19痛目 はた迷惑な女が来たって話だな!あの熱さは尋常じゃねぇ!
「き、貴様!なんだその目は!」
震える声で気丈にも狐顔がアーリアに猛る。
背中を向けたアーリアがどんな目をしているのか俺には分からないが、きっと凶悪な目つきをしているのだろう。
「ふむ。久しぶりに力を使うな」
アーリアは涼しげな声で狐顔の言葉を無視してそう言った。
狐顔はそれを馬鹿にされたと思い更に顔を真っ赤にして周りの兵達に言葉をかける。
「魔法兵!魔法準備、警備兵は魔法攻撃が終わり次第反逆者を捕らえよ!これは見せしめである!遠慮なく攻撃しろ!」
慣れたような様子で狐顔は部隊に指示を送り、魔法使い達は杖を掲げて詠唱し、警備兵達は武器に力を込めてこちらを威嚇する。
緑のローブを着た魔法使いが早口で同じ呪文を唱える。
「「我が内に燃える魂よ、今この時ここに示さん、炎よ腕を現せ、敵を掴み、引き裂き、焼き尽くせ『
詠唱が終わった瞬間に炎の球体が魔法使い達の頭上で出現し、その球体から鞭のように先端を細くした炎の穂先をアーリアに向ける。
パチン。
指を鳴らす音。
軽い小さな音が響くと、その炎の球体が霧散するように消失。
俺は呆気にとられながらアーリアを見る。
アーリアは腕を上げて、その白くて綺麗な手の指を鳴らしたようだった。
「馬鹿な・・・」
驚愕の顔をして魔法使いの一人が呟いた。
「弱いな。私の魔力をぶつけただけで消えるとは」
アーリアが静かに呆れた声を出し、そして続ける。
「ユウヤ、講義をしてやろう。私の教えを請えるなどどこの国王でもなかったことじゃ。まあ先ほどの戦いの褒美だとでも思え」
そう言ってアーリアは戦いの最中に俺に振り向いた。
「魔法と魔術。これには違いがある。魔法とは理を書き換えること。それは本来詠唱も必要なく、即座に実行される物理法則を書き換える事象現象じゃ。己が所有する魔力を消費して、理を乗り越えて、奇跡を行使する。だが、これには欠点が―――」
淡々と話しているアーリアを無視して、狐顔が苛立ちの声を上げる。
「何をしておる!?魔法兵!ええい、警備兵!その娘を襲え!」
狐顔の声で固まっていた兵士達が動こうと足を上げると、不機嫌そうにアーリアはまたそちらに振り向いた。
「講義中じゃ、ちと『静かにしておれ』」
その言葉でその場にいた誰もが凍り付いて、動けなくなった。足を上げていた者は上げた状態止まる。
それを確認してアーリアはまた俺に続きをゆっくりと話し出す。
「で、欠点じゃが、魔力の総量である魂の器が低ければ、その奇跡も見窄らしくなるのだ。それに魂の属性、あの者達なら炎だな。それしか選択できない」
チラリと魔法使い達を見てアーリアは指摘して、また俺の顔を見て話す。
「じゃが、魔術は違う。魔術とは魔法を統べる技術じゃ。魔術はその魔法原理を解析し、魔力の消費を抑え、属性や効果を本来の魂の器とは異なっていても行使可能となる。つまるところ、魔術とは魔法技術。魔法をより深く理解し、その叡智を技術に昇華した神に対抗し得るものじゃ」
そう言ってアーリアはレイピアを抜いて、自分の手の指先を少し突いた。
真っ白な手から血の花が咲く。
「魔法なら自らの属性のみに縛られた魔法しか使えぬ。そして、召喚魔法は自らの魂と縁が深いものしか呼び出せぬ」
アーリアはその血が流れる指で空中に何かを描き出す。
「で、ここで実技に移ろう。中でも最も難易度の高い召喚魔法、それを魔術で行えばあらゆるものを使役できる。このようにな」
丸い円をその血で描き、中に複雑な模様を書き込んでいく。その血は地面に落ちずに細い糸状になって空中に浮遊して魔方陣が瞬く間に完成する。
その血の魔方陣の前でアーリアは歌うように声を上げた。
誰もが本能的な恐怖で顔を引きつらせる。俺も凍るような寒気と大気の温度が急上昇する感覚に目眩を起こす。
「古の契約に従い、来たれ炎の女帝、暗き地の底を燃え上がらせる炎の女帝よ、我が血を喰らい、狂気の声を孕ませ、炎の血を交わせ、地獄の門を開け放ちここに来たれ、『炎の精霊女帝サラヴィス』」
業炎が燃え上がるような音がその魔方陣からその場の空間に響き渡り、その魔方陣から炎に揺らめく美しい手が伸びる。
魔方陣の血が蒸散し、魔方陣から一人の女性が現れた。
