ。

「し、しかし、主任は教祖様の…」

 警備兵の一人が、戸惑いを口に出す。

「構わん。責任は私が持つ。だが、なるべく殺すなよ」

責任の所在がハッキリした事で、自分の責任が回避される事が後押しになったのか、警備兵達は顔を見合わせたあと、頷いて、銃を構えなおし、引き金に指をかける。

 ……やる気か…さて、横に避けるか上に飛ぶか……私の脳が全ての条件を組み合わせて戦い方を模索していたその時……その声は響いた。

「だめ――――!!」

 誰もが声の主に目を向ける。

 声の主は……めーたん。

 泣いていたのか、目が赤く、頬が濡れていた。

 そんなめーたんが、私に向ってテトテトとかけてくると、ギュっと足に抱きついた。

「めーたん……」

 そっと、頭を撫でる。

 ……そうだ、メイドさんの事で心を痛めているのは私だけじゃない…めーたんだって責任を感じているに違いないんだ。

「……ごめんね、私…」

 心の底から謝罪する。

 なによりもまず、心を痛めためーたんを抱きしめてあげるべきだったのに…。

「……ねぇめーたん…一つだけ、お願いしても良いかな?」

「…なぁに?」

「……メイドさんを助けたいんだけど、一緒に来てくれる?」

「―――うん!」

 私はめーたんと一緒に、メイドさんに向かって歩く。

 教祖様がすぐ傍に居ると言う状況では、警備兵も手が出せない。

 ……だが、一人だけ私達の前に立ち塞がる。

 ……警備室に居た、元軍人の警備室隊長・高畑だった。

「申し訳有りませんが、これ以上はお控えください」

 あくまでも丁寧に、しかし威圧感を伴った制止だ。

「……どけ、上官命令だ」

「…申し訳有りません、さらに上からの命令を受けておりますので、お通しできません」

 ……そうだ、こいつはそう言うヤツだった。

 良いも悪いも無く、上からの命令が絶対。

 ―――全く、優秀な部下だ。

…だが、今は―――

「どけと言っている、これ以上私を怒らせるな」

「出来ません」

「―――――そうか、残念だ。優秀な部下を失いたくは無いんだがな…」

 銃を構え、突き付ける。

 それでも動かない。

 守るべきは己の命ではなく命令…か。

 残念だよ…。

 私は、引き金に指をかけ――――と、その刹那、めーたんが私と高畑の間に割って入る。

 そして、ハッキリと、言葉を口にする。

「どいてください」

 ……それは、この教団における、絶対的な最高位からの指示。

 と同時に、めーたんが一般の警備兵に直接指示を出すなんて、初めての事だった。

 高畑も、一瞬戸惑いの表情を見せ、視線で幹部連中に確認を取る。

 幹部たちも初めて見る状況なだけに戸惑っていたようだが、

「……構わん、教祖様が返ってきた今となっては、そのメイドは用済みだ」

 陶松の鶴の一声によって、教祖様の意志を尊重する決定が出た。

 それを確認し、高畑も横にずれて、頭を下げる。

「申し訳有りませんでした。どうぞお通りください」

「…ありがとう。さ、いこうかえたん」

「…うん」

 どうやら私は、まだ冷静さを取り戻せていないようだ…。

 高畑の人間性を考えれば、犠牲を出すよりもめーたんに命令してもらえばそれで良かった話だったのに…。

 落ち着け……熱くなるのは仕方ないとしても、どこかでクールな部分も残しておかないと、守るという仕事は務まらない…!

 ただ攻めて攻めて相手を殺していれば良かった頃とは違うのだから…。

 私は頭を切り替え、周囲への警戒をしつつも、メイドさんに駆け寄る。

「メイドさん、大丈夫?」

 ……近くで見ると余計に酷い状況だった。

 体中の傷は、切り傷だけではなく、やけどの傷や、刺し傷も有り、拷問のエゲツなさを感じさせる。

「……大丈夫、なのです。デートは、楽しかったの…ですか?」

 言葉を発するたびに、口の端からどろりとした血液が流れ落ちる。

…開いた口からちらりと見えた舌は、所々が削られていたり抉られていたり穴が空いていて……くそ…!そこまでやるかよ…!

「…うん、楽しかったよ、ありがとう…!」

 後悔に胸が焼き尽くされそうになるのをこらえながら、感謝の気持ちを述べる。

 それが、今自分に出来る唯一の事だと思ったから…。

 メイドさんを椅子に縛り付けているロープを外す。

 後ろ手に縛られていた手は、全ての指の骨が折られ、数本の指はさらに爪がはがされていた……。

 痛みと、それに耐えたメイドさんを想像すると、それだけで涙がこぼれてきそうになる。

 それを堪えつつ、お姫様抱っこでメイドさんを運ぶ。

 入口のドアを開けると、そこには先ほど知らせに来てくれたメイドのユカさんが待機してくれていた。

「サトミさん!」

 姿を確認すると慌てて駆け寄ってきて、その惨状に両手で口を押さえて感情をかみ殺す。

「ごめん、医務室までお願いできるかな」

「……はい、一生懸命責任を持って!」

 そうして、サトミさんはユカさんの肩を借りて、たどたどしい歩みでは有ったが、この場を離れて行った。

 ……絶対に後で、ちゃんとした謝罪に行くから待っていてね……!

 本当なら付いていきたいところだけど……私には、まだやる事があるっ!!

