第七話 新たな出会い
朝ごはんや家の掃除などを済ませたあと猫探しへ繰り出し、午後からはサイラスさんのお手伝いをするのがわたしの日課になって、早数日。出来る事はまだまだ少なく、庭の草取りとか薬草類の採取とかの雑用が主だけど、ほんの少しでもサイラスさんへの恩返しになっていればいいな。
「サイラスさん、ゴボウの葉っぱ採って来ました!」
「ご苦労。次はそこの片手桶に水を汲んできてくれ」
「了解です!」
いつもの文机で製薬作業をしているサイラスさんに葉っぱを乗せたザルを届けて、囲炉裏のそばにある桶を手にふたたび外へ向かう。
「夏海」
「はい?」
靴を履いた所で声をかけられ、サイラスさんを振り返る。
「必要なものがあれば言え。遠慮はしなくていい」
サイラスさんの視線はわたしの服に注がれている。今日はサイラスさんに買ってもらった甚平じゃなく、所々切れてしまった白いブラウスとプリーツスカートを着ているから、着るものがないと思われてしまったんだろう。
「大丈夫ですよ。今日は制服を着たい気分だっただけで、不自由はしていないので」
「ならいいが」
納得したのか、サイラスさんは作業に戻る。くたびれてしまった制服はあまり見栄えが良くないけど、たまに袖を通さないと元の世界の記憶が薄れてしまいそうで怖かった。
(でも、サイラスさんにそんなこと言えない……)
井戸に釣瓶を落とし、繋がれた縄を引き上げながら、三日前――自警団の詰所からの帰り道を思い起こす。
往来が盛んな通りを逸れ、河童と巨大なウナギがたわむれている川の傍を行く間。サイラスさんは何も言わなかった。その広い背中に責められているような気がして……サイラスさんの顔を見てすごく安心した気持ちも、「帰るぞ」って言ってくれて嬉しかった事も、後ろめたさに変わって行く。
(やっぱり呆れられちゃったかな。帰った後に放りだされたらどうしよう……)
一歩歩くごとに不安が募って、足が重くなる。ついにはその場から動けなくなった。反比例するみたいに頭の中はフル回転で、嫌な想像ばかりが浮かぶけど、このままでいいわけない。サイラスさんにはちゃんと伝えなきゃ。
「――サイラスさん」
意を決し、サイラスさんを呼び止める。思いのほか声が出なかったものの、サイラスさんは足を止めて振り返ってくれた。
新緑みたいな綺麗な緑色の目が、真っ直ぐわたしを見下ろす。ぐっと手のひらを握って、
「ごめんなさい!」
深く深く、サイラスさんに頭を下げる。
「昨日今日のことも、いままでのことも。迷惑かけてばかりで、本当にごめんなさい」
わたしを居候させてもサイラスさんには何のメリットもない。それどころかデメリットばかりだ。
これ以上足手まといになる前に出て行った方が良い――そうわかっていても、思いの外居心地の良いあの家から離れたくないと、浅ましくも思ってしまう。
「過ぎた事だ。謝られた所で何にもらなん」
頭上から溜息が聞こえる。サイラスさんの声に抑揚がないのはいつもの事とはいえ、今はちょっとくるものがある。
「それに今回の事は、手が空かないからと夏海に使いを頼んだ俺にも非はある」
「サイラスさんは悪くないです! わたしが不注意だっただけで」
「お前の不注意は否定しない。どうせ間の抜けた顔でぼーっと歩いていたんだろう」
「う……」
図星をさされ言葉に詰まる。わたしの反応を見たサイラスさんは少しばかり眉を下げて苦笑し、腕を組んだ。
「もっと教えておけばよかったな。どこが危険で、誰に近づくべきではないか」
「話してもらっていても、うっかり関わってしまったと思いますよ。わたしの性格上」
へらりと笑って肩をすくめると、「そうかもな」とサイラスさんに納得されてしまった。
「それで、何をやって自警団の世話になったんだ?」
「えっと……そのですね……」
コウブツ屋に猫の目撃情報を聞いた事、ガマガエルに売られそうになり殴ってしまった事、自警団の詰所での事などを洗いざらい話すと、サイラスさんは眉間に皺を寄せ黙ってしまった。鋭い目がますます迫力を増している。
「ガマガエル、さんには、後で謝罪に行かなきゃと思ってます」
「いや、それは俺が行こう」
