第6話 家
「ああ、こんなに美味い物を食うたのは、久しぶりじゃ」
実に幸せそうな顔をしているヒタスキ。ご機嫌をとる時には、なにか食べさせればよさそうだ。
「剣のお姉ちゃん、良く食べたニャ」
「良く食べたニャ」
双子が、ヒタスキの下腹部をさすりまわしている。
「よし。抱っこしてやろう」
「わーいニャ」
「わーいニャ」
軽々と双子を持ち上げる。
「馳走になったな!」
「気にすんねぇ! こっちは助けられたんだ!」
「僕なんて、食われちゃうとこだったし」
「いや、剣士が来なかったら、俺が助けてたぜ!」
「ありがとうございます。どんな秘密兵器なんですか?」
「ま、そのうちな!」
「ほほう、腕に覚えがあるのじゃな」
「いやいや、まぁそれはそれとして、宿、紹介するぜ。ランクはどのくらいのとこがいい?」
「ああ、今日はメルリウスの工房に泊めてもらうこととなった」
「ええ? 今日来るの?」
「さっきよいと言ったではないかっ!」
「えええ、、、いいけど」
「ワーイ! じゃあボクも泊まるニャ!」
「ボクも泊まるニャ!」
「おおお、それは素敵だなっ!」
「狭いから!」
「じゃ、双子も練菌とこお泊りで。宜しく頼むぜ!」
「決まっちゃった!」
まあ、いいか。
一人っきりになってしまってこの地に流れついてからは、自分の家に他人を入れたことはないけれど、悪い気分ではない。
地面に降りた双子が、ヒタスキと手を繋いで輪になって嬉しそうに飛び跳ねている。
僕は、自分が微笑んでいることに気づいた。
僕の工房兼住居まで、五人でぷらぷらと歩いてゆく。
「じゃ、明日朝迎えに来っからよ!」
「了解です」
家の前で錬金術師と別れ、三人を家に案内する。
一階が居間と研究室、調理場兼食堂、二階が寝室兼物置と完全物置部屋、屋根裏も物置となっているが、来客がないのをいいことに居間自体も物置に近い状態となっている。とても恥ずかしい。
「散らかってて、ごめんね」
「……いろんなものがあるのう」
「錬金のお兄ちゃんのお部屋に似てるニャ」
「なんか似てるニャ」
「はは。そうだね」
ベッドはヒタスキと双子に譲る。僕は床に敷物をして、シーツにくるまって寝ることに。
灯を消しても双子とヒタスキは、もぞもぞクスクスとなにかやっていたが、すぐに静かになる。ホムンクルスは寝起きがいいと聞いたが、どうやら本当らしい。
ベッドがきしむ音がする。
真っ暗闇の中、ヒタスキが静かに、ゆっくりと起きあがる。目には見えていないけれど、感覚で動きはわかるし、どこにいるかもわかる。
僕が首を向けると、ベッドから出てきて僕の隣に来る。
ヒタスキは、無声音でひっそりと言う。
「エルフの話をしてくれ」
僕がシーツの端を上げる。秋のひんやりとした空気が、体に触れる。
ヒタスキはするりと入ってきて、滑らかであたたかい肌を寄せてくる。手を握り合う。
「……なにから話そうかな」
人肌の温もりが、心地よい。
「森の人、って呼んでる。……って、ヒタスキ?」
もう寝ていた。寝つきよすぎ。
仕方がないので、僕も寝た。
目が覚めると、隣にヒタスキがいなかった。ベッドに戻っていて、シーツを被りながら双子とまたゴソゴソとじゃれあっているようだ。
「おはよう」
三人はシーツからちょこっとだけ顔を出す。
「メルリー起きたぞっ。ぷっ」
「くすくす」
「くすくす」
なにがおかしいのだろうか。メルリーって誰?