 会議室に戻り、後ろ手に扉を閉める。

 ……さて…まずどこから始めようか…。

 私が思考を巡らせていると、めーたんが一歩前に進み、声を上げる。

「なんであんなことをしたの!だれがやらせたの?わたし、ゆるさないから!」

 珍しく、私以外の人間に対して感情を露わにするめーたん。

 今回の出来事が、めーたんの心に与えた影響が、それだけ大きいと言う事だろう。

 そのめーたんの怒りに部屋中がたじろぎ、ざわつく。

 教祖様の怒り、それが教団全ての人間に与える恐怖は計り知れないだろう。

 ……だが、一人だけ、この状況に怯まずに言葉を返す男が居た。

「教祖様、どうかお怒りをお静め下さい」

 やはりそれは、陶松だった。

「あなたが、めいれいしたの?」

「…そうですね、基本的にはここにいる全員の総意では有りますが、私もその中一人である事に間違いはありません」

 ……回りくどい言い方しやがって…。

「どうしてこんなことしたの!」

「お許しを…私どもは、ただただ教祖様が心配だったのです。その気持ちが行き過ぎたと、今では深く反省しております。あのメイドには、全力を持って出来る限りの手厚い治療を受けさせるように指示をさせていただきます」

「……」

 言葉巧みな陶松の返答に、めーたんは言葉を失う。

 海千山千を地で行くような陶松に、めーたんが言葉で勝てるとは思えない。

 ……教団がめーたんに勉強をさせてこなかったのは、こういう時に言いくるめ易くする為だったのだろうと、確信が持てた。

 頭の中で、何かがプツンと一本切れた気がした。

「でも、でも、あんなのひどい!」

 何とか食い下がろうとするめーたん。

「…本当に申し訳有りません。しかし、無礼を承知で申し上げれば、教祖様が無断で外出なされなければ、こちらもあんなことをせずに済んだのです」

 プツン、と二本目。

「…でも、でかけたいっていっても、だめっていうから、だから!」

「……そのことですが、数日前に、今度教祖様が外出したいと仰られたら、外出させて差し上げようと、皆で話し合って決めていたのですよ。ですから、正直に言ってくだされば……」

 三本目。

「うそ!いままでずっとだめだったじゃない!」

「はい、ですから反省いたしまして、教祖様も外出したい事があるだろうと、心を入れ替えた所だったのです……教祖様の信頼を得られていなかったと言う意味ではこちらにも反省すべき部分が多々ありますが、一声かけて頂きさえすればこんな事には……と」

「…そんな…」

 がっくりと、膝を落とし座り込んでしまうめーたん。

 深く責任を感じてしまったのだろう。

 瞳には涙が溜まっている。

「わたしが……ぜんぶわたしがわるいの…?」

 その涙が、溢れた――――。

 …………その瞬間、私の中で、数え切れないほどに何かが切れた。

 ブチギレた…!

「―――いいかげんにしろよテメェ…!」

 足を踏み出す。

 一歩歩くごとに、命を削っているような、そんな感覚。

「くだらねぇ理屈でめーたんを傷つけやがって………テメェの罪は、100億回殺しても殺し足りねぇな…足りねぇよ…!」

 銃口をまっすぐに、陶松に向ける。

 当然のようにその前には警備兵達が立ちはだかるが、知ったこっちゃない。

「めーたん、少しだけ、あっちへ行ってて」

 私はめーたんに、自分から離れるようにお願いする。

「…かえたん?…でも、わたし…」

「……ごめん、私は、今からの自分をあなたに見られたくない。だから、少しだけ向こうで目をつぶっていくれると嬉しい」

 その言葉に何かを感じたのか、無言で移動してくれるめーたん。

 ……ありがとう、ごめんね。

 今から私は……人を殺すよ…!

「……5秒だけ待つ、その間にそこをどかないなら、容赦はしない。……1…2…」

 最後通告を告げられた警備兵達が、私の本気度を感じ取り、一歩後ずさる。

「3……4…」

「構うな!撃て!撃ち殺してしまえ!」

 だが、陶松の一括に弾かれたかのように、5を待たずに、警備兵の銃の引き金がひかれる!

 ドガガガガガガガガッッ!!!

「5…!」

 だが、それも既に予測済み。

 引き金の引かれる直前に、素早く横に飛び、銃弾の雨を避けつつ、狙いを定めて銃弾を放つ!

「ぐあっ!」

 響く警備兵の声。

 防弾チョッキに、防弾加工のフルフェイスヘルメット装備なので、ピンポイントに腕を狙い、無力化させることが最優先だ。

 まず一人両腕を貫いた…!

 数を確認する。

 目の前にあと二人。

 その後方に控えてつつ、陶松を中心に幹部達を守っているのが三人。その中には、あの高畑も居る。

 全部で五人…か、邪魔くせぇ!

 置かれている机を踏み台に高く飛び、上から陶松を狙い撃とうと試みるが、がっちりと警備兵の持つ盾にガードされていて、それは不可能だった。

「ちっ!」

 舌打ちをしつつも、飛び上がった私の動きに遽を突かれて一瞬動きの止まった兵士を一人無力化する。

 あと四人!

 だが、着地点を狙い撃とうと待ち構える警備兵。

 しかしそれは計算済みだ。

 警備兵と私を結んだ直線上の後ろには、めーたんが居る!

 奴らは撃てない!

 ごめんねめーたん、けど、使えるものは全て使って私は勝つ!

 着地と同時に、敵へ向かって真っすぐダッシュ。

 仮に敵がめーたんに気づかずに撃って来ても、その時は自分が壁になる覚悟での突進だったが、弾は発射されていない。

 賭けに勝った私はそのままの勢いで、目の前の敵の手を、至近距離から撃ち潰す!

「うがぁぁぁあぁあ!!」

 返り血と叫び声が頭上から降り注ぐが、構わずそのまま、その警備兵を盾にして、幹部達を守っている三人へと発砲する。

 だが、弾は強化プラスチックの盾に弾かれ、奴らまで届かない。

 しかし、向こうも味方の警備兵を気遣って発砲出来ないでいる。

 どうする…?

 思考を巡らせた一瞬の油断…

 ドガガガガガガガガッッ!

 三人のうちの一人が、サブマシンガンの引き金を引いた!

「なっ!」

 慌てて警備兵の陰に身を隠すが、足に一発だけくらってしまう!

「ぐっ!」

 私は急いで机の陰に身を隠す。

 この机は防弾加工になっているので、一先ずは安心だろう。

……ちっ、幹部連中の用心深さにこっちが救われるとはね…!

 陰から向こうの様子をうかがう。

 撃ったのは……やはり高畑か…。

 先ほど壁にしていた警備兵は、血を流して倒れたまま全く動かない。

 ……防弾チョッキのおかげでかろうじて生きているようだが、それでも衝撃で骨は砕けているだろうし、足や腕は容赦なく貫かれ血が流れ出ている。

 おそらく数分で失血死してしまうだろう。

任務達成のためには仲間の犠牲もいとわない…ってか?

