2痛目 マジもんの吸血鬼に血を吸われたって話だな!ちなみに俺のご主人様だ!

んで俺の散々な人生は幕をしたんだが・・・。

なんで意識があるんだろう?

あれか。人間、斬首をしたっていってもちょんぱされた首には数秒意識は残るって奴。

あははは。なるほどなるほど。

ってなわけあるか!

俺の顔面潰れたんだぞ?頭蓋骨なんてぐしゃりと潰れたトマト状態。潰れたトマトヘッドって奴だ。つまりは即死だ。


まあ、でも意識があるってことは助かったのかな?

それこそ悲惨だ。いっそのこと殺してくれ。


・・・・。

黙っていても始まらないし、少しでも起きられたら呼吸器外して、ゆっくり・・・。いや、呼吸器は止めておこう。窒息は苦しいらしいから。

てなわけで俺はおそるおそる目を開けた。


「え?」

ビックリ仰天。仰天しすぎて間抜けな俺から間抜けな声が出た。

いや、元々間抜けだから不思議じゃないか。

それはいい。とりあえず俺のいる場所だが、よく分からない暗い遺跡みたいな所だった。

外からの光はなくて、周囲には腐った水の匂いやら土の匂い。

明かりは小さく燃えている石の祭壇みたいなところにある火だけ。


というかあの火はどうやって燃えているんだろう?蝋燭や油、ランプ、そう言ったものがなくてただ空中に火が浮いているだけだ。


『おい、そこのやつ』

「え?」

突然声をかけられて俺は驚いて周囲を見渡す。

しわがれた老婆のような声に俺は恐怖する。

『おい、お前だよ。そこの木偶の坊』

また声がかかって、その場所が分かった。

祭壇と思っていた場所は石棺だった。

複雑な模様が揺らめく火を浴びて怪しく光っている。

「だ、誰だ?」

『うるさい。いいからここを開けろ』


いやいや。んなこと言われてハイそうですかと開く奴はいないだろう。RPGで宝箱開けたら強力なモンスター出てくるなんて普通だし、俺そのモンスター倒せないし。

とりあえず会話ができるので聞いてみることにする。


「いや、名前聞かないと・・・」

ああ、NOとは言えない日本人の性。違うな。NOとは言わない営業魂だぜ!お客様は神様!NOとはいいません!

ビバ日本人。流石はサービス大国。短所は長所とはよく言ったもんだぜ。お茶を濁すともよく言ったもんだ。

『いいから開けろといってるんだ!私は!』

しわがれた老婆の声で怒鳴り声を放つお客様。石棺が僅かに振動している。


ク、クレーマーか!それも暴力と恐喝という最終手段に出てきたビッククレーマーだ!

そいう場合はちゃんとマニュアルがある。

「まず氏名を言ってください。そうしないと開けませんよ?』

そうビックマウスだ!ビッククレーマーにはビックマウス、大口を叩くって訳だ。

どうだこれで名前を名乗らせるんだ。

ま、声が震えるのは仕方ないだろう。ビックマウスでも俺はスモールハートの持ち主だからな。チキンハートとも言う。


『覚えておれよ!・・・私の名は永久なる吸血鬼千年帝国、王女の中の王女アーリア・スフェルト・メガリストフ』

あー吸血鬼さんでしたのね。そりゃダメだ。

吸血鬼と言えばあれしか思いつかない。某作画が濃い吸血鬼漫画の傑作の主人公。

その最初の物語を思い出すと。中に入っているのはミイラかな?ダメですよダメ。開くわけないじゃないですか。

それに永久っていっているのに千年と限定しているところもなんだか胡散臭いし。永久なる吸血鬼だからいいのか?どうでもいいか。

『貴様!名を告げたであろう!早く開けよ!おい、こら!どこにくのじゃ!?」

俺は怪しすぎる石棺から身を翻して出口を探しに行った。



・・・ない。出口がない!

これ完全な密室事件ですよ!二十畳ぐらいのドーム状の遺跡の中に石棺と二人っきり。

浪漫しかねぇよ。吸血鬼との二人っきりなんて恐怖を通り越して浪漫だよ。

てか俺マッパだし。全裸だし。

適当にその辺にあったボロボロの布を身体に巻いてなんとかやり過ごす。それにしてもこの布ボロボロだな。穴開いているし、繊維がボロボロすぎて崩れてしまいそうだ。

服になりそうなものを探したが、あるのは石だ。石。俺にロックマンにでもなれというのか?

それなら脱出できそうなんだけどなぁ。


俺はグルグルとなんどもその遺跡の中を歩き回ったり、手でその辺を触りまくったが何も起こらない。

まあ俺は脱出ゲームとか苦手だから無理だな。

あっさり諦めてその辺でふて寝をする。


1時間・・・

2時間・・・

3時間ぐらい?時計なんてないからよく分からないけどそれぐらいは経っているはずだ。


その時間ぐらいになって俺は気がついた。

これはつまりあれだ。

ドッキリって奴だよ。きっと。モニターの向こうでリングしている奴がいるんだ。こんなどん底にいる俺を見て笑っているはずだ。

全裸って放送禁止じゃなかったっけ?まあそれはモザイクか。

もうちょっと鍛えておけば良かった。元カノが見たらきっと電話かかってくるかも知れない。

いやダメだ。期待するな俺。それは絶望への第一歩になる。

無我だ無我。無心になれ、無心になって石棺を見つめろ。


揺らめく火と石棺を見ながら俺は考える。

・開けるか

・開けないか

オープンオアノットオープン・・・文法なんて知るか!

ゲームだったら開けないと物語は進まないし、モニターの向こうでリングしている視聴者が納得しない。

延々全裸に布を被っただけの男のふて寝姿を写すってどんな罰ゲームだよ。


「よし」

俺は言葉に出して、立ち上がる。

ここはいっちょ、一世一代の道化師になろう。ドッキリのプラカード持っている奴が入っていたらひっくり返って演技する。

そして、俺はリアクション芸人の道に突き進むわけだ。過激なバラエティーをどさ回りして、一時の人気を誇り、その後は地方芸人で悠々自適に旅をしながら旨いもの食って太ってやる!


てか、さっきから静かだな?諦めたのか?

おいおい、仕掛け人が諦めてどうする?ディレクターに怒られるぜ?

俺は菩薩のような心境でドッキリに乗っかることにする。

「おい?聞いてるか?吸血鬼の王女様」

『なんじゃ?開ける気になったのか?根気比べならいくらでも付き合おうぞ」

「わかったわかった。とりあえず開けてやるから。いいか?ちゃんと文化的に話し合うぞ?血を吸われるのは遠慮願いたい」

俺は吸血鬼というのを鵜呑みにした振りをする。

吸血鬼の人は俺の願いを聞き入れたのか黙ったままだ。


俺は手にツバを掛けながら重そうな石棺に入った切り込みの上の部分だけを押す。

全身全霊で息を止めて、押し出す。


「ぐおおおおおおお!」


って重いなコラ!

仕掛けを動かせないってどういうことだよ!?企画した奴誰だ!?いやこれは大道具の奴か!


『なんじゃ!動かせぬのか!?この役立たず!木偶の坊!不良品!』

「んだと!?てめぇ!不良品いうな!それは俺じゃなくこれを作った奴に言えよ!」

俺たちは口汚く罵り合う。


不良品はないだろ!役立たずも木偶の坊もいい!だけど不良品は許せない!

お前、不良品があったらどれだけクレーム来るかわかってんのか!?土下座するぞコラ!

身体が無意識に土下座してしまうじゃねぇか!


「くそ!ちょっと待ってろ」

俺はそう言いつつ石棺から距離を取って、クラウチングスタートの体勢に入る。

いや、そのポーズは正しくない。ここはあれだ。相撲の蹲踞って奴だ。

膝を折り、腰を落として土俵に手を突き、一気に走り出す。


うら!突っ張りだコラ!


手首が痺れるような衝撃と共に石棺が重い音を鳴らして反対側に落ちる。

ってうわ!

俺はそのままの勢いで開いた石棺の中に上半身ごと入ってしまった。

ゴンという音がして俺は石棺の蓋に頭をぶつけ思わず目を閉じていた。


痛い。

結構痛い。凄く痛い。

俺は飛び散る星を振り払いながら目を開ける。


「え?」


ああ、なんて言うのかな。

うん。ミイラだ。女のミイラ?髪が長いから女だろう。

あーすげぇな。ここまで手の込んだ大道具なんて初めて見る。いやテレビの道具なんて映画村ぐらいしか知らないからなんとも言えないけど。


あ、やべ。余りに真に迫る迫力だったのでリアクション忘れてた。

よし、ここはいっちょ―――。

「ぎゃあああああああああああああああああああ!」

俺は絶叫を上げた。


待て!待って!

ちょっと待ってよ!ウェイト!ウェイトアミニット!

何でミイラが俺の首を掴むんだ!?待ってくれ!


『では褒美だ。私の従者にしてくれようぞ』

しわがれた老婆の声が耳元で聞こえる。

てか!本当にミイラの口から聞こえる!

マジもんか!?マジもんな――――。


ブシュと俺の首筋に鋭い痛みが生じて、ミイラの口が俺の首を噛んだ。

全身の血流が流れを止めたような感覚、その流れを止めて今度は凄まじい勢いで一点に集中する。

鼓動が激しい。血の喪失によって、不整脈が起きているんだ。

意識が遠のく、血が失われることによって何だかそれが逆に快感に感じてきた。

献血が趣味の奴っていたっけ。なるほどこれがそういうことか・・・。


『うむ。馳走になったぞ。童貞でもないのにここまで美味い血は初めてぞ。栄誉に思え」

全然うれしかないぜ。

その感想が俺の意識の最後だった。


最後の感想まで面白くもねぇな俺って――――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る