22通目 絶望した!俺は絶望したって話だな!アーリアさん、それ生きてるんすか?

 俺はようやく気がついたことがある。

 アーリアのことだ。

 アイツはどうやら勇者になって冒険をしたいらしい。

 らしいというのはこれが全部俺の推測でしかないってことだが・・・。

 つかこの推測が当たっていたら俺は墓穴でも掘って隠れたい。もうお墓でもいい。隠れたい。お隠れしたいんだよ!

 まあ、聞いてくれ。

 つまりアレだ。アイツはもしかしたら俺の血を吸ったときに俺の記憶を体験したに違いない。

 だってそうだろ?

 妙にじじ臭い趣味の時代劇風のしゃべり方。アレは俺が昔見た時代劇や任侠物の話し方だ。

 そして、最初の街で装備品をそろえて、モンスターを倒しにいき、ドラゴンに襲われている村を救い、自分を勇者とのたまっているところとか、魔法あるくせにやたら装備品で攻撃したがるところ。

 この妙にゲームぽい進め方。

 俺がテレビゲームで遊んでいたゲーム作品を思い出す。

 つまりあれだ。

 俺の記憶が全部ダダ漏れ。

 つまりあれやこれやそれやの男盛り真っ只中のあの行為すべてを知られている!

 なんたることか! 男子諸君!

 この恐怖と恥辱を理解できるよな!?

 いいか、親じゃないぞ? 高校生ぐらいの美女にその恥辱を見られるこの絶望感!

 いいか並大抵の美女じゃないぞ? 海外モデルも裸足で逃げ出すような超美女だ! 性格は問題あるけどな!

 いいか俺はノーマルだ! この恥辱に悦楽を感じるような変態ではない!

 なんたることか! なんたるこの不運! たかだが血を吸われただけなのに俺の全てを知られるこの悲しみ! おお、伝えたい! 貴方たちに伝えたい!

 この絶望を! この苦しみを! この胸に内に滾るこの無常感を!

 世界よ滅びろ! ええい! 何が何でも滅びろ!

 お前が滅びなければ俺が滅びる! 

 頼む俺を殺してくれ! 誰か俺の心臓を止めてくれ! この絶望を終わらせてくれ!


――――ブチ! ブチ! ブチブチブチ!


 あああ! 五月蠅い! 我がこの絶望のほとばしりを邪魔するでない!


――――ブチ! ブチ! ブチブチブチ!


 ええ! 止めろと言ってるではないか! 俺はいま運命に抗ってる! この絶望の中で必死に自らの自我を保たせようと血の涙を飲み、反吐を吐きたくなる胸の内を沈めているのだ! 何者にも止める権利などない! 我が絶望を遮るものなど滅びてしまえ! いや俺が滅びる!


「おい、木偶の坊。手伝え」

 くそ! お前のせいだろうが! この恥辱を如何様にしてくれる!

 てめぇ! ドラゴンを契ってるんだったら殴らせろ! 俺が殴ってお前の記憶を消してやる!


「早く手伝えといってるだろうが!」


 ええ・・・。ちょっとそんなに怖い顔で睨まないでよアーリアさん。とりあえず色々と忘れてくれたら僕は働きますから。


 と言っても無駄なので俺は腕をまくし上げて、アーリアを手伝うことにした。

 この急制動の妙技。ストレスコントロール! 見たか! 俺のサラリーマン生活で得たこの技能を!


 俺はとりあえずアーリアに近付いて、ブチブチとドラゴンの腕や内臓を千切っているのを手伝う。

 うげぇ・・・すげーベチョベチョする。内臓がまだ生温かいよ。


 というのも、ドラゴンは全部が素材となるらしい。

 内臓は薬、骨や鱗は装備品、筋肉は食料、目玉は魔道具、血も魔力を帯びているので薬や道具、そして心臓の近くには魔力が結晶化した魔核が存在する。

 魔核は魔力のバッテリーのようなもので魔道具作りには欠かせないらしい。

 空飛ぶ飛行船だってこの魔核がエネルギーとなっているって空飛ぶ飛行船!

 なんていうワクワクした魔道具なんだろ! 欲しい!