 つくづく大した兵隊だよ高畑警備室隊長…!

 しかし、それが効果的なのも事実で、実際に私は今追い込まれている。

 ……考えろ…ここからの逆転の一手を…!

「どうした!?出てくるがいい掘村佳奈恵!」

 陶松の挑発的な声が響く。

「おとなしく投降するなら、命だけは助けてやろう!まだお前には利用価値があるからな!」

 …利用されるってわかってて出て行く馬鹿が居るかよ。

 だが、このままではジリ貧なのも確か。

 くそ……どうする…?

「出て来ないなら、無理やりにでも出て来たくなるようにしてやろう……おい!お呼びしろ!」

 陶松が、唐突に誰かにそう声をかける。

 ……なんだ?このタイミングで誰を呼ぼうって言うんだ?

 誰かが部屋を出て行く音が聞こえた。

 呼びに行った、と考えるべきだろう。

 ……嫌な予感がする…。

 何か、とてつもなくまずい未来が待ち受けているような、嫌な予感…!

 部屋には沈黙が訪れ、風が窓を叩く音だけが響く。

 ……なにか、大きな事件の前触れをなんとかして知らせようとあがいているような、そんな音だった。

「お呼びしました!」

 再び扉が開く音と同時に、そう声が響く。

 そして、何者かが部屋に入ってくる気配。

 ……この、吐き気がするようなムカつく気配は覚えがある……これは…まさか!

「よう…久しぶりだな、メイカぁ!」

「あうっ!」

 何かを蹴飛ばすような、殴るような音と、めーたんの悲鳴…。

「あんた…勝手に逃げだしたんだって?くだらないことしてんじゃないわよ!私達の為におとなしくしてればいいのよこのクズが!」

 先ほどとは別の、甲高い女の声で紡がれる無神経な言葉…。

 これは……これは絶対に…!

「てめぇら!なにしてやがるっっっ!!!」

 私は我を忘れて、机の陰から立ち上がり、叫ぶ。

 一斉に警備兵達の銃口が向けられるが、私の視線はそんなものを見てはいなかった。

 視線の先には、めーたんの髪をつかみ、身動きを奪ったうえで、その顔や体に暴力をふるう、めーたんの両親の姿が有った。

「……よう、久しいな、恋人さん」

 悪びれた様子もなく、父親がへらへらとそんな言葉を返してきた。

「……どうやら人間としてクズなだけじゃなく、耳まで腐ってるらしいな……私は、何をしてるかと聞いてるんだ……今すぐその手を放せ……でないと、容赦なく殺す…!」

 私は銃口を向ける。

 もちろん目の前には警備兵の壁が有るが、そんなものは知ったこっちゃない。

 ただ今は、あいつらに向ける殺意を他に逸らしたくない。

「……悪いが、まだ死にたくはないんだ…って事で、こういうのはどうだ?」

 父親が、懐から取り出したのは…ナイフ。

 そしてそれを、ゆっくりとめーたんの頬へと当てる。

「ひっ…!」

 めーたんの表情が恐怖で引きつる。

「やめろ!今すぐ放せ!なにしてんだ!」

 自分でも、信じられないくらい急速に冷静さが失われていくのを自覚しつつも、どうしてもそれを止められない。

 くそっ、なんでだ!?なんで悪意の壁は出ないんだ!?あの両親だけが特別なのか!?

「まずはお前が銃をおろせ、でないと、この子の顔に一生消えない傷を付けるぞ?」

「……なっ!そんな事が許される筈ないだろう!教祖様の顔に傷なんか付けて、ただで済むと思ってるのか!」

 それになにより、めーたんの可愛い顔に傷を付けるなんて、絶対に許せない…!

「構わんさ、どうせ信者たちと会う時には、顔を隠してるんだ、傷が付いていることなんて誰も気付きはしないさ……だがお前は違う。「恋人」として常に、傷の付いた顔を見続ける事になるんだ……そしてその度に責任を感じる……辛い日々だろうなぁ…?」

「…くっ…!」

 その通りだ…だが、私が責任を感じるだけならそんなものはいくらでも受け入れよう。

 ……けれど、めーたんにも同じ心の傷を与えるのは我慢ならない。

 めーたんは自分の顔の傷を見るたびに、今日の事を思い出すだろう……そして、楽しかったデートが悲しい記憶に付け替えられる……それは、あまりにも……!

 もう遅いかもしれない。楽しいデートの記憶はもう無くなってしまったかもしれない。

 それでも、さらなる悲しみを与える事だけは絶対に…!

