20痛目 お約束ぶちこわしって話だな!ドラゴンってなんだよ・・・マジで

あーなんだか凄いぶら下がっている感じがする。

こう、重力が良い仕事してます!って感じのあれだ。足に血がたまって身体がじんじんとだるくなる感じ。

あと凄い食い込みを感じる。

腰の辺りと腕になんだか逞しい縄の感触が擦れて痛い。風を斬る音とともにブラブラしてその食い込みが更に痛いんだよなぁ。


「なんで俺、空にぶら下がってんだ?」

まあ、バサバサと上の方から音がするので何かは大体予想がつく。

アーリアが俺を縛って運んでるんだ。

下は森・・・というかどこかの低い山を越えているところか。

なんでだ?

たしか俺はホーデンの街にいて、ムカつくやろうを殴ってたような・・・。

ってかミケ達は!? ミケ達はどうなった?

俺は思いだして、真上にいるアーリアへ向けて大声を上げる。

「おい! アーリア! ミケ達はどうなった!?」

俺の声をきいて、アーリアが面倒くさそうにこちらを見下ろした。

「起きたか、木偶の坊。後始末はしておいた。案ずるな」


ぜんっっぜん案じられない!

アーリアがが普通にあれを収集できたようには微塵に思えないぞ!

むしろ事態を悪くしているはずだ! 間違いない!


「信用できるか! いいから説明しろ!」

「たく起きても面倒くさい奴じゃ。かくかくしかじか」


・・・かくかくしかじか、で通じたら言葉はいらねぇ・・・よ?

あれ? なんか映像と音声が・・・。


ふむ。

つまりあれだ。

俺が寝ている間、アーリアがあの新種デブを脅して、ミケ達や街の住人に悪さをしないように約束させたんだな。

あのデブ、びっしょびっしょに漏らしてたからしばらくは大丈夫だと。

んで、住人達に俺らが吸血鬼だとバレたので、迷惑かけないために逃げたと。

そして、ついでにミケや殴って血反吐吐かせたあの馬鹿から血を分けてもらって、俺の身体はいつになく軽いと。完全回復しているしな。

なんつーか、この映像からだとアーリアは遠山の桜吹雪の人や水戸のご老体みたいに事態を収拾したんだな。


・・・いや、ちゃんと後始末できたのはいいんだけどよ・・・。

やっぱりさ、旅立つ日ってこう世話になった人達と涙を流しつつ、固く再会の約束をして見送られながらってのがお約束じゃない?

俺ってば気絶している内に縄で縛られて逃走って・・・間抜けすぎる・・・。

せっかく異世界召喚物で活躍したのに、どーしてこう俺は全部台無しにするんだよ・・・。

いや、そもそも悪いのはあの女だ。

あのアーリア馬鹿のサラヴィスってやつだ!

俺をフレンドリーファィヤで沈めやがって!

めちゃくちゃ熱かったんだぞ! 燃えてないけど!


あー、思い出してきたらもの凄く腹立ってきた。

いつかあの女を泣かしてやる。


「貴様がアーリア姫様の従者だと妾は認めんからな」

「え!?」


まって!?

あの女の声が耳元から・・・。


ってなんだこの蜥蜴!?

デカい蜥蜴が翼を羽ばたかせて俺と併走してるって!


そこにはバサバサと翼を羽ばたかせて赤い蜥蜴が空を飛んで、こちらに火を吹いてきた。

威嚇してくる蜥蜴に俺はおずおずと聞いた。


「お前は・・・もしかしてサラヴィス?」

「妾を気易く呼ぶでない! この下郎が!」


熱っ!!

火を吹くなよ! 鼻が焦げる! 焦げるって!


「サラヴィスさん! ちょっと火を吹くのを止めてください!」

俺は情けなくもそう叫んでいた。

「黙れ。これからは妾がお前を監視する。姫様に手でも触れてみろ。すぐに灰にしてくれよう」


まじか・・・こんな怖い監視がいたらおちおち安心して寝てられん・・・。

まあ、なっっんにもする気はないから安心だけどよ・・・。

もう年下はこりごりだ。

ん? そういえばアーリアって実年齢は二万歳以上の気が・・・。

まあ見た目的に手を出す気にはなれんな。


とりあえず火を吹くのは止めてくれたし・・・。

てかさ、次何処行くの?

装備品を集める目的があったけど街から出たら何処に行くかなんて相談もしてなかった。

俺は威嚇してくる赤い蜥蜴から目を離して、アーリアを仰ぎ見る。

ああ・・・日はまだ高いから途端に身体がだるく感じてきたぞ・・・。


俺はそのだるさを吹き飛ばすように上に向かって叫んだ。

「アーリア! 次何処行くんだ!?」

俺をちらりと見たアーリアは少し嬉しそうに笑う。

「装備がそろったのなら、決まっているだろう。モンスターを倒すぞ。この辺で一番強いな」

「・・・」


はい?

一番強いモンスター?

経験値でも上げて、レベルアップでもするのか?

てかこの世界にレベルなんてないよな? いや、よくしらないけど。


俺が不安に思っているとアーリアがぼそりと何かを言う。

「ちょうど運がいいことに、ドラゴンがこの先の村を襲っておる。それを退治するぞ」


・・・ドラゴンっすか?

え? あのドラゴンっすか?

よく考えてくれアーリア。

この世界にドラゴンは確かに存在する。

だがよ、アレはさ、最高級の装備品を持った騎士クラスの奴らが二十人がかりで倒すようなもんだぞ?

俺達はどう見ても初級の上位装備ぐらいだ。

いわゆる鉄の鎧一歩手前ぐらいの装備だぞ?

オンラインゲームでもレイドで戦うボスクラスの奴をどうみても初心者装備・・・まあ確かに、アーリアなら分からなくもないけど・・・。

それに俺は関係ないですよね? ねっ?


だめだ。

聞けねぇ・・・。

聞いたら後戻りはできなさそうで、そして俺の希望がなくなりそう。

このパターンは・・・俺も強制参加ってことだよね!?

ちょっとまってよ!


「ほれ、見えたぞ。アレが私達の最初のモンスターだ」


やっぱりすかっ!?

私達っすか!?

あの六キロ以上離れているのに見えるものに今から行くの!?

どう見たって尋常じゃねぇデカさだよ!

ジュラシックパークのテラノザウルス並の奴じゃねぇか!

つか、マジで村が襲われているよ!


森が途切れて家々が立ち並ぶ村にテラノザウルスのようなドラゴンが暴れていた。

「よし、速度をあげるぞ」


最悪だ・・・。

マジで速度を上げている。

そして俺は縛られているので何もできない・・・。


ドナドナの曲がヘビィメタル級にアレンジされて、俺の頭の中に鳴り響きながら、アーリアは優雅に滑空して、一路ドラゴンの元へと飛んでいく。


頼むから俺を帰らせてくれ・・・。

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