3痛目 俺がまた落ちるって話だな!てか俺何度落ちたらいいんだよ!
バシッ!!
とんでもない衝撃で俺が目が覚めた。
痛い!痛いって!今誰か平手した!?
俺は飛び上がって辺りを見回す。
そこには息を飲むような美少女がいた。
燃えるような真っ赤なロングヘヤー、きりりと鋭い紅玉の瞳、顎のラインも眉毛の形も、あらゆる顔の造形が完璧なほどに整っている。今まで見たどんなテレビの向こう側の美人よりも彼女の足下にも及ばないだろう。それにすらりと伸びた手と足。全体的にモデルのような均整と・・・胸は普通だな。
とにかく絶対的な美人の少女が俺の目の前で仁王立ちしていた。その身体はミロのヴィーナスのような服を着ている。
ん?さっきのミイラもこんな服着てたような・・・んな訳ないか。
「おい。起きたか?」
その壮絶な美少女が可愛らしいふっくらとした唇を動かして俺に尋ねる。
俺は慌てて自分の服・・・布をしっかり閉じて、見上げながら答える。
「え・・・はい」
「呆けたのか?ん・・・そうか。私の姿が戻ったからじゃな。アーリアだ。アーリア・スフェルト・メガリストフ」
「え?マジで?」
彼女は何だか不機嫌そうな顔をしてその美しい御手を振り上げる。
ん?何故上げる?
バシッ!!
俺はもんどり打って吹き飛んだ。
「痛い!」
俺は吹き飛んだ先で彼女にそう言った。
ってかそういう以外あるのか?痛いんだぞ?涙がでちゃうぐらい痛いんだぞ!
オヤジにもぶたれたことないのに!
「うるさい。お前は私の従者。何をしても私の勝手じゃ」
「ちょっと待てよ!なわけあるかよ!従者ってなんだよ!」
「私は血を吸った。お前は吸われた。当たり前であろう」
え?当たり前なの?常識なの?
それがコンセンサスなの?
「いやいや!違うだろ!あーもう!何が何だかさっぱりだ!説明を要求する!」
「本当にうるさい奴だな。どうでもいいだろ?」
「言い訳あるか!それにここはどこだよ!ってか俺は死んだはずだぞ!」
俺が声を荒らげて言うとアーリアはちょっと考えるような素振りをする。
「ふむ。知りたいのか?」
「ああ、そりゃそうだろう」
「簡単に言うと私は閉じ込められていたのだ二万年という時間をこの石棺中で。そして、この封印を解くために人間を召喚しのじゃ。この世界とは異なる場所のな」
え?どういうこと?
つまりあれか?異世界召喚って奴?俺ファンタジっちゃってるわけ?
あははは。
ンナ、バカナー。
俺が気が遠くなっているとアーリアは肩を解すように手をグルグルと回す。
「これで理解したであろう」
「いやいや。全然無理っす」
バシッ!
俺はまた吹き飛んだ。
痛ぇよ!痛てぇって!!!
ツッコミ激しすぎるだろうが!もうちょっとは相方の事考えろよ!
「とりあえず出るぞ」
少し距離のある場所でアーリアが何でもなさそうにそう言った。
え?
出ちゃうの?脱出?ゲームクリア?
おーそれはいい。クリアしよう。クリアして帰ろう。
「オッケ!なら俺はもういいだろ?元の世界に返してくれ」
俺はなんとか自分を励まして痛みに耐えながら笑ってそう言う。
営業で営業スマイルはばっちりだ。人にものを頼むときはそれなりの笑顔でね!
アーリアは目を細めてなんだか哀れみのような目を俺に向けてくる。
「何を言っておるんだ?お前はもうあちら側の世界で死んでおるのじゃ。さきほどお前が言ったではないか」
「いや、ほら、召喚できるなら戻すことも出来るんじゃないかとー」
「ふむ。お前の魂をこの世界に召喚して、受肉させるのに一万年かかった。今更封印が解かれた後で一万年をお前のためにかけるわけがなかろう」
ああなるほど。そりゃ一万年かかったら流石にしないデスヨネー。
ってあんまりだよ!
いや、待てよ。日本では既に死んでいるしなぁ。帰ったら大事だ。
・・・死から生還した男。イエスキリストの再来?信者10億人の救世主?
マジか!そうなったらがっぽり儲けれそうじゃん!講演会すればキリスト教徒がわんさか聞きに来るはず!
こうしゃちゃおれない!何が何でも帰るぞ!帰って救世主になるんだボクは!
ボク イズ メシア!メシア イズ ボク!
「帰せ!俺を帰してくれ!いや、帰してください!お願いします!」
俺は何振りかまわずにアーリアの服を握って揺さぶる。
あ、やべ。
服が乱れてもの凄い形相の鬼がそこにいた。
ゴガ!!!!