「……わかった、銃を降ろす。だから…やめてくれ…!」

 他に、どんな選択肢があったのだろうか……もしかしたら、起死回生の一手が有ったのかもしれない。

 だが、今の私は、それを思いつかない……考えられない……めーたんの笑顔を、ひたすらに願うだけだ…。

「…よし、降ろすだけじゃない、それを捨てて、手を上げろ」

 もはや私に逆らう気力は無く、銃を投げ捨て、言われるまま手を上げる。

 すると、その時を待っていたかのように陶松が声を上げる。

「確保!身柄を確保しろ!」

 その言葉に従い、警備兵達が私に駆け寄ってきて、体を床に倒され、上から体重をかけられて動きを封じられる。

 もはや見動きの止めない私に、陶松が近付いてくる。

「ふん、この愚か者めが」

 言って、私の顔に蹴りを入れる。

「かえたん!」

 めーたんが心配して駆け寄ろうとしてくれるが、両親にそれを遮られる。

「……お前があいつらを呼んだのか…!」

 最大級の憎悪を込めて、陶松を睨みつける。

「…最初は、居なくなったことに対する罰を与えてもらおうと思っていたのだよ。私達は教祖様に手を出せないが、両親なら可能だしな」

 それは、立場的な事と、壁が出ないという事の両方の意味を込めた意味なのだろう。

 確かに、ナイフを突き付けても壁が出ない。それが両親の特権なのかどうかは解らないが、出ない、という事実だけで十分だった。

「だが、まさかこういう状況で役に立って頂けるとは、さすがご両親様だ」

 その言葉には、欠片も尊敬や敬愛が込められてはいなかったが、あのバカ両親ではこいつの真意に気づく事もないのだろう。

 と、そのバカの片割れ、母親が私に向かってきて……ピンヒールの踵で、私の頭を踏みつける。

「この前はどうも。生意気な恋人さん」

 全体重を尖った踵に乗せられ、踏まれた頭皮が破れて血が流れてくる。

「……どうも。無抵抗の相手にしか攻撃できないくだらない大人さん」

 言わなくても良い厭味が口をついて出た。

 案の定、それに怒った母親は、何度も何度も、ピンヒールの踵が折れるまで私を蹴り続けた。

 めーたんの、「やめて!やめてよおかあさん!」という声が、遠のきかけた意識に、かすかに聞こえる。

 ……ごめんねめーたん、心配させて…。

 私、ダメな恋人だね…。

「まあまあお母様その辺で…この女には生きていてもらわないと困るのですから」

 激高している母親をなだめる陶松。

 ……そう言えば、さっきも言っていたな…利用価値がどうとか…。

「…気になるか?」

 私の思考を読んだように、陶松がいやらしい笑顔で話しかけてくる。

「…………」

「では話してやろう」

 無言の抵抗をどう受け止めたのか、陶松は自ら話し始める。

「我々は、ずっと考えていたのだよ……どうすれば教祖様は、もっと『積極的』になってくれるのか…」

 「積極的」……金集めに、って事か…。

「だが、教祖様はなかなか積極的になって頂けず、我らの願いも聞き入れてはくれない……かといって、直接的に言う事を聞かせるのも難しい……ではどうすればいいか?」

 ………直接的では難しい…?

 ―――――――――まさか…!?


「―――そう、『間接的』に行こうという結論に至ったのだよ、幸い―――『恋人』と言う、弱点が出来た事だし……な」


「……なん…だと?」

「我々はこれから君を幽閉し、教祖様に素直になってもらうための、餌にさせてもらう。……くっくっくっ…恋人の命と引き換えなら、教祖様はさぞ素直に言う事を聞いて頂けるのだろうなぁ…!」

「――――――――キサマッッ!!」

 立ちあがろうとする私の体を、警備兵が再び全力で床に押し付ける。

「殺せ!私を殺せ!めーたんの害になる位なら、私の命なんてゴミ屑だ!」

「いやいや、ゴミ屑なものか…むしろ、今までがゴミ屑で、これからは、どんな高級な宝石にも勝るのだよ…!」

 そして、さらに叫ぼうとした私の口に、靴のつま先を差し入れて来る。

「もが…!むがぁぁーーー!」

 声を封じられると同時に、舌を噛んでの自決も封じられた形だ。

 ……くそっ…!

 くそぉぉおぉおぉぉぉおーーーーー!!!

「今まで散々君を邪魔だと思っていたが……これからは、存分に役立ってもらうぞ…!」

 その、悪意と、いやらしい愉悦に満ちた表情と声に、怒りと絶望が私を包む。

 最後に見ためーたんの表情は、とても悲しそうな泣き顔だった。

 ……めーたん、どうか、笑顔でいてね…。

 それだけが、私の望みなんだから――――



 気が付くと、私は涙を流していた。

 ……あの日の事は、何度思い出しても、私の心を後悔と怒りと悲しみで満たす。

 もう少し、想像を廻らせていればこんな事には…!

 私の失策で、陶松には恰好のチャンスを与えてしまった。

 教祖様を無断で連れ出した罪での幽閉……理由としては十分なのだろう。

 ………この思考も、何度ループした事か…。

 ここへ来てから毎日のように同じ後悔を繰り返し、悔しさに胸を焼かれる。

 何度も、死んでしまおうかと思った。

 だが、それも予想済みだったのだろう、固定された椅子に手足を縛られ、舌を噛み切らないように特殊な器具で口を塞がれ、死を選ぶ事も叶わない環境を作られている。

 食事も、最初は器具を付けたままでも摂取できるゼリー状の栄養食品を口に流し込まれていたのだが、飲みこむことを拒否し続けると、点滴で無理やり栄養をとらされ、生かされ続けた。

 ……私には、もはや自らの命を自由にする権利すら無い。

 食べる事も、話す事も、動く事も出来ず。

 ただ見て、聞くだけ。

 しかしその視界は、意味のある者を映しはしないし、その耳は、価値のある言葉を拾いはしない。

 本当に無為に。

 生かされている。

 眠って、起きて、たまに排せつをする。

 それだけだ。

 椅子がトイレにもなっているのが一応の救いと言うかなんと言うか……トイレ、とは言っても、単純に椅子の真ん中に下水道まで続いてる筒状の穴があいているだけだが…まあ、向こうが掃除を嫌がったおかげで、こちらとしても、垂れ流したモノを他人に処理をされるという屈辱を受けずに済むのは、ありがたいと言えばありがたい。

 ……その関係で、下半身だけ衣服を付けていないのも、最初は羞恥があったが、もう慣れた。

 たまにゲスな男が来て、ゲスな言葉を吐き、ゲスな行為をしていくが、私は座った状態で足を固定されていて、それを解くのは厳しく禁じられているらしいので最後の一線は守れているから、まあ好きにしたらいい。

 ……けど、こんな姿、めーたんには見られたくないなぁ……。

 そんな事を考えていると、周囲に耳慣れない音が響いた。

 ……コッコッコッ…。

 ……なんだ?足音が……しかも、かなり立場の高い人間の、高級な靴の音だと、音と歩き方で分かる。

 珍しい……警備兵と食事係以外の人間が来るのは初めてだな…。

 コッ…。

 音は、私の牢の前で止まる。

 顔を上げ視線を向けると、そこに居たのは幹部の一人だった。

「……あんおよおあ」

 何の用だ、と言おうとしたが、器具のせいでまともに喋れないし、久々の発声だったので、ノドも舌もまともに動いた気がしない。

 それでも意味を感じ取ったのか、それとも最初から言う事が決まっていたのか、幹部は言葉を発した。

「これから、教祖様がここにお越しになる。衣服を整えてお迎えする事を許可しよう」

 ……なんだって?