「メルリウスよ、なんかおなかすいたぞ」
「朝から食べる?」
「故郷にいた頃は朝、昼、夕と食ってたぞ。それ以外にも山に生えてる果物とか見つけるともぐもぐしておった」
「どんだけ」
まぁ、教会は質素に一日二食で、なんて言っているけれど、農家の人とか肉体労働者は朝食べたほうがいいと思う。
自分はどちらかというと頭脳労働だが、朝、なにか胃に入れておいたほうが調子が良い。
「じゃあ、ちょっとスウプ作るね」
「わーい」
「わーいニャ」
「わーいニャ」
キャベツ、カブ、玉ねぎを刻んで、塩漬け肉と一緒に煮込む。チーズとパンを適当に切る。そうこうしているうちに、錬金術師がやってくる。
「なんでぇ、朝ごはん食うんか! リンゴ食おうぜ、リンゴ!」
こうして、朝食が賑やかに始まった。
心が和む。
双子もヒタスキも、可愛らしい笑顔を見せてくれる。
自分の家で、人と一緒に食事をする。ずいぶん昔にはそんなこともあったような気がするが、よく思い出せない。
食事を終えて錬金術師と双子は帰宅、僕とヒタスキは教会へ。現地に着くと、司祭の執務室に通され、竜監視業務の契約条件が提示される。
「ここ、こんなに貰えるのかっ!」
ヒタスキが驚いている。そればっかりだな。
「そう言って頂けると心が休まるよ。少なくないかと心配しておった」
「そんなことはないぞ。充分である」
契約内容。期間はひとまず九月末まで、現地の宿泊施設にて寝泊り。
僕の給金はヒタスキの半分程度だが、不思議な条件がついていた。毎日の樹海巡回時、王国で品薄になっている浮揚茸の採集を認める。但し、売り上げの二割は領主に納めるものとする。
かなり美味しい。
浮揚茸の子実体は九月の限られた時期しか採れないので、毎日ゆく予定だったし。
「急な契約でこうなったが、二人には十月以降も改めて契約したいと、領主殿は言っています」
ヒタスキが、溢れるような笑顔でコクコクと首を上下に振りまくっている。
「メルリウス」
「はい」
「君には別に頼みたいことがある」
「なんなりと」
「エルフ族と、コンタクトを取って欲しい」
「はい。考えていました」
司祭は、優しげな微笑みを見せる。
「助かる」
エルフと竜は、交流がある。
この街でエルフと最も親しくしているのは僕だし(とは言っても今では月に一度会うか会わないか、程度になってしまったが)、竜社会の情報を得るのには適役だろう。
「明日から監視施設での寝泊り開始は、可能かね?」
「大丈夫です」
「我も可能じゃ」
「では、明日朝の馬車でお送りしよう」
「定期便があるのですか」
「ああ。連絡事項等もあるが、毎日の食事を運んでいるよ」
ヒタスキが、体を微妙にくねらせながら言う。
「い、一日、二食なのか?」
「ははは。我々僧侶はそうだが、お二人や剣士たちは自由にするとよい。食料が足りなければ言っておくれ」
「おお、ありがたし。我は大人の十倍は食うからな」
今日一番の笑顔を見せる、ヒタスキ。どれだけ食べるの好きなのだろうか。僕は、食べるという行為があまり好きではないので、想像もつかない。
「今日もこれから定期便を出すが、軽く現地を見ておくかね? 向こうで昼食をとって、三時迄にはこちらに戻る予定だが」
僕とヒタスキは、顔を見合わせる。
「どうする?」
「お主と一緒にする」
僕はうなずく。
「では、同行させてください」
一時間と少々、馬車に揺られる。
建物が見えてくる。早くも臨時の掘っ立て小屋が一軒、建っている。ここには各人の個室が用意されているそう。
そのすぐ傍では堅牢そうなレンガ造りの施設を建築中。
騎士らしき一人が、軽快な調子で地面を耕している。彼は、馬車から降りた僕たちに気づいて手をとめ、快活そうな笑みを浮かべる。
「司祭様、おはようございます!」
「おはよう。精が出ますな」
「いや、ちょっと暇だったんで、土、ほじくりかえしてました」
さすがは農民出身だ。
「なんかの野菜と、小麦でも蒔こうかと」
「よい土地であろう」
「そうっすね。……魔族さえ出なければ」
騎士の顔に微妙に影がさす。司祭は気遣うように言葉を掛ける。
「無事を祈ります」
すぐに元気を取り戻す、農民騎士。
「ありがとうございます!」
司祭は、騎士に僕とヒタスキを紹介する。挨拶を交わす。人の良い感じで好印象。体力もありそうで頼もしい限りだ。
井戸はもう掘られていた。
この近辺は王国内では珍しく水の出易い土地で(この地の開拓に成功した理由の一つ)、水脈をきちんと読めば三十フィートも掘ると水を得ることが出来る。
樹海から五十ヤード程の所に周囲を見渡すための櫓を組んでいて、その下を詰所としているようだ。
そこと樹海の間に際と平行して木の杭が立てられ柵となっている。その間隔は、人が通るには広いが小型の竜の横幅よりは狭い、程度に揃えられている。
鉄竜なら火を吐いたりはしないので、普通の騎士でも三人以上で長槍を使って攻めれば、よほど連携が悪くない限りは討伐出来るし、柵は幾らか足どめになれば良し、ということだろう。
騎士はもう四人ほど駐屯していたが、司祭が言うには精鋭揃いとのこと。明日には第二陣が来るらしい。
教会からは修道士二名、うち一人は教会所属の魔術師。腕利きと聞いている。姿を見かけたことはあるが話したことはないので、ここで交流するのが楽しみだ。
