21痛目 もうしっちゃかめっちゃかって話だな!お前はもう死んでいる!

「ぎゃあああああああああああああああ!」

 五月蠅い! 俺の絶叫が五月蠅い!

 だがよ! 見てくれあのでかい口! 巨大な牙!

 テラノザウルスクラスの恐竜がアンパン競技よろしく俺を喰おうとジャンプしてんだぜ! 怖すぎるって!

 しかも俺縛られて動き取れないし! この恐怖感は半端じゃねぇよ!

 ドスンドスン、五月蠅いし、俺の絶叫も五月蠅いが、止められない! 止まらない!

「ぎゃあああああああああ!」

「五月蠅いわ! 木偶の坊!」

 五月蠅くねぇって!

 ちったぁよく見てくれ! てか五月蠅くさせているのはアーリアお前だろうが! 調子のってドラゴンに近付くなよ!

 超怖いって! 怖いどころか生温かいんですけど!


 ん?

 あれ? ドラゴンさん諦めたの? なんだか大人しくなって―――。

「ぎょあああああああああ!」

 吐いた! 今なんか緑色の凄い刺激臭するものを俺に吐いたよ!

 これって硫酸とかじゃないの!? 実験室で嗅いだことあるよ!?

「のあああああああああ!」 

「ええぃ! 黙っておれ!」

 って投げないで!

 ぐおおおお! 落ちる! 村の中心に落ち――――。


グシャ!

「ぎゃああああああああああ!」

 いてぇ! いてぇよ!

 折れた! 腕折れたし! ついでに足もグギってなった!

「アハハハハハ! 下郎! お前いい道化じゃな!」

 耳元でパタパタと音がして、ムカつく女の笑い声が響き渡る。

 ってめぇ! サラヴィス!

 笑うなら先に縄斬ってくれ! 逃げられないだろうが!

「すみません・・・サラヴィス様、もしよろしければ縄を解いてくれませんか?」

 あああ! なさけない! 俺がもの凄く情けない!

 だがどうすれば良いって―――。

 って待てよ。

 ちょっと頑張って腕に力を入れてみる。

 ブチブチブチ。

 おおお! 切れたぞ!

 そっか! 忘れてたけど俺、下級吸血鬼だった!

 って痛ぇええええ! 折れた腕が痛ぇ!

 調子に乗って折れた腕にまで力入れてしまったじゃねぇか!

「なんじゃ。もう、道化は終わりか?」

 隣でペタペタと歩いてくる蜥蜴が何だか残念そうな声を上げる。

 声だけだ。つぶらな瞳を気持ち悪くパチパチとさせているのはまさに爬虫類。

 ああ。気持ち悪い。このサラヴィスっていう蜥蜴野郎は無視しよう。

 俺は立ち上がって、村を破壊していたドラゴンの方を見上げた。

 ちなみに、周りは全力で避難していらしく、誰も俺を気に留めずに家財道具をもって逃げ回っている。まあ、しょうがないな。

 

「この村の者達に申す!」

 アーリアが村の家々の上から何やら叫んでいた。

 もの凄く良く通る声で、村中に響き渡っている。

――――グギャアアガアアアギャギャアアアアアア

 つか、後ろのドラゴンヤバくね? ベチョベチョ、アーリアに液体という名の唾を吐き散らして、それが飛び散った家々は丸ごと溶けていってるんだけど。

「ええ! 

 あ、なんか村の人達が止まった。

 自分の身体が動かないことに茫然として、次には恐怖の顔を浮かべながらアーリアとその後ろで唾を吐いているドラゴンを見て、泣きそうになってる。

 逃がしてやれって!

「いいか! 者どもよ! 我は勇者アーリア! 汝らをこのドラゴンから救ってやろう! だがしかし! 対価をもらう! この村一番の娘と金を私に寄こせ!」

 マジか!

 それ勇者じゃなくて悪党の台詞だろ!

 お前の勇者はどこぞの盗賊の頭なのか!?

 なおも我が悪の勇者アーリアは羽をパタパタさせて、悠然と空中で仁王立ちし、王者の風格で叫ぶ。

「よし! 頷かなくとももらう! 逃げるなら奪う! もはやこの村は勇者アーリアの物じゃ!」

 おおおお!

 すげぇえ。その悪役ぷりはすげぇぜ!

 こんな土壇場で逃げられなくさせてから、助けてやるっていいつつ、女と金を奪う。

 なんとも凄まじいダークヒーローぷりだぜ!

 さすが我が主様! 恐れ入るぜ!

「よし! では見ておれ! 我がレイピアの剣閃を!」

 そういってアーリアは腰のレイピアを抜き放ち、太陽にあのくず鉄のレイピアを瞬かせて、突撃した!

 突撃した!

 半端ない勇猛振りだ! あのくず鉄でできたレイピアで!

 

――ペキ。


 あ、折れた。

 ですよねー! そうですよねー!

 だってドラゴンの鱗は鋼よりも固いんですもの!

 あんなくず鉄のレイピアで傷つけるなんて不可能ですよ!


 ってかアーリア!

 凄いショックそうな顔で折れたレイピアを見ない!

 いいから前見て! アーリア! ドラゴンの口がお前を飲み込もうとしてるって!


――――パク。


 あ、飲み込まれた。


「ぎゃあああああああああ! アーリア姫様ぁあああああああ!」

 足下の蜥蜴が五月蠅い。


――――グシャグチョグシャブチョ・・・パーーーン!!

 え? 今、ドラゴンの頭が膨れあがって爆散したんだけど。

 なに? 秘孔でも突かれたの?


 うげぇ・・・。血煙の向こうにアーリアが全身血まみれで浮いてるよ・・・。

 血の雨って本当に降るんだな。俺まで血でびしょ濡れだ。

 気持ち悪い・・・。

 村の人達も唖然として、顎外れてんじゃね? 開いた口が塞がない感じだ。


「ハッハッハ-! どうだ、ドラゴン! 我が剣は!」

 えらい大物ぶってるけど、アーリア、お前のレイピアは関係ないぞ?

 ぜったいにそれ魔法かなんかだろ?

 おっわ! お前全身血まみれで、目だけが白くて超怖いぞ!

 こえぇ!

「「「「きゃあああああああああああ!」」」」

 パニックだ!

 お前のその姿を見て、村人達が叫んでんじゃないかよ!

 しかも逃げたくても身体が動かないってんで、もの凄い狂乱っぷりだ!


「ママーーー! ママ――! ぎゃああああー!」

「モブコ! 貴女だけは! 貴女だけは守るからね!」

「モブヨー!! 今行くぞ! 動け! 動け-!!」

「おかあちゃーーーん!」

「モブスン! モブスン! 待ってて!」

「アーリア姫様ぁあああん! 素敵でございますぅぅぅ!」


 モブモブうるせぇえええええ!

 どーすんだよ! これ!

 てかサラヴィス! てめぇ口調変わってんじゃねぇか!


 頼む! 誰かなんとかしてくれぇ!!

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