 めーたんが、ここに来る?

 めーたんに…会える!

 あまりに突然降ってわいた幸福に、私は混乱と同時に疑念を抱く。

 ……なぜ会わせる?

 直接会わせなくても、カメラなどで私の無事を確認させれば、脅迫としては十分効果的だろうに…。

 その私の思考を読み取ったかのように、幹部は語る。

「教祖様から特別なお願いがあってな、ありがたく思うんだな」

 ……特別なお願い…?

 普通に会いたいと言って会わせるような奴ら…陶松じゃない…なにか、一度会わせるのと引き換えに条件を出したのだろう…法外な条件を……めーたん…!

 おそらく相当無茶な条件だろうに、私に会うためにそれを呑んでくれためーたんを想うと、再び涙がこぼれてくる。

 それでも、会えると思うと無条件に胸が震える。高鳴る。

 私は、こんな環境でも私の恋心が死んでいなかった事が、少し嬉しかった。

 幹部が合図をすると、数人のメイドさんが怖々とした表情で入ってきて、私の拘束を解きつつ、濡れタオルで体を拭いてくれたり、髪をとかしてくれたり、衣服を着せてくれたりした。

 ……ここで兵士ではなくメイドさんを使ったのは、決して私に対する気遣いなどではなく、兵士よりもメイドさんには手が出しづらいという計算だろう。

 メイドさん達が入ってきた扉には外から鍵がかけられ、彼女達も鍵は持たされていない、教団側からすれば、仮に私が暴れて、結果殺されても、人質にされても、あっさり見棄てられるような存在だという事なのだろう……。

 それを理解したうえで暴れる様な無意味な事を私はしない。したくない。

 おとなしくその奉仕を受け入れると、ほんの十分ほどで私は見違えるほどに綺麗に整った。

 髪を整え、上着はワイシャツに、下はレディーススーツのパンツという簡単な衣装ではあるが、それでも外見が整うと、心にもハリが出るような気がするから不思議なものだ。

 久々に衣服に覆われた下半身は少し違和感を感じるが、やっぱりどこか安心する。

 ……と、先ほどとは別の足音が近づいてくる。

 ――――ああ、足音だけでもすぐに判る。

 めーたん…!

 めーたんに、会える…!

 私は耐えきれずに、鉄格子に駆け寄り、音のする方へ出来る限りの視線を送る。

 ……………居た!

「めーたん!」

 思わず声が出ていた。

 感情がそのまま漏れたような、自分でも笑ってしまうくらいに、愛しさをこめた声が。

「…かえたん!」

 私の声に気づき、少し不安そうな表情で歩いていためーたんが、弾かれたように笑顔になり、私に駆け寄ってくる!

「めーたん!」

「かえたん!」

 二人とも、一秒でも早く相手を迎え入れようと、思い切り手を伸ばす。

 めーたん、めーたん、めーたん…!!

 やっと、やっと抱きしめられる!

 たったの一か月程度だけれど、数え切れないくらい夢に見たよ…!

 眠って、目を覚ました時に、めーたんのぬくもりが無いのが寂しくて、何度も泣いたよ…!

 だからめーたん、今だけでもいい、思いっきり抱きしめさせて―――――

 だが―――――手が、もう数センチで触れるというその瞬間、めーたんの動きが止まった……いや、止められた。

「申し訳有りませんが、接触は許可されておりませんのでご遠慮ください」

 めーたんと私の前に割って入ったのは、……高畑。

 またお前か……!

「でも、せっかくあえたのに…!」

「すいません、けれど、そう言うお約束だったのではありませんか?」

「そうだけど、でも…」

「申し訳有りません、許可できません」

 何とか食い下がろうとするめーたんだが、高畑はそれをバッサリ切り捨てる。

 ……今すぐにでも、暴れて叫び回りたい衝動が湧きあがるが、そんな事をしたらこの僅かな再会すら中止になってしまうかもしれない……そう思い、鉄格子を強く強く握り、なんとか衝動を抑える。

「……わかった…おはなしはしてもいい?」

「はい、どうぞ」

 高畑はスッ…と横にずれ、めーたんの全身が私の前に現れる。

「めーたん…!」

 私は思わず手を伸ばしそうになるが、高畑がいつでも割って入れる位置と体制を保っているのに気付き自重する。

「…かえたん、だいじょうぶ?ひどいことされてない?」

 久々に見るめーたんの顔、声……それだけで私は全てが許されたような、妙な錯覚を抱きそうになる。

「うん、大丈夫だよ」

 ……普段の扱いを考えれば、決して大丈夫ではないのだが、そんな事を正直に言う意味は無い。

「そう、よかった!」

 めーたんの笑顔……これを守ること、それだけが私の生きている意味だ。

「…めーたんこそ大丈夫?ちょっと痩せたんじゃない?」

「…うん、ちょっとね…かえたんにあえないから、ひとりでごはんたべるのがさみしくて…」

 私は、めーたんが二人で食事をする事にこだわっていたのを思い出した。

 ―――めーたんは他人と食事をする機会がほとんど無かったのだろう。

 両親はあんな感じだし、仲のいい友達が居る訳じゃない。

 きっと、皆でご飯を食べながらワイワイと会話をするような、そんな、普通なら当たり前の日常を、恋い焦がれるほどに求めていたのだと、今ならそれが理解できる。

「……ごめんね…」

 だからこそ、私に言えるのは謝罪の言葉しかなかった。

「…ううん、いいの。それよりも、わたし、かえたんに はなしたいことがいっぱいいっぱいあるんだよ?」

「…なぁに?聞かせてほしいな」

「あのね、あのね、わたしね、あ………」

 ―――――――ふと、それは何の前触れもなく、唐突に訪れた。

 一瞬、本当に一瞬だった、気付いたその時にはもう、空気が変わっていた。

 私はその異質さに、思わず後方へと飛び距離をとった。

 この私が、距離をとった。

 ―――その、異様な気配を発している存在から。

 ――――めーたんから―――。

 …………なん…だ?

