討伐者ごっこ3
そして、最後に佳那が向かったのは、理科室だった。
「し、しつれーしまぁーす……」
恐る恐る扉を開け、薄暗い室内を見る。
かかとまで室内に入った後、確認のためにあたりを見回す。
……誰もいない。
「……あれ……。あ、あいかさん……。えと、
あはは、と謎の笑いを含めて、佳那は小声を出す。
反応はなかった。ただ、うっすらと臭う薬品の臭いがするだけだ。
おかしいな、いつもならここにいるんだけど――。
注意深く、つま先を立てて室内をうろつく。
すると、
「……なにか、用……」
ふと、後ろから怪しげな声が聞こえた。
「ひいいいっ!!」
驚きすぎた佳那はその拍子に足を滑らせ、後ろ側に倒れる。
ただでさえ薄暗い室内に、誰かから声をかけられた――、それは、佳那にとってはおばけ屋敷のアトラクションよりも怖いことだった。
しかし、声の主はちょうど佳那の後ろにいた。
「あわわわわわっ!」
急に動かれたら、人間、即座に反応することはできない。
佳那もろとも、2人は後ろに折り重なるようにして倒れこんだ。
幸い、佳那は何も持っておらず倒れても何かでけがをすることはなかった。
が、思い切り頭を打ってしまっていた。
「あぁ~、頭がぁー!」
起き上がり、頭が無事か確認する。
「……おも……」
と、自分の下からかすれた声がした。
慌てて、佳那は飛びのく。
「ふわわわ! ご、ごめんなさいぁあああ!」
と、佳那が壁に手をつくと、一気に明かりがともった。
「おわわわわわ電気! あ、電気か……。あ……」
いろいろなことが起こりすぎてパニックになりかけた佳那だが、さっきまで自分がいたところを見ると、落ち着く。
「あ、あ、あ、愛華じゃん……」
見ると、そこにはぱっつん前髪に耳下に二つ、髪を束ねた少女がおなかを抑えて立っていた。
「び、びっくりしたじゃん、驚かせないでよ!」
笑いながら佳那はその少女に近づくと、少女の肩をバシバシたたく。
少女は微妙な顔をすると、佳那の手をつかんでこう言った。
「驚いたのはこっちだわ……。名前呼ばれたから来たのに、あなたが勝手にこけてあたしが下敷きになったじゃないの……!」
目の下を暗くしていう愛華は、さっきの声を聞いた時の1000倍は怖かった。
「めめめ、滅相もございませんんん!」
両手をぶんぶん振って、佳那はアピールをする。
愛華は鼻を鳴らした。
「……で、なに。あたしになんか用なの、珍しいわね」
服についたほこりを掃い、佳那を見る。
こういう空気で、颯天や美喜子に全否定された「討伐者ごっこ」の話をするのはさすがの佳那でも気が引けていた。
「あ、あはは……、用があってきたんですけれども、えっと、今は、いいかな……、あはは」
「そう、用がないならかえって頂戴。目障りで仕方ないわ」
いかにもな感じで目を細めた愛華は、邪魔そうに手を動かす。
だが、ここまで連戦連敗してきた佳那は、もうここで後に引くことはできなかった。
「いや、ちょっとまって愛華! 聞いてほしいの!」
「なあに。手短に済ませなさいよ、こっちはこっちで忙しいんだから」
「うん、重々承知だよ!」
佳那はここぞとばかりに目を見開かせる。
「あのさ! 愛華、討伐者ごっこやらない!?」
「却下」
言った直後、鋭い返事が返ってきた。
佳那は何を言われたかが理解できなかったが、数秒後、状況と聞こえた範囲の声から結論にたどり着く。
「え! なんで!?」
「一つ、やる必要性がない。二つ、興味のかけらもない。三つ、佳那の言うことは中途半端。四つ、今はそんなに暇じゃない。以上」
手短に、的確に話す。
食い下がりたいものの、今の佳那には反論する材料が全くなかった。
なんて言い返そうかあたふたしているうちに、愛華は机の上にある試験管立をもって教室を出ようとした。
「ちょっとまって! もうちょっと考えようよ! ね!」
「うるさいなぁ……。言ったでしょ、あたしそんなに暇じゃないのよ。あんたは暇人だからいいよね」
皮肉を込めて、愛華は相手の口を封じた。
「なっ……」
「用がないならもう行くわね。他をあたって頂戴、じゃあ」
手をひらひらとなびかせて、愛華は佳那の視界からいなくなった。
「えぇ……。そんなぁ……!」
声を震わせて、佳那は哀しそうに顔に手を当てる。
「みんな、どうして僕の誘いに乗ってくれないのぉ……」
そのまま、佳那はその場に崩れ落ちてしまった。
社会討伐代行者 紫暮 @sigure
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