8痛目 萌え系猫娘ミケの悩みって話だな!クソ領主ってどこいってもいるもんだな!
つれぇ、つれぇよ。
何が辛いって、風邪で発熱しているのに寝不足で仕事に出る感じだよ。
あの辛さ分かるか?重い身体と頭痛と、関節の痛みを抱えながら眠たい目蓋を必死で開けて仕事に励むんだよ。
どんなけブラックなんだよ。休みないのかよ。
ムギムギ亭の一件から俺たちは仕事に励むことになる。
昼頃起きて、昼食から夕方までの店が暇な時間に軽く興行して、夜はがっつりディナーショウ。
一番辛いのはこの身体が吸血鬼って事だよ。
もう、全く理解できねぇ理不尽な辛さだよな。
夜は眠れずに、無言と怒鳴り声しか上げないアーリアに話しかけて殴られて意識を飛ばして睡眠。
昼は気持ちよく質素なベッドで寝ている俺をアーリアがビンタして起こして仕事。
なんだ?俺はアーリアに殴られてばっかりじゃねぇか。
しかもあのアマ、最近は自分が寝るタイミングで俺の意識を刈り取るように殴ってきやがるしさ。
確実に意識を刈り取る場所を心得だしたよ。
唯一の救いは殴られても次の日に影響しないってことだよ。だから俺ももはや自然体で意識を刈られる。
それも恐怖だよな。どんだけ殴られてもパンチドランカーにならねぇてさ。
そんなこんなで俺は今仕事に励んでるって訳だ。
身体が重くて、眠くて注意力散漫でも生きるため・・・。
いや、よく考えたら別にしなくてよくね?
そもそもこの身体ってさ、人間の食い物必要ねぇし、適度な血液補給と薄暗い部屋があればいけんだよ。
なーしてこんなことしてるんだっけ?
冒険?はっ?何それ美味しいの?
「ユウヤお兄ちゃんって慣れてますよね」
俺は極限まで勤労意欲がなくなるような事を考えていると、隣にいたミケが声をかけてきた。
知ってる?最近、ミケが俺のことをユウヤ兄ちゃんって呼ぶんだよね。初めて聞いたときは背筋から脳髄まで電気が走ったよ。
むしろパパって呼んでもいいんだよって血迷ったことを言いそうになっちまった。
危ない危ない。
それよりも答えないと。
俺は無意識で動かしていた手を止めずに聞き返す。
「ん?何がかな?」
「それですよ。お皿洗いもそうですし、なんか料理とかお酒とか注ぐのが様になってます」
ああそれね。そりゃそうだわ。
実家が居酒屋だしな。高校生の頃からバイトしているし。バーテンのバイトもしてたし。
食い物屋に関しては一通りのことが身体に染みついてるからなぁ。
材料があれば、ウチの看板料理の焼きそばとお好みぐらいは楽勝だよ。
酒飲み相手の会話も任せとけ。ウチはヤクザも通ってたぐらいだしな。
ちなみに俺はアーリアが歌っていると基本的に暇だ。
暇すぎて欠伸ばっかしてる。
まあ、アーリアの歌が評判でムギムギ亭は大繁盛。
俺も手伝わないと回らないんだよな。
ってことでアーリアが歌っている間の暇な時間、つまりムギムギ亭の忙しい店を手伝うために俺は色々動いてるってことだわ。
雑用をね。
「色々してたからね」
俺は短く答えながらタワシのような植物の繊維の束で木の皿の汚れをこすり取る。
ちなみに洗剤はない。もう一度言う。洗剤はない。
つまりオール水洗い。しかも、水道もない。
つまりオール井戸汲み。オールウェイズ井戸汲みさ。
まぁ、井戸汲みはこの身体になったからか全く疲労しないけどね。
問題は洗剤さ。洗剤。泡だよ、ソープだよ。ソープさんがないのでね。色々と気持ち悪いのよ。
とは言え、ないものは仕方がない。皿が洗剤で洗われていないというのは食欲を無くすような気もするが、もはや料理を見ても食欲が沸かないのでどうでもよかった。
洗い方はこうだ。
井戸から汲んできた水を三つの木の桶に入れる。
一つ目の桶は最悪だ。もう最悪に汚い。手を突っ込むのすら躊躇われるが、効率上涙を飲むしかない。
一つ目で大方の汚れを落として、二つ目で細かな汚れを洗い落とし、最後の桶で仕上げだ。全部店の裏の庭で洗うんだが、洗い終わったのはタオルにしては薄すぎるただの布で拭いて、ゴザの上で乾かしてる。
そして、汚れた水は店の裏庭に捨てるんだ。
そのまま、ザバーって。ザバーってさ。
問題は今が初夏ってことだ。もうね、凄いよ?
臭いったらありゃしない。一応捨てるところは肥だめのような場所だがよ。下水ぐらいはどうにかしろよってんだ。
ワンダフルワイドアナザーワールドだな。
しょうがねぇ。どんな汚れ仕事だって仕事だ。我慢するしかない。これも生きるために・・・。
いや、よく考えたら別にしなくてよくね?
そもそもこの身体ってさ、人間の食い物必要ねぇし、適度な血液補給と薄暗い部屋があればいけんだよ。
なーしてこんなことしてるんだっけ?
冒険?はっ?何それ美味しいの?