 先ほどまでの無邪気な笑顔は欠片ほども窺えず、まるで感情の見えない無表情。

 目に光は無く、力は無く、まるで、魂がどこかへ行ってしまったような、そんな錯覚さえ覚える。

「…めーたん?」

 名前を呼ぶが、反応は無い。

 本当にそこにめーたんが居るのかどうかさえ、確信を持って断言出来なくなっていく。

 ――――この感覚……どこか、覚えがある。

 これは……

「……余計な事をしてくれたものだな、人間」

「―――――!?!?!?」

 低い声。

 どこから発せられたのかと、辺りを見回したくなるが……それは間違いなく、めーたんから発せられた声だった。

「……めーたん?」

「何の為にキサマをこの娘の傍に置いたと思っているのだ」

 確かにめーたんの声では有るのだが、放つ空気が違い過ぎる。

……全く温度を感じないこの雰囲気…そうだ、これは―――選別の時の――。

「お前、何者だ?何を言っている?」

 私だけではなく、周りの警備兵や、高畑もこの空気を感じ、戸惑い、どう行動すべきか迷っているようだ。

「何者?何者と聞くか……ふむ、そうさなぁ……お前らの概念で言うなれば―――神、と言ったところか」

「…神…だと?」

 何を言っている?めーたんは、いや…こいつは何を言っている?

「まあ、実際には少し違うが、キサマらよりも圧倒的に優れた能力を持ち、絶対的な存在として降臨し得ると言う意味では、神という表現が最も当てはまり易いと言えるだろう」

「……解り易く喋れよ」

「すまんな、これ以上は上手く言えんのだ。そもそも我を正確に表す概念がこの世界に存在しないからな」

 自称神は、そう言ってにやりと笑う。

 ……ちっ、めーたんの顔で、そんな汚ねぇ笑い方するなよ…!

「……まあ、あんたが神だろうがなんだろうがどうでもいい、だから、とっとと帰れ。私はめーたんに会いたいんだよ…!」

 それは私の怒りで戸惑いで強がりで本心だった。

 私のめーたんを返せ。

「そんなにこの娘が愛しいか?くかかか、人間とは愚かよなぁ、それが作られた感情とも知らずに、命さえ懸けよる」

「……どういうことだ?」

 作られた、感情?

「……この娘はな、我の言葉と意志を人類に伝える為に選ばれた、いうなれば人形よ」

 めーたんの体を借りた自称神は、自分を親指で指し示しながら、そう言った。

「我が現世に表れるには、もうしばし時間がかかる。だからして、その時の為の下準備の為に、敵と味方を選別し、世界を支配しやすくさせる存在。それがこの娘だ」

 ……この話を、現実味のないバカな話…もしくは、めーたんが考え付いたおとぎ話や遊びだと考える事も出来る。

 ――――だが、私はずっと思っていたじゃないか……あの人体消失を、本当にめーたんがやっているのか…って。

 そもそも、人体消失現象自体が、どう考えても人知の及ばない現象なのだ。

 何か、人を超えた存在が行っていたと言われた方が、むしろしっくりくる…納得できるんじゃないだろうか…。

 そう思ってしまったら、こいつの言葉を一蹴に伏す事はとても出来ない。

「……理解したかな?…でだ、色々と試した結果、幼い女、なおかつ純潔である事が、我の力を伝えやすい要素だと理解できた。そこで白羽の矢が立ったのが、この娘。…そして―――お前だ」

「……私が?」

「そうだ、色々と敵が増えて来たのでな、常に傍に居て、この娘を守る存在が必要だった、そこで、周囲で一番強い女を選んだ。男を傍に置けば、何か間違いが起こって純潔を奪われる可能性もあるだろう?」

 めーたんが男に…!想像するだけで吐き気がする。ってか、その辺は教団の連中と考える事は同じだな……自称神も程度が知れる。

 なにより―――

「……そんなのお前がどうにかすればいいだろう?」

 町一つ人間を消せる存在が、そんなものを恐れるなんてどうかしている。

「それがそうもいかんのだ。…そうだな、水道を想像してみろ、蛇口を捻り水を出すのは簡単だし、大量に捻れば大量の水が出る。だが、ほんの僅か捻って水を一滴だけ出せ、と言われれば、これはなかなかに難儀だ。…理解できたかな?」

 ……なるほど、つまり、人一人だけを消すのは難しい…という事か。

 それは同時に、この組織が、こいつにとって都合の良い存在であると言う事だ。

いちいち力を行使しなくても、めーたんを守ってくれる環境が有って、しかも、実際に守っている警備兵達は未選別の人間……何かが起こる度に、力のセーブが出来ずにその人間たちも消していては、守り手が居なくなってしまう……と。

「意外と万能じゃないんだな、神ってのは」

「まあ、そういう事だ」

 ……嫌味をあっさり流された。

 余裕たっぷりじゃねぇかこの神めが。

「……で?」

「…で?とは?」

「とぼけるなよ、作られた感情とかなんとか言ってただろ?」

「ああ、その話か…くくく、相当気になると見える。簡単な話よ。ボディーガードに丁度良いお前を傍に置こうにも、この娘がお前を嫌って、近くに置きたがらなければ台無しだ。そこで、少し操作したのよ」

 操作……操作…?

 ―――――いやだ、いやだ、とてつもなく嫌な予感がする。

 私には、めーたんしかいないんだ。

 めーたんだけが全てなんだ。

 めーたんが私を好きで、私がめーたんを好きで、それだけが私を支えてるんだ。

 だから、だから―――やめてくれ、その先を言うのは、やめてくれ――――。


「この娘が、キサマを好きになるように、心をいじった」


 ………………………………………………………………………………うそだ。


「不思議に思わなかったか?いきなり恋人などと言われ、好きだ好きだと寄り添ってくるのを少しも疑わなかったか?」

 それは、でも、けど、あんなに、笑顔で、可愛くて、愛おしくて―――。

「全ては我の仕組んだことよ。まあ、少し加減が難しくて恋心にまで至ってしまった事と、キサマの方まで娘に惚れたのは計算外だったがな。…くくく、人間とは面白いモノよのぅ、子孫も残せぬメス同士で有りながら、そこに愛が芽生えるか、くかかかか!」

 あれが、全部、作られた嘘…だったの?

 私が拠り所にしてきた感情は何だったの?

