11痛目 女組長アーリアって話だな!クソな嫌がらせでも俺は負けねぇよ、日本人舐めんな!
「おい、お前。こっち来い」
朝の賑やかな市場の帰り道に裏通りから数人の男が俺を呼び止めて、手で裏通りに招いていた。
最悪だ。
もう最悪だって。
これで二日連続だぞ?
てかさ、姫の従者っていってるのにそんなことをして、もし本当ならどうすんだよ?
嘘だから問題ないけどよ、考えが足りなさすぎる。
俺は手に持っていた荷物を裏通りの側で民芸品をゴザの上で広げているお婆さんに預けて彼らの言う通りにする。
お婆さんには前金で純鉄貨一枚を渡して、戻ってきてちゃんと荷物を守ってくれたら更に二枚渡すと伝えてあるので心配はしなくてもいい。
てか、コインロッカーでも300円なのに1000円ってどんだけ高いんだよ。
男達は俺が裏通りに入ると周りを囲むように俺に付いた。
デカい身体が壁のように俺を囲んでいる。
汗臭い・・・垢がたまっていてテカテカしている。
俺はため息を付いて、誰もいない裏路地に入っていった。
「他所者がでかい顔してんじゃねぇよ!」
鬼の形相をした男が拳を振り下ろす。
ドガ!
痛ぇなあ・・・。きっちりレバー狙いやがって・・・。
ゴス!
ぐっ・・・。つま先で蹴んなよ。大けがしちまうだろうが。
俺は散々サンドバッグにされて地面に転がる。
ジャリッと口の中に砂が入って、俺は血と一緒にそれを吐き出した。
冷たい。地面は冷たくて気持ちいい。
熱くなった傷口が冷えて、心地い―――。
ゴガッ。
目の前にあった足が俺の腹を蹴り上げる。
「ぐぅ・・・」
胃の中のものが全部吐き出すような嘔吐感が俺を襲い、次に鈍い痛みとこれまでの傷口がジワジワと染みる。
「しぶとい奴だなぁ!」
ガツっと顔が蹴られて歯がはじけ飛んだ。
痛ぇ・・・。
オヤジにも殴られたこと・・・は、二回ぐらいあるけどこんなリンチじゃねぇよ。
ひとしきり俺を痛めつけ終わった男達は息を荒らげて、俺を見下ろしていた。
腫れぼったい目蓋で男達の顔が見にくいが、どうやら疲れているようだ。
まぁ三十分も全力で殴り続けりゃそうなるわな。
てか、普通なら死ぬぞ。
「これに懲りたらでかい顔すんじゃねぇよ。大人しくしとけ、ペッ」
男はそう言ってツバを俺に掛ける。
クソ野郎。
てめら覚えておけ。
でも俺、喧嘩したことねぇんだがな。だけど町を出るとき一発ぐらいは殴る。
寝転がっている俺に満足したのか男達が離れて町へ消えていく。
俺は痛めつけられた身体でクソ汚い路地を這いずり、壁に寄りかかって痛みが引くのを待つ。
ああ、もう最悪だ。
手っ取り早くアーリアを暴走させて一掃してぇ。
だけどそれをしちまえば、あのクソ領主達に俺達を裁く口実を与える。
犯罪者としてしまえば、トリネコやミケ、クロさん達は何をされるかわかったもんじゃねぇよ。
はぁ・・・でもこの身体で助かった。
痛みを我慢していればそのうち痛みが引いて、傷の跡が消える。
誰にも心配かけることもねぇ。
たく、損な性格だ。我慢してればいいなんていう日本人の日和見主義が骨の芯まで染みこんでらぁ。
俺は自分自身に笑いながら、重い身体を起こして壁に寄りかかりながら通りに戻った。
ああ!マジかよ!
アイツら許せねぇ!
