16痛目 やっぱ装備品ってワクワクするって話だな!俺の武器も防具も格好いいったらありゃしねぇよ!
「ふん~♪」
「おい、木偶の坊」
俺が鼻歌交じりに町の通りを歩いていると横にいたアーリアが不機嫌そうな顔で声をかけてきた。
折角人がいい気分で歩いているのにその顔はねぇだろうが。
台無しだぞ。
まあ何時ものことか。
俺達は今、稼いだ金を持って髭の武器防具屋に向かっていた。
金貨六枚ぐらいはある。
全部小銭だから分からないけどよ。
ヌノーちゃんがパンパンになるぐらいの量だ。
大概が純鉄貨だから数えるのも面倒でムギムギ亭にあった秤を使って大体の重さで金額は出している。
俺はヌノーを抱えながらアーリアの方を向き歩きながら尋ねる。
「なんだよ?」
「お前、逞しくなったな」
アーリアは俺の身体をじっと見ながらそう呟いていた。
そりゃそうだろう。
一体どれだけ毎日殴り合って、鍛えてると思ってるんだよ?
夜寝られないからこっちは必死で脇腹やら腹筋、背筋を鍛えてるんだぞ?気がついたら軽く500回ぐらい腹筋してて吃驚したがな。前は50回が精々というのにさ。
「そりゃあれだけ試合してりゃな」
ハードワーク過ぎてビビるぜ。むしろ良くここまでストイックにやったよ。
人間やればできるもんだな。
いや、もう人間じゃなくて
「いや、おかしいのじゃ。人間から吸血鬼になったものは基本的に成長しない。肉体は生前のままで維持されるのじゃ」
「そうなのか?」
「ああ、私の姿もずっとこのままじゃ。始祖吸血鬼なら多少は成長していくが、明らかに木偶の坊はおかしい?何故じゃ?」
「そりゃつまり、俺がまだ人間だってことじゃねぇか?半吸血鬼みたいなもんじゃね?」
ほら、いるじゃんDのつく吸血鬼ハンターがさ。
あんな感じでハーフヴァンパイヤみたいなもんじゃねぇかな?
俺のテキトーな答えにアーリアは怒った顔で声を上げる。
「アホか!お前は私物じゃ!そんな半端なことがあるものか!」
「いやいや、テキトーな俺の言葉にそこまで怒るなよ。いいじゃねぇか強くなったらさ」
「・・・ふん」
鼻息を荒くしてアーリアは不機嫌そうな顔のまま前を見つめて歩き出した。
「おい、アーリア先先いくなよっ」
早足になって俺はため息をつきながらその後を追いかける。
「お、来たか。待っておったぞ」
髭が嬉しそうに笑いながら俺達を店に招き入れた。
「剣と鎧」
アーリアがすかさずぶっきらぼうに髭に声をかけた。
お前・・・まだそれしか言えないのか?
もうちょっとなんかつけろよ、お願いしますとかさ。
「おう。分かっていぞ、お嬢ちゃんはせっかちだなぁ、ガハハハハ」
髭は豪快に笑う。
もはや髭もアーリアの性格と言動に慣れている。
言葉はもう入らないみたいだなアーリア。良かったな。
俺はヌノーからお金の入った麻袋を取り出して、髭に渡す。
俺の金を受け取った髭は麻袋の口を開かずに、それを店の奥へと持って行った。
戻ってくるとその両手には鎧やら何やらがたくさん抱えていた。
「おい、確認しなくていいのかよ」
俺は髭に尋ねる。
「いや、お前さん達は信用できるからな。金がきっちり入っていると分かっておるさ」
髭はドヤ顔をしながら胸を反らせて言ってくる。
「いや、んなこと聞いてねぇし黙ってろ。こっちも数えるのが面倒で幾ら入ってるかちゃんとわかってねぇんだよ。払いすぎたくもねぇから数えてくれ」
俺は乱暴気味に呆れ声を上げながら髭にそういった。
髭は少し髭を撫でながら笑って言う。
「心配するな。金額以上の商品を準備しておるわ、ガハハハハ」
いやいや、ガハハハじゃねぇよ!