 私は何のために、今こんな事になっている?

 めーたんが、めーたんの……めーたん…。

「少し中身をいじっただけで愛だの恋だのと…!所詮人間など、その場の心地良さ、快楽、悦楽、享楽に身をやつすことを最上の幸福と考える下等な生き物だと言う事だ!」

 …私を支えていたものが、根元から…いや、地盤から崩れて行くような、そんな感覚に包まれる。

 …………こいつが全て嘘を言っているだけだと、そう思うべきなのだと思う。

 いきなり現れて、そんな事を言って、それで私とめーたんの絆が壊れるなんて、そんな事有る筈がない。

 有る筈がない……のだけれど、こいつの言葉を否定しきれない自分が居て、それが死ぬほど悔しい。

 私の頭を、数々の思い出がよぎる。

 ……そうだ、あの時めーたんはハッキリ言っていた。

 恋人宣言の後、集まった幹部連中の、「なぜ私が恋人なのか」と言う質問に対して、「わかんない」―――と。

 それが全てなんじゃないのか?

 それまでまともに顔を見た事も無かった私を、いきなり好きになるなんて、いくらなんでもそんな……一目惚れ…そう結論付けるのは、あまりに浅はかじゃないか―――。

 全身の力が抜けていく。

 もう、何を信じていいのか解らない。

 ただ一つ、めーたんへの想いが、めーたんのとの愛だけが私にとって真実だった。

 それが崩れたら、私は何を信じて生きたらいいの……?

 揺れる。

 世界が揺れる。

 私の世界が、揺れて壊れる…。

「ふん、理解したか人間。そのうち、お前以上に適役を見つけたら、また心を操作して、そいつを傍に置く。それまでは、お前を好きなままにしておいてやろう。慈悲、というヤツだ。神っぽいだろう?くかかか」

 もう、言葉はほとんど頭に入らない。

 耳からは入ってきているが、それだけだ。

「…ッ…!そろそろ限界のようだ、ここまで完全に意識と体を支配するには、まだちぃと難しいようだ……内部からの抵抗もあるしな。では、またいつか会うことも有るだろう。その時までに、ようく身の程をわきまえておけよ、人間ども」

 自称神は、私だけでなく、周囲の警備兵やメイドさん達にもその言葉を向けているようだった。

 本格的に、人間世界の征服を始めるという宣戦布告……のようなモノだと、そう感じた。

「では、さらばだ………っめ!だめだめだめだめだめだめ―――!」

 出て来た時と同じように唐突に、空気が元に戻った。

 と同時に、めーたんの声。

 いつもの、めーたんの声。

 一瞬、条件反射的に心が躍りめーたんの傍へと駆けだしそうになるが、先ほどのアイツの言葉が脳裏をよぎり、足を止める。

「…かえたん!ちがうよ!ぜったいちがうんだから!わたし、ずっとやめてやめてって!だめだめっていってたんだから!…いってたのに!」

 ……どうやら、アイツに支配されている間もめーたんは意識が有ったらしい。

 ……ありがとうめーたん、そう言ってくれて、少し救われた気がするよ…。

 ――――でも、もう、ダメだよ…。

 あんな話を聞いちゃったら、もう前みたいに無条件にめーたんを愛せない…!

 ―――――それが、あまりにも悲しくて、私は両手足を床に付けて、深くうなだれる。

 ……気づくと、両の瞳からは涙が流れていた。

 ぽろぽろぽろぽろと、後から後から流れてきて、もう止められない。

「…っ…う…うぅ……く…うぁぁああぁ…!」

 自分の声が、地下の牢屋と廊下に響いて反響する。

 あぁ…恥ずかしいなぁ、情けないなぁ…生きるの死ぬのって世界で生きて来た私が、たかが一つの恋が破れた事がこんなに悲しくて、みっともなく泣きじゃくるなんて。

 でも、どうしても止まらないんだ…!

 心が、体が、涙を止めてくれないんだ。

 ……もう、どうしていいか分からないよ…。

「かえたん…」

「……申し訳有りません教祖様、そろそろお時間です」

 まだ何か、話しかけようとしていためーたんを、高畑が横から止める。

「でも・・・!」

「約束の時間ですので…すいません」

「…………わかった」

 めーたんは何か言葉を吐き出そうと口をパクパクさせていたが、何も言葉が浮かばなかったのか、うなだれて頷いた。

「……じゃあね、かえたん。またくるね。ぜったい、ぜったいだよ…!」

 悲しそうなめーたんのその言葉に、私は返事をする事が出来なかった。

 どう返事をしていいのか、分からなかった。

「……………」

 その私の様子を見て、めーたんは無言で、私に背中を向け、歩き始めた。

 私の視界から、めーたんが消えて行く。

 その事が、まだこんなにも苦しい自分が、酷く道化に思えた。

 コツ、コツ、コツ……定期的な足音が、少しずつ遠ざかって行く。

 それに茫然と傾けていた私の耳が、変化を感じ取る。

「あっ!教祖様!」

 その高畑の声と同時に、こちらに近づいてくる、テンポの速い足音。

 ………めーたん?