「……すみません」
はぁ、と軽くはない溜息を吐いたサイラスさんの目が、ふいにわたしを捉える。真摯な眼差しに、反射的に背筋がのびた。
呆れられるだろうか。怒られるだろうか――サイラスさんに何を言われても自己責任だ。ちゃんと受け止めるため、腹をくくる。
「――お前は強いな」
「え?」
小さな呟きを聞き逃したため、サイラスさんに確かめる。けどサイラスさんは何でもない、と言うふうに左右に首を振って、歩きだした。
「そろそろ帰るぞ」
「あ、待って! ください」
サイラスさんに聞かなきゃいけない事がある。そうしないと、一緒に帰れない。
「わたし……あの家に居ても良いんですか?」
サイラスさんの背中を見つめて、答えを待つ。知らず知らずのうちに、サイラスさんがくれたスカーフに手がのびていた。
「追い出すなら、初日に焦げた飯を食わされた時点で追い出している」
半身だけ振り返ったサイラスさんはわたしを揶揄するような、自嘲するような……複雑そうな顔をしている。
「飯の用意の他に、掃除や庭の草取りくらいならお前でも出来るだろう。帰って来ない同居人を探していたせいで、やらねばならないことが山積みだ」
サイラスさんが顎をしゃくって家の方を示す。今度は先に行かず、わたしが歩き出すのを待っていてくれた。
嬉しいとか安心したとか、感謝の気持ちとかが溢れて来て……喉の奥が痛む。視界もぼんやりと涙で滲んだ。でもここで泣いたらサイラスさんにからかわれそうだから、一度俯いて袖で目元を拭う。
「全部やります! 他にもわたしに出来ることがあれば、何でもします。今までサイラスさんにお世話になりっぱなしだった分、今度はわたしがサイラスさんの役に立ちたいから」
「空回りして余計俺の仕事が増えないと良いが」
「そ、それは……そうならないよう、精進します」
サイラスさんの隣に並んで、一緒に歩き出す。
話すといっても話題を振るのはほとんどわたしからだけど、サイラスさんはちゃんと答えてくれる。話が途切れても気まずくはならない。川面を吹き上げてくる風が心地よくて、遠くに見える山々の紅葉も綺麗で――そんな些細な事にも心が躍る。
「今って秋なんですか? それにしてはあんまり寒くないけど」
「季節などあってないようなものだ。日ごとに変わるし、桜と向日葵と秋桜と椿が同日に咲くこともある」
「うーん……過ごしにくそう。でも、色んな花をいっぺんに見られるのはお得かも?」
首を傾げるわたしに、サイラスさんは「不風流だ」と鼻白む。ちょっと癖のある金髪に緑色の目、彫りの深い顔などは外国の人そのものだけど、サイラスさんは結構風情を好むようだ。着ているものも和装だし、わびとかさびとか季節の草花にはわたしよりもよっぽど詳しい。草花に関しては職業柄もあるんだろうけど。
路傍に咲く小さな花に目をやるサイラスさんの横顔を盗み見つつ、ふと思う。
わたしが元の世界に帰るって事は、サイラスさんとお別れするって事だ。そうなったらきっと、寂しいだろうな。第二の故郷は言いすぎだけど、わたしにとってサイラスさんは帰る場所になっているから――
「ごめんくださーい」
門の方から間延びした声がして、我に返る。急いで片手桶に水を移し、サイラスさんのもとまで走って行く。
「サイラスさん、お客さんです」
「ああ」
玄関から顔を出したサイラスさんはお客さん――後ろ脚で立つずんぐりとしたタヌキを一瞥し、薬が入った紙袋をわたしに渡した。ついでにわたしが持っていた桶を回収してくれる。
「いつもの薬だと言えばわかる」
「はい」
こうやって、お客さんの対応もたまに任せてもらえるようになった。相手が
「お待たせしました。こちら、いつもの薬です」
「ありがとー。クスリ屋さんによろしくね~」
「はい。お大事になさって下さいね」
どこぞの焼物みたいな体型のタヌキは薬のお代として、ツタを編んだ籠いっぱいのアケビやらタケノコ、ラズベリーみたいな形の黄色い木苺をくれた。今度お隣さんに作り方を教わって、タケノコご飯作ろう。小麦粉とかバターがあれば木苺のタルトとかも作れるけど……オーブンなしでは難しそうだなぁ。