金貨五枚以上入ってんだよ!
「ではまず、お嬢ちゃんからだな。お嬢ちゃんには、
ドサドサとカウンターの上にアーリアの防具一式を髭が置いた。
え?ちょっと待て、今鉄っていわなかったか?
しかも
俺は慌てて髭に声をかける。
「ちょっと待てくれ。そんな金はねぇぞ?」
俺が慌てている様子を見て髭がサムズアップする。
「楽しませてくれた礼だ。それにこの革は俺が昔作った鎧を流用してつかってっから問題ないぞ。ちょっとばかし古いが、品質に問題はねぇ」
「マジかよ・・・感謝するよ、ヒーゲン」
「ああ、いいって事よ。嬢ちゃん着方は分かるか?」
「問題ない」
アーリアは嬉しそうにその防具を受け取ると店の試着コーナーへと足早に入っていった。
それを楽しそうにヒーゲンが見送って今度は俺を見つめる。
「では次にユウヤの分だな。待ってろ」
そう言ってヒーゲンは店の奥に引っ込んでまた両手に防具を抱えて戻ってきた。
「んでユウヤの分は、同じく
またドサドサと防具をカウンターに広げながら、その中の特殊な防具を俺に見せつけるようにつまんで笑った。
・・・まあその紐と革で作られた包みは重要だけどよ。
そんなに自慢そうにいうもんじゃねぇだろうが。
すげーありがたいが、なんだかありがたみが薄れるわ。
「そして、武器だな。嬢ちゃんはレイピアだ。くず鉄を溶かして作ったから品質は期待するな。だけど、突きだけなら問題なく使える。お前さんのはこれだ」
カウンターの下から取り出したレイピアをゴトリと置いた髭は、更に固そうな黒い革紐に鉄の鋲が打ち込まれた物を手に取っていた。
えっと・・・それって拳闘士用のナックル・ダスターってやつじゃね?
古代ギリシャではヒマンテスって言われてたような気がする。ゲームで散々見た覚えあるわ。
俺がそれを眺めているとヒーゲンは聞いてくる。
「付け方わかるか?」
「すまん、わからん」
「ならサイズが合うか先に防具を着けて見ろ。そしたら教えてやる」
「何から何までありがとうな」
俺は礼を言ってからヒーゲンに受け取った防具を試行錯誤しながら着込む。
チェニックとズボンの上からその防具を着込むと何だかまるでゲームに出てくる黒ずくめの拳闘士みたいだった。チェニックは流石に白いけどさ。
ゲームの拳闘士はほとんどが上半身マッパなので寒いときにどうするのか気になってしまうな、今はさ。
それに森だとか行くと虫も付くし、棘の植物やらがいると傷だらけになっちまう。
俺はそんなどうでもいいことを考えながらその防具をヒーゲンのアドバスを頼りに着込んだ。
「お、似合うじゃねぇかユウヤ。一端の拳闘士だ。じゃあ付け方・・・と忘れるところだった。
そういって長い紐状の布をヒーゲンが取り出すとそれを俺の腕のあたりからグルグルと巻き始めた。
「
俺はゴクリとツバを飲み込みながら聞く。
防御呪符とは呪符師が魔力を込めたインクで防御魔法効果を付属した魔道具だ。
かなり高い。呪符師の数もそんなにいないし、物にこめた呪符を永続できるような呪符師の作品はとくに希少価値が高い物となる。
俺が心配した目でヒーゲンを見ると彼は笑って答える。
「こりゃ永続効果を付加させるような呪符師じゃねぇよ。ワシの兄の作品で三流品。効果もあと半年しかなくて、売れなかったら何の価値もなくなる。使ってくれた方が嬉しいんだよ」
本当にいい奴だなヒーゲン!
もうヒーゲン様って呼ぼうか!?
「ありがとうな」
「おう」
そう言いながらくるくると俺の両腕に
おお、動きが軽くて、握り込めばかなりの一撃が放てる。
てか、普通に殴っただけでも骨なんて簡単に折れるんじゃねぇか?