 私が不思議に思って顔を上げると、それと同時に、駆け寄ってきためーたんの手が、鉄格子を掴んで、ガシャン!と音を立てた。

「…はぁ、はぁ…はぁ…あの、あのね!かえたん!」

 息を切らして、必死の形相でこちらを見つめるめーたん。

 ……こんなめーたんは初めて見る…。

「…っ…!ひとつだけ、ぜったいにやくそくして!…かえたん、しなないで!ぜったいぜったいしなないでね!」

「……めーたん?」

 なぜ、めーたんがそんな事を言うのか、理解できなかった。

 今の私は、死を選ぶという選択肢すらも浮かばない程に、からっぽだったから。

「教祖様!困ります!さぁ、行きますよ」

 今度こそ、高畑に連れられてめーたんが去っていく。

 去り際に、聞こえるか聞こえないか程度の小さな声で、言っていた気がする。

「……だいすき」って――――。



      ・・・・・・・・・・・・・



 朝……こんなにも朝日が暖かく、待ち遠しいと思ったのはいつ以来だろう、いや、初めてかもしれない。

 そんな感慨を胸に抱きながら、暁花は目を覚ました。

 布団から体を起こし、背伸びをする。

 少し肌寒い空気が、眠気を体内から運び出してくれるような感覚。

 窓をあけ、森と山しか見えない風景を眺めながら、風を感じる。

 少し強い風が、薄着の体を通り抜け、すっかり伸びきった髪を揺らす。

 この半年放置していた髪は、いつの間にか腿の辺りまで伸びたが、さらさらとした美しさとは程遠く、指ですくとキシキシと軋むが、今の暁花にはそれすらも心地良かった。

 ゆっくり部屋のドアをあけ、廊下を歩き、お風呂場へ。

 寝間着代わりのTシャツとショートパンツ、そして下着を脱いで、浴室へと入りシャワーを捻る。

 暖かいシャワーの刺激が、まだ少し眠気の残る肉体と精神を覚醒させていく。

 タオルに石鹸を付けて体を洗う。

 同じ石鹸で顔を洗う。

 同じ石鹸で髪を洗う。

 ……こういう所で、洗顔料や髪に良いシャンプーを用意出来ない気遣いの無さはやっぱり男だからかな…?と圭次郎に対して思いを馳せるが、そこまで文句を言うのはお門違いと言うものだろう。

 それに、ここへ来てからずっとこうなのだから、もう慣れたものだし。

 全身を綺麗に洗い、最後に少し冷たいシャワーを浴びて、心身を引き締める。

 ……本当ならその前に一度湯船に入りたいところだが、朝から風呂を沸かしてくれるような人間はいないし、タイマーで沸くような気の利いた設備は付いていないので仕方ない。

「………ふ~…」

 髪をかきあげ、絞る。

 髪と、冷水で冷えた体から、ぽたぽたと水が垂れる。

長い髪は絞るのにも一苦労だが、ちゃんと絞らないとあとが面倒だ。

 絞らないで拭くと、髪だけでバスタオルがずぶ濡れになってしまって、二枚使わなくてはならなくなる。

 タオルもそんなに在庫がある訳じゃないし、節約節約。

 ……って、もういいのか。

 しみついた習慣ってのは怖いものだ。

 そんな事を想いながら、全身を綺麗に拭くと、あらかじめ夕べのうちに用意してあった服に身を包む。

 下着を付けて、タンクトップを着て、その上に……迷彩服の上下。

 そして、邪魔にならないように、黒の紐で髪を後ろに結ぶ。

「………よし、さて……と!」

 小さく呟き、風呂場を出ると、少し離れた廊下に、圭次郎が立っていた。

「……覗いてた?」

「まさか、おれは三十過ぎた女にしか興味ねぇんだよ」

「……熟女好き?」

「ははっ三十が熟女かよ、ま、まだ若けぇし、しょうがねぇか……ほらよ」

 まるで、会話の流れであるかのように、自然な動きで圭次郎は、暁花に向って何かを投げる。

 それを慣れた手つきで受け取る暁花。

 ……右手に日本刀、左手にハンドガンを。

 いつも通りの、両手武器スタイル。

「……いくか」

「うん、行きましょう」

そんな、決戦当日の朝だった。


 静かな朝食を済ませ、二人揃って外へ出ると……そこには、三か月前に一度集まって解散した面々が、再び勢ぞろいしていた。

 ……いや、以前よりも大幅に人数が増えており、遠巻きに待機している人間も合わせれば、軽く百を超える数が集まっている。

 最近は教団の悪い噂が以前にも増して聞こえてくる。それが、人数を増やす手助けになったのも事実だろう。

 その中核を担う三十人ほどが綺麗に横一列にならび、二人……というか、啓次郎を確認すると頭を下げ、一斉に声を上げる。

「「「「「おぉす!お待ちしてました!!」」」」」

 その、声だけでなく、たたずまいや気配からも、伝わってくる気合、気迫、覚悟に、暁花は一瞬気押されるが、すぐにその心強さに感情が昂る。

 その声に応えるように、圭次郎が刀を抜き、その手を天に掲げる。

「お前ら!よく集まってくれた!」

「「「「「「おおすっ!」」」」」」

「…俺達はこれから、命をかけた戦いに挑もうとしている!怖ぇかお前ら!」

「「「「いいえ!」」」」「「「怖く有りません!」」」

「…はは、バカ野郎どもが。怖くたっていいんだよ、死が怖くねぇ奴なんて居ねぇんだからよ」

 圭次郎はゆっくりと、全員を見まわす。

 そして、一呼吸溜める。

 山の風が木々を揺らし、ざわざわと、まるでざわめきのように騒ぎ立てるが…それを打ち消す圭次郎の声が響く!

「だが!俺達は恐怖に打ち勝てる!そうだろう!」

「「「「「「ぉぉおぉおぉおぉす!!」」」」」

「恐怖を乗り越え、敵を蹴散らし、勝利をつかむ!」

「「「「「「ぉおおおおおおぉぉおお!!!」」」」」

「俺達のやる事が正義かどうかなんて知ったこっちゃねぇ!だが、一つだけ確実な事がある!」

 大きく息を吸い、肺に空気を取り込み、それを一気に放つ!


「俺達は今日!伝説になるっっ!!」


「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉおおぉぉーーーーー!!!!」」」」」

「さあ行くぜお前ら!ちょっくら世界をぶっ壊しによ!」

 空気が震え、大地が割れるかのような咆哮が山の木々に響き渡る。

「凄い……」

 思わず、暁花の口から言葉が漏れる。

「……感心してる場合じゃねぇぞ」

 圭次郎は、少し照れたように笑った。

「…でも、なんだか、ここが世界の中心みたいな、そんな錯覚を覚えたよ」

「…錯覚じゃねぇ。ここが、俺達が世界の中心だ。そして、その核は、お前だ」

「私が……核…」

 そのプレッシャーに、心を締め付けられそうになるが、それを……跳ね除ける!

「―――行こう!世界を壊しに!」

「…おう!期待してるぜお姫様!」

 バン!と背中を叩かれ、押されるように暁花は歩き出す。

 見ていて、お父さん、お母さん…高柳…!

 私は今日…英雄になるっ!!

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