討伐者ごっこ1


「討伐者ごっこ?」

「そうだよ、面白そうじゃない?」

ある日の朝、学校に着くや否や友である木川佳那きがわかなに詰め寄られた三隅颯天みすみはやては、自分の机に肘をつく佳那を見上げる。

「何言ってんだお前、もう高校生だぞ? そんなメルヘンじみた発言はしないほうがいい」

苦い表情をしながら颯天はため息をつく。

それでも佳那は、にこにこと笑い、颯天の手を握る。

「そんなこと言わないでよ颯天くーんっ。それにメルヘンじゃないんだってばぁ」

甘ったるい声で言う佳那の手を、颯天は邪魔そうにはらう。

窓際の一番後ろの席である颯天にとって、この場所は唯一くつろげる場所だった。

なのに、まさに今それを佳那に邪魔されているのだ。颯天としては、はやくどいてほしかった。

「誰が颯天くんだ。どう考えてもそれはメルヘンの話だ。某巨人漫画ならともかく、討伐者とかいう単語が出てくることも珍しいが」

「ううん違うんだよ颯天ちゃん」

「そういわれるなら颯天くんでいい」

「でも嘘じゃないんだよー。ほら、最近、なんか変な事件多いじゃん? それの犯人やらなんやらをみんなで討伐しちゃおーってわけ!」

両手を広げて佳那は言う。

バカにした冷ややかな目で颯天はそれを見る。

無反応が悲しかったのか、「そ、それでね!」と佳那は付け加える。

「えーっと、颯天以外にも誘う人は大体決まってるんだ。颯天以外は絶対にノリいいよ! ね、ちょっとだけだから」

「はぁ? 何をちょっとだけするんだ? そんなことできるのはどこぞの小説の主人公だけだぞ、現実を見て50点台のテストをどうにかしたまえ」

颯天は腕組をし、またため息をつく。

佳那は頬を膨らませて「ぷー」と声を出す。

それに関しては佳那は颯天に言い返すことはできなかった。颯天はとりあえず苦手な国語以外は80点以上はとっているからだ。

「で、でもさ…。そ、そう、ちゃんと現実見ているから言ってるんだよ。いやじゃない、事件起こるの」

即席で考えた理由を並べていく。

颯天はそれを見切っていた。

「だったら一人でしてろよ。わざわざ俺らを誘う必要もないだろ」

「やだー、颯天くんったら! 僕が何もできないことくらい、小学校の時からわかってるでしょっ?」

「ネットに毒されすぎて僕っ娘になった駄目女だろ」

「俺女が言うなバカヤロー」

颯天はこう見えてもれっきとした女の子だ。淡々とした口調と、ショートカットの髪の毛に、日中ほとんどジャージ姿で、しばしば男と間違われることも多い。颯天は別にそれを気にしていなかった。

「僕はそりゃあ勉強もできないし、できることといえばパソコン扱うことと、激しく暴れることでしょ? それに比べて颯天は、僕より勉強もできるし、剣道部だし…。だからだよぉ、一緒に討伐しようよぉー」

颯天にぐっと顔を近づけて佳那はにこっと笑う。

それに合わせて颯天も顔を引き、手で佳那を制す。

「そういうのめんどくさいから。どうせお前のことだ、中途半端にやって中途半端にやめるんだろ。その手にはのらん」

「ちち、違うもん! 今度のは本気! ね、お願いだってばぁ!」

手を合わせ、「おねだりポーズ」をする佳那。

機嫌の悪そうに眉を顰め、颯天は「どうだか」と鼻を鳴らす。

その態度に、佳那は自棄になって叫んだ。

「いっ…、いいよ! ほかのコ誘うから! 後で後悔しても、知らないんだからねっ!」

周りの生徒が驚くような大声で佳那は吐き捨てると、大きく足音を立てながら中央のほうの自分の席にドカッと座った。

颯天は興味のなさそうに目を細め、頬杖をついて窓の外を眺め始めた。

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