機嫌よさげに揺れるタヌキの尻尾が見えなくなるまで見送り、家の中へ入ると、文机の前にいるサイラスさんからお呼びがかかった。
「なんですか? あ、これタヌキさんからです」
「ああ。その辺に置いておいてくれ」
ほんとサイラスさんはこういうの気にしないな。薬代として木札みたいなお金を払うお客さんより、今みたいに物々交換の人の方が多い。わたしには薬代がいくらなのかわからないし、口出しするのはおこがましいから言わないけど。収支とか考えないのかな。
「すまないが髪を二、三本くれないか」
「お安い御用です」
何の変哲もないわたしの黒い髪を適当に抜いて、サイラスさんに渡す。
「これは何の薬の材料になるんです?」
「毛生え薬だ。
「へー」
サイラスさんが作業している机の上には、紐で束ねられた黒茶色の毛がある。人毛に似たこの毛がけう……なんとかやらの毛なんだろう。わたしが提供した髪の毛共々、はさみで細かく刻まれ、半紙の上にぱらぱら落ちて行く。
ここが異世界で服用者が妖怪だからなのか、サイラスさんが作る薬はわたしが知っている薬とはだいぶ違う。初日に貸してくれた薬もすぐさま傷が癒えて、まるで魔法みたいな効き目だったし。時折教えてくれる薬の材料も「山犬の爪」とか「小豆洗いが洗った小豆」、「天狗の羽根」など変わった物が多い。
「もう行っていいぞ」
「見ていたらお邪魔ですか?」
薬棚から殻付きのクルミみたいな木の実を取り出したサイラスさんは一目わたしを見て、「好きにしろ」と淡々と応じる。サイラスさんの「好きにしろ」は大抵の場合「良い」って意味だ。ダメな時はダメってはっきり言う人だし。
「ありがとうございます。手が必要なら言ってくださいね」
「ニンギョウ屋がお前の手を欲しがっていたが」
「そっちは手の意味が違いますから! わたしが言ったのはお手伝いの方の意味です!」
「わかっている」
吐息混じりに小さく笑ったサイラスさんは、
ニンギョウ屋のあの老婆が山姥だと聞いて以来、彼女に対するわたしの恐怖は増すばかりなのを、サイラスさんも知っているはずなのに。
(いじわる……)
立てた膝を抱えて、上目にサイラスさんを睨む。今みたいに茶化してくれた方が気が楽な時もあるから、本気で責めるつもりはないけど。
(まぁ、サイラスさんが楽しそうならいいか)
口元に笑みの余韻を残したサイラスさんは、繊細な手つきで薬研を扱う。がりごりと規則的に鳴る音を聞いていると、庭を渡って来た風が家の中に入って来た。
水やりをして濡れた土や、お隣の家に咲くキンモクセイの匂いがほのかに香って、消える。
(気を抜くと、寝ちゃいそう……)
今日の気候が穏やかなせいもあって、うとうとしてきてしまった。
「寝るなら部屋へ行け」
少し抑えられたサイラスさんの低い声が、これまた眠気を誘う。
「んー……。あ、そうだサイラスさん」
部屋で思い出した。
「奥の部屋、一緒に使いませんか?」
「…………は?」
音が止んで、静かになる。膝にうずめていた顔を上げサイラスさんを見ると、眉を寄せた怖い顔をしていた。
「あ、あのですね、家主であるサイラスさんを差し置いて、わたしがずっとあの部屋を借りているのは良くないと思うんです」
「前に言っただろう。ここで夏海に寝られると、薬棚やら道具やらが壊される危険性がある。奥にいてくれた方が安心だ」
「わたしそこまで寝相悪くないですから。これも前に言いましたけど」
眠気はすっかり覚めた。机越しのサイラスさんへと身を乗り出し、「だからですね」と人差し指を立てて見せる。
「間を取って、一緒に奥の部屋を使いましょう。真ん中に衝立とか置けば大丈夫ですよ」
「何が大丈夫なんだ」
「万が一わたしがいびきをかいたり、寝相の悪さを発揮しても」
「………………」
サイラスさんの眉間の皺が深くなる。険しい顔で無言は怖いです。
ちょっとやりすぎたかな。寝室を占領している事を申し訳なく思っているのは本当だけど、ちょっとだけ、いつもからかわれているお返しが出来たらなぁ、なんて。まぁ「わかった、二人で使おう」なんて言われてもどうしたら良いか――
「わかった。共有しよう」
「…………え」
い、今なんて!? え、う、あ……えええぇぇぇえぇぇ!?
