episode.11「理屈がほとんどヤクザだな」
門限ぎりぎりまで連れ回されて、時刻は午後六時五十七分。
「おお、帰ったか。可愛い妹が心配過ぎて、
建物自体は周囲と変わらない近代的な
「じゃあ、確かに引き渡したぞ」
「ん、御苦労。今日はもう帰っていいぞ。
露骨に待遇の差をつけられて、
門を出て、薄暗い夜道をしばらく歩くと、背中越しに電柱の陰へ呼びかける。
「用があるなら、早く出てこい」
「……あら、気付かれちゃいましたか。初めての道で迷子にでもなったら、
予想通り、出てきたのは
「ぬかせ。
「ええ、まぁ……話が早いのは助かりますけど、もう少し
「そんな、お前の都合は知らん」
「言ってみただけです、お気になさらず……あ、それ持ちますよ。あの店、ちょっと遠いですけど、
買い込んだ荷物を置く場所もないので、二人は結局、ボロアパートまで歩いて戻った。
◇◇◇◆
何だかんだでしっかり夕食の片付けまで終えて、時刻は午後九時四十八分。
「さあ、出発です。詳細は追い追い御説明いたしましょう」
「……この三時間、いくらでも機会はあった気がするが」
ボロアパート近くの裏路地に、公と木沢の姿はあった。
「いけませんよ、食事中にまで仕事の話なんて。そんな味気ない食卓は御免です」
「俺に、何を求めてるんだお前は……」
ぐだぐだ言い合いながら、黒の戦闘服に着替えた公は『変装』の仕上げにサングラスを身につける。もちろん、ただの変装用ファッションアイテムではなく『不特定化』という特殊な魔法効果を
素顔を隠すのみならず、着用している間は個人としての
所持するだけで犯罪になることは言うまでもない。
真っ白なスーツに身を包む木沢も、同じく変装を終えたようだった。
「ほう、さすがにキマってますね。僕のはどうですか?」
「……どう、と言われてもな」
なぜか、『ひょっとこ』のお面を被って。
まあ、力のある品には違いないようだが……
「そもそも、それで前は見えるのか?」
「ご心配なく――」
木沢はくい、とひょっとこの
「視界はゼロに等しいですが、どの
「お前もう帰れ」
「では、参りましょうか。ミスター・デューク
「呼ばん」
二人の変な服を着た男は、やっとこ『仕事』の話に入って夜の街へと
「まあ……助手を二人も付けられた矢先に、お前なんぞと組まされるんだ。どうせ、ロクな仕事じゃないだろう」
「さすが、よくわかっておいでで。実際、女の子にはちょっとキツいですよ。〈
〈廻廊殿〉の送り込んだスパイ――
身に覚えがありすぎる単語を、公は努めて平静に受け止めた。
「なるほど、そりゃロクでもない。だが、情報は確かなのか?」
「二週間ほど前からだそうですね。この近くの廃工場に、正体不明の二人組が
「……ふむ」
ともかく、公のことではないらしい。
まずそれはよかったとしても、本当に〈廻廊殿〉の回し者だとすれば公には全く初耳の話だ。
捨て
「いきなり始末とは
心中で密かに舌打ちしつつ、公は
「いえ、何も」
とぼけられたかと思いきや、木沢は
「確証なんていらないんですよ。
仮に、どこかの飼い犬であっても文句をつけられる
今は時期が時期でもありますし、闇の中から出てきた人たちにはそのまま闇に消えてもらうのが、こちらにとっても好都合でして……」
「理屈がほとんどヤクザだな。享の奴が考えそうなことだ」
肩を
納得の
「で? わざわざ俺を使いだてするのは、元いた〈
「そんな、まさか。あなたのお力を頼ればこそですよ」
無表情に、ひょっとこが
白々しさを承知の
「ああ、どうやらここのようです。踏み込む準備はよろしいですか?」
見えてきたのは、暗く
潜入作戦はいつの間にか、突入作戦に変わっていた――
◇◇◇◆
あれやこれやとしっかりデザートまで
「では先輩、また明日――」
すっかり長居をした茉奈が、
「お、ちょっと待て」
遅れて見送りに出てきた享が、携帯電話の着信を受ける。
……ちょっと待たずに帰りたい。
本能的にそう思った茉奈の、直感はとても正しかった。
享は短い通話を終えると、
「また〈
「えぇー? そんなの、アイツにやらせりゃいいじゃない。そのために呼んだんでしょ?」
「公は木沢と別件で動いている。今はお前と涼真が頼りだ」
「……あーあ。ごはんに釣られたのが間違いだったかぁ」
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