そこにはお婆さんが殴られて泣いていた。
泣きながら俺に恐怖の目を向けてくる。
あの男達がお婆さんを殴って荷物を奪ったんだ。
しかも、その食材をばらまいて踏みつけてやがった。
お婆さんは俺には関わりたくないと言って逃げるように店を畳むとどこかに行ってしまう。俺は小銀貨一枚を握らせてそれを茫然と見送った。
昨日は手加減をしていたが、今日からは本格的に嫌がらせをするつもりだ。店の食材は全部奪われた。
今から買ってもまた奪われるかもしれない・・・。
くそ、買い直すか?見つからないように急いで集めよう。
俺はコソコソと人混みに隠れながら最低限の食材だけを購入してムギムギ亭へと戻った。
「ユウヤさん・・・これでは足りません」
トリネコが買ってきた食材を見て、不安そうに俺を見た。
俺はそれに申し訳なく思いながらも先ほどあった嫌がらせを彼に説明した。
「・・・すみません。私たちのために怪我までして」
トリネコが俺の顔を見てそう言った。
たぶん、俺の頬にある痣だろう。身体中に出来た痣。
まあ、さっきまでは痣どころではないのだが、もうそこまで回復している。
つくづく規格外の身体だぜ。
俺は心配そうに俺を見ているトリネコに話しかける。
「それよりも食材だ。俺が行けばもう食材が満足に買えないと思う。知り合いの店に持って来て貰えないのか?」
俺の言葉にトリネコは悲惨な顔をして謝る。
「すみません・・・私の知り合いの所も全部、領主様の声がかかって私達に売って貰えないのです。なので市場で買うしか・・・あそこなら町の者以外がいますから」
「なるほどな。だが、それももう出来なさそうだ。どうすっかなぁ」
「ええ・・・困りましたね」
俺達が二人で困った顔で話していると、客室からアーリアが降りてきた。
不機嫌そうな顔で俺を見て、更に不機嫌そうな顔をする。
なんだよ、なんで俺の顔見て不機嫌になんだよ。
「木偶の坊、どうしたのじゃ?それは怪我だな?」
俺の痣を見ていたのかアーリアがそう尋ねてくる。
「ああ、まあな」
俺は言葉を濁しながらアーリアが痣を見れないように顔を逸らす。
『この木偶の坊!情けないのじゃ!』とか言われて殴られたらたまったもんじゃねぇ。
俺がそう考えているとアーリアが顔を赤くして声を荒らげた。
「どこのどいつじゃ!?ユウヤに怪我をさせた奴は!」
般若のような顔をさせたアーリアが怒気を巡らせて怒っていた。
え?なに?心配してくれてるの?
俺はキョトンとそのアーリアの言葉を聞いていた。
「・・・殺す。肉一片も残さず灰にしてくれよう」
赤い瞳を真紅に染めて、口の牙をちらつかせながらアーリアは周りの空間をメラメラと陽炎のように燃え上がらせた。
ちょっと!それは拙いって!
てか、何その陽炎?
あ・・・魔力か。魔力だな?これが魔力って奴か!すげぇ!
いやいや、それよりも拙いって。アーリアが本気になればここら一帯が灰になりそうだ。
いや、きっとなるような気がする。ダメだそれは。俺が昨日我慢した努力が泡と消える。
俺は慌ててアーリアを落ち着かせるために声をかけた。
「待て、アーリア!それは拙いって。とりあえず落ち着け。俺達はトリネコ達に恩があるだろう?俺を殴った奴らは領主の手の者だ。もし、俺達が殺人を犯せばトリネコ達に迷惑がかかっちまう」
俺の言葉をアーリアは鬼の形相で聴いていたが、途中で魔力の放出を止めていた。
じっと何かを考えて、口を開く。
「ふむ・・・。確かにそれは仁義にもとるのじゃ。筋を通さねばなるまい」
「え?」
俺は思わず聞き返していた。
仁義って、そんな言葉がアーリアから出てくるとは思わなかった。
そりゃそうだが、なんだ?仁義ってのは異世界でも共通なのか?しかも筋を通すって何処のヤクザ映画だよ。
俺がキョトンとアーリアを見ていると、アーリアは腕を組みながら何度も頷き、俺に話しかける。
「ならば、ユウヤ。仁義を通す方法で解決するのじゃ。必要とあらば、カチコミの時は声をかけよ」
そう言ってアーリアは満足そうに、店のテーブルに座った。
腕を組んで、なんだか満足そうに鼻を膨らませながら納得の顔をして朝食を待つポーズに入る。
え?アーリアってなんだろう?
カチコミって言葉も異世界で通用するのか?
いや・・・確かに日本語の感覚でヴォーリア語は話せるけど、『カチコミ』の部分は日本語の発音だ。
てかよくよく考えたらアーリアは最初から日本語を話せていたし・・・。翻訳コンニャクみたいな魔法とか不思議な力があるのだろうか?
それにしても随分と高性能な翻訳コンニャクだなぁ。カチコミなんて死語もきっちり訳せてるし。
とりあえず、血を見ることはなさそうだし、まあいいか。
俺は頭の中にあった疑問を全部放り投げて、安心する。
「まあ、とりあえず今後のことを話し合うか、トリネコ。その前にお姫様に朝食をお願いするよ」
俺達の会話に呆気にとられていたトリネコは、慌てたように答える。
「わ、わかりました。直ぐに作ってきますので待ってて下さい」
トリネコはそう言って厨房へと向かっていった。
俺は最近は指定席のようになってしまったアーリアの横の席に座り、何故かご機嫌なアーリアを無視して今後のことを考える。
さて、あのクソ領主の嫌がらせ・・・どうやって乗り越えていくか。
そんな考えを巡らせていると、ミケやクロさん達が朝の仕事を終えてテーブルにつくと食事が始まる。
・・・よし、これにしよう。
俺が黙って味のしない朝食を無言で食べて、今度は全員を交えて俺のアイディアを提案する。
泣き寝入りなんて絶対してやるか。
俺はそんな気分で身体の重い朝を過ごした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます