十四話 催促してきたので、説明を口頭でする
あっという間に空が茜色に染め上げられ、烏が鳴き声と共に飛んでいく。
夕方だ。
だというのに、特に晴翔は何も言い出さない。
「そろそろ、帰るか」
「あ、うん……」
別に名残惜しいわけじゃないけど、なんだかもやもやした気分のまま、曖昧に言葉を返す。
大体の遊具は遊びつくした。
そんなにシラサギパークは広いってわけじゃないし、一日で殆ど回れてしまう。
だからこそ客足も乏しいんだろう。
「もしかして、まだ行きたいところがあるのか?」
晴翔の切れ長の瞳に見つめられ、胸が躍る。
うん、今日のオレはなんかおかしい。
多分星子のせいだ。
慌てて何か話題を探そうと、周囲に目を向ける。
……目に留まったのは、ゆっくりと回り続ける建造物。
「え、いや……その……あ、観覧車。最後に乗ってみたい」
◆
「ふむ……これを揺らすのか?」
「違う、やめろ馬鹿!」
身体を逸らし、ゴンドラに振動を加えようとする晴翔を慌てて小突く。
この遊園地、全体的に老朽化が激しいのだ。
下手をすればオレたちは地面に真っ逆さまではないかと、ぞくりと背筋が冷たくなる。
昔――
わからないというのは、変身したことがないからだ。
晴翔が言っていたけど、今のオレは変身できるかも定かじゃないらしい。
身体を作り変えられた影響で、バランスが危ういのだとか。
その上、体に混ぜ込まれた『暗黒の種子』が暴走する可能性もある。
流石に命を懸けた実験なんてしたくないので試してすらいない。
「これは、ゆっくりと風景を眺めるための遊具なんだよ」
「なるほど。そういうものもあるのか」
目から鱗とばかりに頷く晴翔。
本当、抜けてるよなあ。
「……あのさ。晴翔」
「ん? どうした」
言われた通り、遠くを見つめる晴翔に声をかける。
すると彼はこちらをじっと見据えてきた。
「お前……何か、オレに伝えたいことある?」
「何か、とは?」
言ってすぐ、オレの顔がカッと熱くなる。
なんだこれ。
まるで期待して催促してるみたいじゃないか。
「い、いや。何もないならいいんだ!」
全身で否定を表現する。
具体的には顔を横に振りながら手もパーのままぶんぶんと。
これ以上ないってくらい、前言撤回を表す。
だけど
「……そうだな。俺は、お前に話しておかなきゃならないことがある」
晴翔は覚悟を決めた顔をしていた。
◆
「陽太。……お前は、ルナという少女になってしまった」
――来た!
ゆっくりと、確かめるような晴翔の声につい浮足立つ。
いや、別に嬉しいわけじゃない。
うん、無表情を貫くぞ、オレは。
「あ、ああ」
「だから、俺は一つのことを決めた」
「……うん」
ごくり。
生唾を飲み込んで、目の前の少年の一挙一動を見守る。
次は何を話すのか、もったいぶるなと文句をつけてしまいそう。
「それが、
――転校してきて初めての友人なのは事実だろうけど、なんとも大げさな物言いがこいつらしかった。
続く言葉を今か今かと待ちわびる。
「――俺は、お前をかつての姿に戻したい」
「うん、うん……」
かつての姿にか。
なるほどな。
それで?
――って
「はぁ!?」
オレは、衝撃で顎が外れるかと思った。
「ど、どういうことだよ!?」
「……そのままの意味だが」
慌てて問いただしてみれば、晴翔はきょとんと首を傾げる。
いや、ちゃんと説明してほしい。
そんな思いを込めて、オレはきっと睨み付ける。
「すまない。言葉足らずだったな」
オレの気持ちを理解したのか、晴翔は語り始めた。
◆
晴翔の説明は大分曖昧で抽象的なものだった。
どうやら、晴翔はオレがこの姿になった原因を突き止め、解消する術を確立したのだとか。
方法については言えないらしい。
効果が薄れてしまうとかなんとか。
オレとしてはどうやって突き止めたのか問い詰めたいところなのだけど
「かつて、
としか話してくれなかった。
それも企業秘密なんだと。
「そ、それをしたらどうなるんだ?」
喜ばしいことのはずなのに、喉がひりつくようで上手く声が出ない。
多分、とても震えてしまっているんじゃないだろうか。
事実、晴翔の瞳に映るオレは、今にも泣きだしそうだった。
「……予想だが、陽太の姿に戻れる」
「みんなの記憶はどうなるんだよ?」
――そうだ。
忘れちゃいけない大事なこと。
「みんな、オレをルナだって思ってる。そんな状況で陽太に戻ってどうなるんだ?」
またあんな思いはごめんだ。
そう考え、オレは晴翔の胸ぐらをつかむ。
観覧車が少し揺れる。
だけどなりふり構っていられない。
「そちらは問題ないはずだ。そもそも記憶の改竄は、ルナの姿になった影響のはず。陽太に戻ればじきに解消される」
「……そっか」
乱暴にしたってのに、晴翔は不愉快そうなそぶりすら見せない。
むしろ糾弾を当然のように受け止めていく。
「――なあ」
「なんだ?」
「星子に言ってた、覚悟や責任って……それなのか?」
オレの言葉にあいつは意外そうな顔。
そして返事は少し間を開けてから。
「……聞いたのか?」
「うん……」
「そうだな。俺は、陽太。お前のことを元に戻してやりたい。ずっとそう考えてたんだ」
オレを見つめる晴翔の顔はとっても真剣で――
「……俺はお前のことを親友だと思ってる。言っただろ?」
とても反論できるものじゃなかった。
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