「大変だったんですね・・・」
ミケが仕上げの桶で洗い物をしながら少し悲しそうそう言った。
やばい、俺、熱で浮かされて思考が堂々巡りしてる。
もうこの考えは止めよう。考え出したら部屋で寝ていたくなる。
「いや、そうでもないさ。ミケも大変だろ?」
「いえ、大変じゃないですよ!お仕事好きですし。でも・・・」
何だかミケは猫耳としっぽがしな垂れる。
んー、恐喝か?
正直、そこまで話に入りたくはない。余計なことを考えちまうからな。
でも世話になってるし、相談ぐらいにはのるかね?
「どうした?元気ないけどなんかあるの?」
俺が尋ねるとミケは少し驚いた顔をする。
「え?」
「いや、顔に書いてあるよ。悩んでますって」
「え?え?か、書いてますか!?」
そう言いながらミケは仕上げの桶の水で自分の顔を洗う。
なんだこの萌え萌え生物は?
持って帰りたい。こたつでもふもふしながら寝ていたい。
やばい。俺犯罪者になってもいい。
や、ダメだろ、俺。ミケが悲しむ。彼女がお兄ちゃんと呼んでくれる存在を汚してはならんぞ。
俺はミケの仕草を孫が遊んでいるのを見ている好々爺のような朗らかな笑みで見て言う。
「そういう意味じゃないよ。顔が悩んでるって言う意味だよ」
「え?そうだったんですか!?ならそういってくださいよぅ・・・もう恥ずかしいなぁ」
ミケは少しほっぺたを膨らませながら俺を可愛く睨んで言う。
あーやべぇ、アルファ波が脳から漏れ出て鼻水で出てきそうだ。
なんていう癒やしだ。
ズズズズ。
俺は無意識に出ていた鼻水を啜る。
本当に出ちまったぞ。すげぇな癒やし系猫娘ミケ。君も世界を狙える逸材だな。
鼻水出る可愛さってキャッチフレーズを出そう。
いや、トロトロ鼻水、猫耳ピョンピョン、何時も一生懸命猫娘ミ~ケか?
ダメだな。トロトロ鼻水は無理だ。どう頑張ってもはな垂れ小僧にしか聞こえない。
俺はリラックスして崩壊した顔をしながら笑う。
「ごめんごめん。まあ、言ってみなよ。言ったらちょっとは楽になるからさ」
「・・・そうですか?」
ミケは少し上目遣いで潤んだ瞳でこちらを見てくる。
ダメだって!それ反則だから!あざといから!あざと可愛いから!
心で悲鳴を上げつつも落ち着いた声を出す。
「そうそう」
「わかりました・・・。実はですね・・・ホーデンの街の領主様が私を妾にしたいって言ってきてるんです・・・」
「はっ?」
俺は思わず目を見開いて聞き返していた。
え?マジもんの犯罪者の登場か?しかも俺のミケにちょっかいだしやがって・・・。
その領主とかいう幼女趣味の変態野郎は警察に付きだしてやる!
って警察いないし、そもそも領主ってのはこの街で一番偉い奴じゃねぇか。
こりゃー一大事だな・・・。
俺が難しい顔をして考えているとミケがそれを気遣ったのか慌てて声を上げる。
「いえ!お父さんがダメって言ってくれてるんですよ。でも・・・」
「ん?でもどうしたんだよ?」
「でもですね・・・そのせいで最近お父さんが偉い人に意地悪されているそうで・・・」
「なるほどな」
なるほど。
それで恐喝か。しかも強姦魔の記憶を引っ張ってみるとその恐喝をしていたの強姦魔だった。
アーリア、ナイス!初めてだよ!君を心から賞賛したのはさ!
しばいて正解だ!ドバドバ血を吐き出しながらボロボロ歯を零していた姿を思い出してすっきりする。
んー。でも絶対にこれじゃ終わらないだろうな。
強姦魔はどうやらその領主とかいうやつの下っ端の下請けの下請けみたいな事をしていたらしい。
あの時女性を強姦しようとしていたのは、自分のためではなくてその領主とかいうクソ野郎のために人狩りをしていたみたいだ。
マジで気分が悪い。
それに自分の雇用主の名前ぐらいは覚えておけよ。モンキー以下の知能しかない奴だな。
くっそ。
どうにかするにも俺じゃ力不足だな。権力もコネもねぇし・・・どうしたもんか・・・。
アーリアでもけしかけるか?サクッとこの街の人間ぐらいなぎ倒しそうだしな。
いや、それはどうよ?男として。
自分じゃなくて年下の美少女に全部任せて、自分は背中でコソコソと隠れるような事はしたくねぇな。
でも、喧嘩もしたことねぇ俺がどうにかできるような問題じゃねぇし、それに俺たちはこの街を出る人間だ。
俺が何かをしたとしても街を離れてしまえば、ミケ達が余計に立場を悪くする。
早い話がお手上げだ。
ミケは俺が悩んでいると気にしないでとでも言うように両手をパタパタさせて、笑顔を作る。
「いいんです!これは私達の問題ですから」
「・・・」
何このいい子は?
その年でそんなことを言えるか?普通・・・。
トリネコ、あんた気弱そうで脅迫されてるけど娘の教育は天下一品だなぁ。
感動した!おめでとう!
まあでも俺は何かを出来るわけじゃない。
全部他人ごとだ。俺は日本から来た異世界人で、人間止めてしまった吸血鬼で、この街を出て行く。
そんな俺がなんて言葉をかけたらいいのか、わからねぇよ。
クソ野郎め。
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