 って天文学的数字なので普通は絶対に手に入らない。

 まあ、手に入らない物は別に無視しよう。

 このドラゴンはドラゴンといっても下級なので倒せるらしいが、最上級となればアーリアと同等だとか。サラヴィスが自慢そうに言っていた。


「ふむ。そろそろ血を集めなければな」

 アーリアはひとしきりドラゴンの骨をせんべいのようにパキパキと割って、運びやすいようにしていた。

 血か。

 まあ、吸うのかね? そう言えば気持ち悪いと思っていたけど臭いを嗅いでみたらそこはかとなくフルーティな匂いがする。

 俺は一応お腹いっぱいだから食指は動かないが。

「集めるたってどうするんだ? ほとんど飛び散ったんじゃないか?」

「ふむ。それもそうだが、簡単じゃ。ほれ」

 ほれ、と気軽に言ってアーリアは空中に人差し指を突き立てる。

 お行儀が悪いな。


―――シュゴオオオオオオオ


 お? すごい。

 なんか血が見る見る内に集まっていく。

 まるでほら、あれだあれ、飛行機とか新幹線の中にあるトイレの音。

 空気を吸い込むような感じ?

 

 あ、えらい集まるな。もうアーリアの身体よりも血の塊が大きく・・・。


 え?

 それって血の塊? なんか血でドラゴンの顔が・・・。


「ほう。生きがいいのぅ」

 えらく嬉しそうにアーリアがそう言って血のドラゴンを眺めている。

 生きがいいっていうのは生きて―――。


――――グギャアアアア!


「ぎゃあああああ! アーリア!? それなに!?」

 叫んでるんだけど! 血でできたドラゴンの顔が叫んでるんだけど!?


「見て分からぬのか? これはドラゴンの血じゃ」

「いやいやいや! 何処に叫ぶ血があるんだよ!?」

「ここにあるじゃろ。ほれ見てみろ、生きが良い。これならそこそこ魔力の肥やしになるじゃろ」


「えええええええ!? そんな血があるかよ!?」

 俺は飛び上がりそうになって、アーリアから全力で離れた。


 魔法!? 魔法なのそれ!?

 見たことねぇよ! 雄叫びをあげる血の塊なんて!

 こわいわ!


「情けない奴じゃなぁ―――ふむ」

 え? なにそのダークな笑い。

 ちょっとそういうのは冗談でも止めてくれない? こんなタイミングだとその血のドラゴンをけしかけるように―――。


「ほれ、ドラゴンよ。あの木偶の口に入ってこい」

 といってアーリアの手から解き放たれる血でできたドラゴンの顔面。


「ぎゃあああああああああ! 待て! 入るどころか俺が喰われるわ!」

 パクパクと俺の飲み込もうとしてドラゴンの顔が俺に迫ってくる。

 

 逃げる! 脱兎のごとく逃げる! 三十六計逃げるにしかず!


「ぎゃあああああ!」

 クチャグチャに破壊された村はもはやオープンスペースだ。

 オープンすぎる! 逃げる場所がな―――。


「ががおがゆrげおwげのあwdげwぽれhが」

 血で溺れる! 溺れる!

 俺の全身を血が包み込み、息ができなくて、代わりに大量に血が俺の口の中に侵入・・・。



 あっぐぅ・・・・。

 なんだこれ・・・。

 身体が燃えるように熱い。

 インフルエンザで高熱に浮かされた感じだ。全身が熱くて、意識がもうろうとする。それに腹が・・・。鳩尾の辺りが灼熱の熱さを・・・。

 溶ける。身体が溶鉱炉に放り込まれたように熱い。

 痛い。全身の神経が何かに冒される。ギリギリと神経を研磨機ですり潰されるような激烈な痛みが襲う。

「―――――――――」

 声にならない。痛すぎて、熱すぎて声にならない。


『―――下位ドラゴン種毒竜アシッド・ドラゴンの魔力の流入を感知。

 ―――固有ギフト『苦痛は神の栄光なりグローリー・オブ・ザ・ペイン1』の起動開始。

 固有ギフト内の限定強化スキル『我ここに乗り越える力オーバー・ブを示さんースト』の反転起動準備。

 ―――苦痛蓄積時間三百六十分。

 ―――肉体および魔法適性を改良し、適正状態へのリライトを実行します』


「あああああああああああああああああああああああ!」

 俺は地獄に身を焼かれた。



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