顔面が潰れたかと思った。
というか潰れた?一瞬で痛みはさほどないから―――
「ぎゃああああああああああああああああああああ」
激痛が走る。顎が砕けて筋肉を引き裂き、歯が頬の中の肉に刺さり、もうとりあえず口の中が凄いことになっている。
痛い!痛い!発狂するぐらいに痛いよ!
俺は吹き飛ばされて、激痛に耐えながら手で顎をさする。
痛い!
手が触れただけでも痛い!
怒りの形相になった彼女が俺の側に近付く。
怖いって!怖痛いって!
「アーリア・スフェルト・メガリストフが血の契約をもって命じる『帰りたいとは思うな』」
その瞬間、俺の中にあった帰郷本能がかき消えた。
え?痛いですけど全然帰りたくないですよ?
何を馬鹿なこといってたんだろ?帰っても彼女いないし、仕事ないし、死んでるし。
全然帰りたくない。むしろここにいたい。
ピロリロリーンという効果音が響いた?そりゃ嘘だけどなんかわからない単語が頭の中に閃いた。
通常ギフト『吸血姫の従者1』・・・祖神との血の契約により吸血鬼化する。その肉体の性能が下級吸血鬼となる。
え?なにこれ?なになに?
吸血鬼化?俺が?吸血鬼?これってスキルみたいなもん?
アーリアは俺の顔を無言で見つめた後で美しい声をかけてくる。
「帰りたいか?」
俺はグルグルと疑問が浮かび上がる中で口から血を吐きながら彼女の問いに答える。
「いへ、じぇんじぇん(いえ、全然)」
あ、歯が抜けた。
「うむ。ならばまずはここをでるのじゃ」
「あ、ひゃい(あ、はい)」
なんだか拒否したらいけないような気がした。
俺は彼女の後を追いかける。
俺にはただの石壁だが、彼女はそこに立ち止まると手を顎に当てて何やら考え込んだ。
「どうきゃひは?(どうかした?)」
俺が尋ねると彼女は振り向かずに答える。
「いや、ちょっと気になったのじゃ。私はまだ本調子じゃないのだが・・・そのときに契約した従者が日の光に耐えられるかどうだったかな?従者なんぞもったことがないからわからぬ」
え?マジで?
それ俺に言っていいの?すっっっごく不安になるんですけど?
つまりあれか?ここを破壊して、外が昼間だったら俺は塵のように滅びるのか?映画みたいに。
「まあいいか」
アーリアはとんでもないことを簡単に言った。
「いへ!ほっひょ!そひダメれひょ―――(いや!ちょっと!それはダメでしょ―――)」
なんとか俺が必死で注意を引こうとして声をかけるのを無視してアーリアは拳を振り上げて石壁を殴った。
ゴゴッッッゴガアアアアアアアア!
ぶっ飛んだ。石が木っ端にぶっ飛んだ。
「ぎゃああああ!」
俺は慌てて遺跡の後ろ。石棺の奥に慌てて隠れる。
いや、だって日の光に当たれば死ぬんだよ?他の人も同じことするさ!俺だけじゃねぇよ!
アーリアが殴った場所には大穴が開いていた。
不思議と倒壊は免れたのか、穴の先には夜の月光りが暗い何かを照らしている。
よかった。外が夜で。ほんとふて寝していてよかった。
「何をしておるのじゃ?行くぞ」
アーリアは大穴を開けたところからこちらをまるで汚い小動物を見るような目を向けてくる。
まあ小動物のようには逃げたけどね。
言いさ別に。
俺は言われるがまま、ひょこひょこと彼女の後を付いていき遺跡を出た。
そこには巨大な森が広がっていた。俺たちはちょうど山?のような天辺に立ってそこを見渡すことが出来る。
いや、よく見ると遺跡だ。俺がいる場所は巨大なピラミッドのような遺跡の石と石の間に草や木が生えている。
あー見たことあるぞこの光景。
ゲームではおなじみで、現実ならアンコールワットとか辺りに似ている。こっちの方がスケールがもっとすごい。
だって山と見間違えるようなピラミッドと樹海だ。
それが満点の星空と満月の下で、静かに横たわっている。絶景として写真に収められれば俺だって受賞間違いなしだ。
「ほへー(すげー)」
俺は思わず自然とこの遺跡のスケールのでかさに感心していた。顎の痛みを少し忘れるぐらいに。
てか顎なんだか熱いな。そっか傷って発熱するもんか。細胞が分裂を加速させて癒やしているんだもんな。
ビバネイチャー。ビバ俺ネイチャー。
訳わからなんな。
俺はその美しさを見渡しながら見ているとアーリアが目に入ってきた。
なんだか少しその背中は寂しそうな感じがする?なんでだろ?