自分の顔が今赤くなっているのか、青くなっているのかわからない。なんだかサイラスさんをまともに見られない。触れた頬も心なし熱いような……
「などと言うはずがないだろう」
溜息交じりに言われ、すーっと冷静さが戻ってくる。ですよねー。はぁぁ……危うく焦って醜態をさらす所だった。まだどぎまぎしている胸を抑えて、畳の上に座りなおす。そのとき、
「――ふっ」
小さな笑い声が聞こえた。もしかして――いやこれは確実に、またしてもサイラスさんにしてやられたに違いない。あぁぁあぁぁ悔しい!!
「サイラスさ……っ」
サイラスさんの顔を見た瞬間、言おうとしていた事が吹き飛ぶ。意地の悪い笑みでも苦笑いでもなく、穏やかで優しい表情をしていたから。
(それは反則ですって!)
不愛想で怖そうな顔をしている人がそういうふうに笑うと、どうにも威力がある。……なんだろう、なんだか落ち着かない。
「……そ、そうだ、川で洗濯しに行かなきゃ!」
「濡れ女と河童には近づくな」
「はーい」
手早く緑色のスカーフを巻き直し靴を履いて、玄関を出る。門へと続く石畳を辿りながらサイラスさんを振り返ると、わたしの方を見て何か言っているみたいだった。
(気を付けて行って来い、とかかな?)
了解、と応えるため、サイラスさんに敬礼する。
「行って来ます!」
胸の奥に残っているくすぐったさのようなものを意識しないようにしながら、足早に外へ繰り出した。
棒状の胴体の両側にひらひらしたヒレを生やしたスカイフィッシュみたいな生き物が空を飛び交うなか、川辺では雪女や二口女などが楽しそうにおしゃべりしている。どこかの奥さんたちなのか、夕飯が、とか子供が、なんて話題が途切れ途切れに聞こえてきた。というか、スカイフィッシュもどきまでいるって……この世界は本当に摩訶不思議だ。
「……はぁー。失敗した」
洗濯に行く、って言って手ぶらで出てくるってどんだけ間抜けなんだ、わたしは。そもそも、洗濯はサイラスさん
「どんな顔して帰ろう。これはぜったいからかわれる。”洗濯はどうしたんだ?”って、あの無愛想な顔で口元だけにやって笑って……!」
想像しただけでくやしい。うっかりを挽回するため魚でも取って帰ろうか……いやだめだ。釣り竿も網もないし、川に入ったら河童に引っ張られそうで怖い。頭にお皿を乗せた緑色の河童がちらちらと水面に顔を出して、こっちを見てるし。
どうしたものかとうんうん悩んでいると、「ねぇ」と背後から女の人に話しかけられた。
「はい?」
振り返った先には茶色い髪を鎖骨の辺りまで伸ばした、わたしより三つか四つ年上っぽいお姉さんがいた。からし色の作務衣からは微かにお線香の匂いがして、袖口からは大ぶりの赤い数珠がのぞいている。
(妖怪には見えない、けど……)
角や鱗が生えているわけでも、身体の一部が動植物でもない。尻尾もなさそうだけど……この前、人間かも! と思った人がのっぺらぼうでびっくりしたから、油断は出来ない。
「わたしに何か、ご用ですか?」
襲われた時にすぐ走り出せるよう警戒しつつ、相手の出方を待つ。
「もしかしてあなたも”向こうの世界”の子? 高校生くらいに見えるけど」
「!!?」
向こうの世界? それに高校生って……すごく久しぶりに聞いた気がする。
「あなたもってことは、お姉さんもそうなんですか!?」
興奮気味のわたしにお姉さんはちょっと驚いたようだったけど、「ええ」と笑顔で頷いてくれた。