アーリアと同じ赤髪、その頭には黒い角、鋭い瞳と威厳に満ちた美しい顔立ち、そして凄まじい巨乳とエロい身体で露出の多い踊り子のような服を着ていた。
だが人ではなかった。その皮膚が所々火を噴くように燃えて、地面に降り立つ。
燃えるような相貌であたりを睥睨して、そしてアーリアを見る。
「あああああああ!妾の主様!ああ、お久しゅうございます、アーリア姫様!」
アーリアを見た瞬間にその女性は表情を百八十度変えて、うっとり陶然とした顔でアーリアを見て言った。
「うむ。久しいなサラヴィス」
「はい!この時を妾は今か、今かとお待ち申しておりました。何という良き日でしょう!」
そう言ってサラヴィスという炎の精霊はアーリアを抱きしめる。
その抱擁をアーリアはくすぐったそうにして、少し表情を引き締めてサラヴィスに声をかける。
「すまぬな。私の魔力がまだ完全に戻っておらぬ。故に、お主の顕現の時間が少ないのだ」
「ああ・・・お労しやアーリア姫様・・・。このように魔力を失われて」
「良い。その内回復するだろう。また他の者達に私の事を言っておいてくれ」
「そんな、他の者なぞ呼び出さなくとも妾がいまする。妾だけでアーリア姫様をお守り致します」
「感謝するぞ、サラヴィス。で、早速だがあの者達を少しばかり脅してほしいのじゃ」
アーリアが狐顔達の方に目をやると、狐顔達は縛られているのにも関わらず恐怖に固まった。
「承知致しました。では、魂の欠片も残さず妾の炎で燃やし尽くしましょうか?それとも妾の地獄で永劫の炎で燃やしてやりましょうか?」
「いや、殺さずともよい。奴らの骨の髄までお主の炎の味を忘れないようにしてほしいのじゃ」
「なんと慈悲深きアーリア姫様でしょう!妾はお優しい主様を持てて幸せでございます!」
そう言って本当にサラヴィスが泣き出した。
いやさ・・・もっとさ・・・精霊女帝とか言ったら威厳に満ちたもん想像してたけど・・・これじゃただの妹馬鹿の姉みたいじゃね?
ちょっと呆れてしまった。
まあ、狐顔達の心中はそんなもんじゃないさそうだけどよ。
動けないのに動こうとして必死の顔をしているし。
「分かりました。では、妾の炎で嬲ってやりましょう―――」
そう言いながらサラヴィスは狐顔達に顔を向ける。
「このクズ野郎が!てめぇらが生きてられるのは、アーリア姫様のお陰と思え。泣け!泣き叫び跪いて姫様の慈悲を喜びながらのたうち回れ!」
うぁ・・・すげー切り替えの速さだな。
あ、サラヴィスがすげー勢いで火をはき出して、狐顔達の周りを火の海にしたぞ。
あれ?あれじゃ死ぬんじゃ・・・おお、死んでねぇ、死んでねぇがすげー叫びながらのたうち回っている。
ありゃ火なのか?焼死してもおかしくない燃え上がり方だが・・・。
あ、新種デブが蹲って動かなくなった。
死んだかな?それは拙いような・・・。
サラヴィスが火を吹くのを止めて、こちらに振り向いた。
ん?なんでサラヴィスが俺を睨むんだ?
「貴様・・・なぜ姫様と同じ力が流れているのだ?」
「え?」
鬼気迫る顔でサラヴィスが俺に尋ねる。
「同じ力って・・・アーリアの従者だからな、俺」
俺はサラヴィスにそう素直に答えていた。
「き、貴様ぁ!姫様の従者だと!?あの汚れを知らぬ妾の美しい主様の力を与えてもらったのか!?許さぬ!許さぬゾ!」
そう言ってサラヴィスは激怒の顔で口を開き―――。
「ぎゃああああああああ」
もの凄い炎が俺を包む込む。
熱い!熱い!身体が燃える!
って燃えているけど燃えていない!
なんだこれ!?って熱い!熱い!
皮膚が爛れて、炭化してもおかしくないぐらいの熱さだけど、身体はまったく燃えていない!
ぎゃああああああ
「サラヴィス、止めよ!そいつは私の従者だ!」
「姫様!このような汚れた男など従者にしてはなりません!」
「うるさい!私の勝手だ!ユウヤを傷つけるな!」
俺は炎の痛さと熱さで気が遠くなって行く間、はた迷惑な女とアーリアが繰り広げる会話を頭の片隅で聞きながら燃え上がる身体を地面に倒す。
フレンドリーファイヤーって言葉知ってるか?サラヴィス。
ありゃ軍法会議もんだぞ・・・
俺はそうして意識を失った。
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