美しい横顔を晒し、風が僅かに彼女の赤い髪を巻き上げ、それを彼女は手で梳くっていた。
「やはりか。もう二万年・・・。我が帝国も滅びたか」
ぽつりと漏らす彼女の言葉に俺はなんだか寂しくなってしまう。
つまりあれだ。彼女もまた故郷を失ったってやつか?
俺は彼女を無言で見ていた。
ん?でも彼女はなんでこんな遺跡に二万年も封印されてたんだろ?てか誰に?
俺が彼女のことに少し興味を抱いていると、アーリアはこちらを振り返って不機嫌そうに仁王立ちして声を上げる。
「行くぞ」
「へ?ろこに?(え?どこに?)」
「お前は馬鹿か?近くの村に決まっておるのじゃ。まずは情報収集からであろう」
あ、そーいうことね。
RPGで言うところの『最初の村』ってやつか。第一村人から情報収集してゲームって進めるもんな。
「オッヘ。じゃひゃ、おりひゅってほとか(オッケ。じゃあ、下りるって事か)」
「何を言っておる?我らは吸血鬼だ。飛んでいくのじゃ」
「ひゃ?(は?)」
え?何、箒で飛ぶの?宅急便?それとも稲妻傷の少年?
てか飛ぶの当たり前なの?常識なの?
俺が間抜けな顔をして考えているとアーリアはその背中にビュワっと羽を広げた。
え?格好いい。その黒い羽?コウモリの羽ぽい黒い奴かっこいいな。出方もこう漫画っぽくて心をくすぐられる。
「何をしておるのじゃ?お前も出せ」
「へ?はひゃ?おへもだひぇるの?(え?羽?俺も出せるの?)」
「ええい面倒くさい!私の足を掴め!」
アーリアはわめくように言ってから、羽ばたいて宙に浮かぶ。
おお、本当に飛んでる。すげぇ!
俺はすごいと言う言葉を連発しながら彼女の足を掴んだ。
ブワリと浮かぶ。手に俺の体重がかかるが、彼女はまるで軽いモノのように飛び上がった。
バッサバッサと羽音が五月蠅いが、ぐんぐんと上昇していく。
遺跡が徐々にその大きさを小さくして、その巨大な全貌を現していく。
・・・って怖いよ!一体どれだけ上がるんだよ!数百メートルは上がったぞ!?
遺跡は自体も高いのにそこから上昇すれば優に1000m?馬鹿な・・・。
満天の星空と満月の月、その煌めきは何処までも広がっていて星の海を泳ぐようにアーリアは飛ぶ。
下を見なければ美しいがな!下はアーリアが速度を出して瞬く間に流れていくし、風は耳にビュウビュウ五月蠅いし、薄い雲が俺の身体に纏わり付いてビッショビショになるし最悪だ!
俺は慌てながら上を見上げ―――。
がyがおうらっわ!!!!!!
ダメだ!見上げるな。そこは見てはならない!魔物が潜んでいる!俺の心を惑わせる魔物がな!
俺はその誘惑に負けないために恐怖の下を見つめながら彼女に声をかける。
「ひょっと、こうこをひゃへてくへ!こひゃしゅひる!(ちょっと高度を下げてくれ!怖すぎる!」
「うるさい奴め。と言うかお前もさっさと羽をだせばよいのじゃ・・・」
不機嫌そうな声を上げたアーリアは何かを考えるように沈黙した。
なにその沈黙。
すげー不吉なんですけど?
俺が別の恐怖に苛まれながら下を見ているとアーリアが嬉しそうな声を上げる。
「そうじゃな。私は従者に甘いようだ。ほら飛べ」
そう言って彼女は思いっきり足を振り上げた。
「へ?(え?)」
その突然の行動で俺の手はアーリアの足からすっぽ抜ける。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああ」
凄まじい風圧が俺の顔と耳を打って、視界の森がぐんぐんと近付いてくる。
えええええええええええええ!!!!!!
俺落とされたの!?スカイダイビング!?パラシュートなしの!?
ぶるっと珍寒が起きて、内臓が浮かぶような違和感が半端ない!
ぎょわああああああああ!
迫り来る森がその木々、枝まで視界に入ってきた。
俺は空中で喚きながら手や足をばたつかせたり・・・飛べるかよ!!!!!
ガサガサガサガサ
無数の木の枝に全身を鞭のように叩かれ、
ベキボキベキ、グシャ。
地面に衝突して、全身の骨が砕かれる音と何やら破裂したような気持ち悪い音が鳴る。
身体を確認するまでもなく俺の意識が途切れた。
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