「私は
「人間!」
感動で身体が震える。この妙な世界で、サイラスさん以外に初めて人間に会えた! と言っても、サイラスさんが本当に人間なのか確かめたことはないけど。
はるかさんもあのバク柄の猫に丸飲みされてここに来たんだろうか? 猫がどこにいるか知ってたりするのかな? 帰り方とか知ってたり――! 聞きたい事がたくさんあって気が逸る。それがそのまま顔や態度に出ていたのか、眉を下げたはるかさんは「落ち着いて」と笑った。
「あなたも辛い目にあったのね……」
「え?」
はるかさんは繕いだらけのわたしの制服を見て、痛々しそうに顔を歪める。
「あ、これはもう何日も前の事ですし、怪我も治してもらったので大丈夫です。衣食住の面倒を見てくれる人もいるので」
この世界に迷い込んでしまったあの日、あのタイミングでサイラスさんに出会えていなかったら、わたしは今こうして生きていられなかった。性格にちょっと難があるものの、サイラスさんは良い人だし。わたしは恵まれているんだな、と改めて思う。
「そうなの? 和尚さまみたいな方が他にもいるのね」
「和尚さま?」
首を傾げるわたしに、はるかさんが説明してくれた。
「ここの下流にあるお寺の和尚さまよ。私たちはそこで厄介になっているの」
「わたしたち、ってことは他にも人間がいるんですか!?」
「ええ。といっても、今は皆お寺を出て独り立ちしているから、人間はわたしだけだけど。そこでは妖怪だとか人間だとか関係なく、皆で助け合って生活しているのよ」
誇らしげに語るはるかさんは、左手首に嵌めている赤い数珠にそっと触れる。
きっと、はるかさんも辛い目にあったんだろうな。ここでは人間は妖怪の食糧か、売り物みたいな扱いをされる事が多い。もちろん全員が全員そうじゃなくて、サイラスさんやヤヨイさん、クスリ屋に来る一部のお客さんたちはわたしに親切にしてくれるけど。いつどこで襲われるかわからない状況は、結構神経が磨り減る。
「あなたさえ良ければ、一度お寺に来てみない?」
「お寺に、ですか」
「そう。良い所よ。和尚さまも皆も良い人だし」
正直、興味はある。はるかさんがどうやってこの世界に来たのか、バクみたいな白黒の猫を知らないかも聞きたいし、お寺を独り立ちしたという人たちが元の世界に帰れなかったのか、それとも帰らなかったのかも知りたい。
ただ問題は、サイラスさんの事だ。
(サイラスさんに言ってから行った方がいいよね。この前の自警団の時みたいになったら、また迷惑かけちゃうし)
「もしかして、面倒を見てくれてる人に負い目がある?」
「あ、えっと、はい」
「そっか。まぁ、今日知り合ったばかりの私に着いていくのも戸惑いがあるだろうし」
「いえそんな! はるかさんのこと疑っているわけじゃ」
「いいのいいの。わたしも最初、誰の事も信じられなかったから」
からからと笑ったはるかさんは、「それじゃあ」と提案をしてくれた。
「明日また会えないかな? あなたの都合の良い時間に」
「はい、ぜひ!」
その後はるかさんと待ち合わせの約束と、遅い自己紹介をしてから別れた。
もしかしたら元の世界へ帰る手がかりが見つかるかも、と思うと、その夜はなかなか寝付けなかった。
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