俺が満足そうにナックル・ダスターを眺めているとヒーゲンが声をかけてくる。
「気に入ったか?革は
そう言って今度は、虎のかぎ爪のような鉄の武器を俺のナックル・ダスターにはめ込んだ。
ナックルダスターには拳の最も固い骨の部分の両側面に鉄の出っ張りがあって、そこにアタッチメントのようにそのかぎ爪をはめ込むことが出来た。
手を固く握り込むと出っ張りの部分が引っ張られてしっかりとかぎ爪が固定され、緩めて手をしぼませるとそのアタッチメントが着脱可能となる。
これってゲームで見た拳闘士のまんまだな。
すげぇ・・・これでフード付きのローブ被って、顔を隠せば良くやりこんだダークファンタジーゲームだぜ。
今度金貯めて灰色のローブ買ってコスプレしよう。
いや、この世界じゃコスプレにならんな。
まあいいか。自己満足だし買って楽しもう。
「いい笑顔だ、ユウヤ。ワシはその笑顔を見たくてこの店をやっておるもんだからなぁ」
そう言いながらいい笑顔でヒーゲンが頷くようにいった。
ごめんよ、ヒーゲン・・・髭髭と馬鹿にしていた俺が恥ずかしいわ。
そんな思いで店をして、金もない俺達に・・・。
「ユウヤ!どうじゃ!?冒険者に見えるか!?」
ドカっと試着コーナーの扉を乱暴に開け放ったアーリアが嬉しそうに声を上げる。
折角のしんみりした雰囲気が台無しだ。
さっきからずっと試着コーナーでドタバタと苦闘していたからなコイツ。
「ああ、似合っているぞ、アーリア」
「そうじゃろ?私もそう思う!」
クルクルと小さな板状の革を何枚も重ねたスカートのような腰鎧をふわりと膨れさせてアーリアがその場で踊るように回った。
「お!それは剣じゃな!」
回っている間にめざとく見つけたのかアーリアがカウンターに近付きレイピアを握る。
「あぶねぇから振り回すなよ」
キラキラと嬉しそうに見ていたアーリアが俺の注意を聞くと不満そうな声を上げる。
「わかって―――」
「出てこい!この盗賊が!!」
アーリアが答える途中で店の外から大声が聞こえる。
「そこにいるのは分かっておる!直ちに出てこないと盗賊を囲っている店ごと火で燃やす!」
おいおい、人が折角楽しんで買い物しているのに誰だよ。
てかあの狐顔の声だな。
あーめんどくさいし、ろくな事じゃねぇ。
「すまん、ヒーゲン。迷惑をかけそうだから俺達は出るわ」
俺が驚いているヒーゲンに声をかけると彼は弾かれたように焦って声をかけてきた。
「ユウヤ、ダメだ!今出ていくとろくなことにならねぇ!」
「いや、ここにいる方が迷惑をかける。それこそろくな事にならねぇよ。アーリア行くか」
楽しい気分に間を刺されたアーリアが憮然として俺を見る。
「一人残らず根絶やしにするのじゃな」
「いや、まずは俺に任せてくれ。俺が頼んだときにお願いしたい」
俺の言葉を真剣に聞いたアーリアは頷く。
「カチコミか・・・あい分かった。無理はするな、ユウヤは私の従者だ。何があろうとも私が守る」
「嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか。まあ、俺も男だ。守られてるばっかりじゃかっこがつかねぇ」
「ふん、従者のくせに生意気だ」
俺はそのアーリアの優しいのか、優しくないのか分からない言葉を苦笑して聞いて店の外に向かう。
「じゃあ、ヒーゲンとりあえず。この防具と武器、ありがたく使わせてもらう」
俺はそう言い残して、店の外に出る。
そこには警備兵達二十人以上が店の出口を距離をあけて、その真正面には狐顔と新種デブ、それに警備隊長、何故か決勝戦の対戦相手がいた。
アー、こりゃなんだ?
まあ、わかるけどよ。
俺の口八丁がバレたな。
そうなるかもとは思っていたが、覚悟を決めるしかなさそうだ。
ま、最近俺も腹が減っている。
飛び散った血ぐらい飲んでもいいよな?
俺は心の底で鎌首をもたげる、正体不明の何かを感じながらニヤリと笑った。
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