天空都市の歩き方

 雲を突き抜けてそびえる山々は、空の海に島の如く点在している。


 その中の一つに、切り開かれて平らになっている場所がある。信じられないことに、そこには街が存在しているのだ。


 天空都市アルドラは、山頂に作られた街で、それほど人口は多くない。都市の周囲には、山の斜面を切り開いて作られた農園が広がっている。長い歴史を持つこの街は、近年では、観光地として注目されている。


 今日は、この天空都市の魅力を紹介していくとしよう。


 街を訪れる旅人を、最初に迎えてくれるのが、飛行船の発着する「空の船着場」である。「空の船着場」には、毎日多くの飛行船が、世界各地から交易品と観光客を運んで来る。飛行船の発達により、アルドラはこの地方における空の貿易の中心地となっているのだ。


 空の港から街に入った旅人は、巨大な白い門に迎えられることとなる。「白き王家の門」である。この門は、かつてアルドラがこの地一帯を支配する王国の首都だった頃に作られたもので、王国の栄華を今に伝える数少ない遺産の一つだ。


 門をくぐって道なりに進んでいけば、石造りの建物が密集する市街地に出ることができる。市街地では、マーケットが開かれており、世界各地の交易品やアルドラ名産の農作物、伝統的なアクセサリなどを買うことができる。世界各地から集まった香辛料の香りが漂い、鮮やかで奇妙な形をした作物や、様々な色の宝玉で作られたアクセサリが並ぶマーケットは独特の雰囲気を醸し出している。


 マーケットでの買い物を済ませたらひとまず街の郊外へ向かうのがよいだろう。そこには、段々畑が山の斜面に沿って果てしなく続く素晴らしい景色が広がっている。多種多様な作物が栽培されており、高山での栽培に適したアルドラ固有の品種も数多く存在する。紫や赤の色鮮やかなジャガイモや、巨大な黒いトウモロコシ、手の平に乗るほど小さな赤いカボチャなどは、見ているだけでも楽しめるだろう。


 市街地には、郊外の農園でとれた新鮮な野菜を使った伝統料理を食べることができるレストランもたくさんあるので、食事という点でもアルドラを楽しむことができる。観光客には、ジャガイモと鶏肉を煮込み、香辛料で味付けした「カラカル」という料理が特に人気である。


 アルドラを訪れた旅人は、この天空の都市が農業や生活に必要な水をどうやって確保しているのか疑問に思うことだろう。高山の頂上にあるこの街に豊富な水を供給するのはとても難しいことに思えるかもしれない。しかし、アルドラ周辺の高山地帯には、雪解け水と地下水が豊富にある。そして、古くから水道技術が非常に発達しておりそれらを常に利用できるのだ。ここでは、何百年も前に作られた水道が今なお使われているのは珍しいことではない。昔から使われ続けている水道のおかげで水不足に悩まされることはほとんどないという。


 街を観光し終えた旅人は郊外にある宿で旅の疲れを癒すことになる。宿の窓からは、雲の海とそこから突き出した山々が織り成す絶景を見ることができる。夕暮れ時に赤く染まる空や、夜の満天の星空をさえぎるものは何も無い。空の景色を思う存分楽しめるのが、アルドラ観光の醍醐味である。


 帰りの飛行船は、始発の便に乗るのがよいだろう。なぜなら、飛行船の窓から、夜明けの光に包まれた天空都市の姿が見えるからだ。

 

 あなたも次の休暇には、アルドラを訪れてみてはいかがだろうか?


                                     


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