と思っていたら、ちょうど樹海から出てきた。少し疲れ気味の灰色のローブをまとって、のっそりと歩いている。
司祭の来訪に気付き、やはりゆったりとした足取りでこちらまで来て、無表情で挨拶をする。
「おはようございます。司祭様」
「おはよう。どうかね?」
魔術師は、安閑とした感じで軽くうなずく。
「概ね」
頭髪のない彼の頭の右半分には、黒色顔料でびっしりと幾何学文様が描いてある。両手の甲は、同じく黒の神代文字で埋められている。
「練菌術師と東方の剣士殿だ」
魔術師は、僕の顔を見て言う。
「こんにちは。お噂はかねがね」
「宜しくお願いします」
「こちらこそ」
今度はヒタスキに視線を移す。
「こんにちは。すばらしき剣士と伺っております」
「大した者ではない。宜しく頼む」
「こちらこそ」
感情の全く感じ取れない目を、僕に戻す。
「浅い部分ですが、樹海の各所に探知魔術を仕掛けておきました。イノシシ以上の大きさのものが近づけば、すぐにわかるようにしてあります」
「心強いです」
「あなたの能力にも、とても期待していますよ」
「恐縮です」
この魔術師は表情らしきものを全く見せないので、ちょっと怖い。
司祭が、おだやかに言う。
「さ、昼食をとりましょう」
櫓の下の、屋根はあるがかなり風通しの良い詰所で、皆で食事。料理は豆や野菜を煮たもの、パンとチーズ。リンゴ、ナシ、プラムなどの果物もかなり持ち込まれていて、これは好きな時に食べていいとのこと。
「美味いのう」
ヒタスキは、なにを食べてもそう言う。よい娘だと思う。
騎士の方々も素朴で気さくな印象。そして、歩いているのを見るだけでも想像出来る、強靭な筋力。皆、地元農家の出身で、幼少の頃から力仕事をしていた人たちなのだろう。
果物の皮や種、芯などは、そこらへんに放ってやると、騎士団が連れて来ていて放し飼いにしている豚が食べてくれる。
豚さんたちは僕らの排泄物も喜んで食べてくれるし、いざという時は食糧になって頂けるありがたい存在だ。
楽しい会食を終え、司祭と街に帰る。教会の前で馬車から降ろしてもらい、司祭に別れを告げる。
二人きりになる。
ヒタスキが頬を赤く染めて、体をくねくねとさせ始める。
なんとなく、わかった。
「今日も泊まってく?」
「い、いいのかっ?」
「勿論」
「宜しく頼むぞっ!」
先ほどの今日一番の笑顔を、更新した。
「食事は我が調達するっ!」
「ありがと」
「早速買物といこうか。マーケットに案内するがよい」
なんか偉そうな口ぶりになるし。
「冬の服、どうするの?」
「寒いが、食い物さえあれば今着ているものでなんとかなる。首と腹に少々布を巻きつけるがな」
袖無しシャツに超短いズボンなんですけど。
「大丈夫なの?」
「ああ。平気じゃ。さすがに冬の大山脈越えは避けたがな。はっは」
「うん。じゃあまずは服屋ね。可愛い服プレゼントするよ」
「な! いらぬわー!」
僕は、変に体をよじっているヒタスキの手を握って、商店街の方向へと引っ張ってゆく。
「ちょ! カワイイ服など着んぞっ! 着んからなっ!」
そう言いつつも、手を振りほどこうともせずすんなりついてくる。すぐに馴染みの、よい品揃えの古着屋に着く。
「ああ、錬菌術師さん、お怪我はありませんでしたか?」
店に入ってすぐに、いつもいる女性店員に声を掛けられる。だいぶ話が広がっているようだ。
「無事帰ってきました」
「良かったですね」
優しげな微笑を浮かべながら話す店員さん。いつもよい香りのする美しい人だ。
「ありがとうございます」
「あら、そちらのキュートなお子さんは?」
「お、お子ではないっ」
ヒタスキが、頬を膨らましている。
「あ、、、その剣」
よく気のまわる店員さんは、背中と腰に差してある細い棒状の物に気づいたようだ。
「東方から来た剣士です。服をプレゼントしようと」
恐縮しつつ、謝意を表す店員さん。
「失礼致しました。あまりに愛らしい方だったので」
ヒタスキが、僕のうしろに隠れ始めた。どうも、中々の照れ屋さんらしい。
「背が低めですが、合う服があれば」
「はい。ございますよ」
「まずはシュミーズかな」
「少しお高めですが、丁度良いサイズの亜麻製の物が入っていますよ」
これは即決、次にご当地毛織物製のコットを。最近は少し短め丈が流行っているのだが、背の低いヒタスキでも、長めになってしまうことを我慢すれば、そこそこ選べる感じだった。
上衣をどうするか。
店員さんがいくつか見繕ってくれる。
「その美しい顔と素敵なスタイルなら、なにを着ても似合いますよ」
ヒタスキは、僕のうしろでもぞもぞとしている。どうにも背中がくすぐったい。
「全くですね」
僕は、作り笑顔を浮かべてうなずく。
美しい店員さんはやわらかに微笑み、僕の目をじっと見つめて言う。
「あなたもですけれどもね。錬菌術師さん」
「いえ、それほどでも……」
僕も、隠れたくなる。穴があったら絶対に入る。人のことは言えなかった。
店員さんのお勧めは、鮮やかな緋色の袖なしシュルコ。ヒタスキの真紅の髪と瞳に、とても合っていると思う。着せてみたい。是非これにしよう。
一応、ヒタスキの意向を問うてみましょうか。
「これでいい?」
「な、なんでもよいぞっ」
予想した通りの返答。僕は、店員さんの顔を見て苦笑い。
「どうしたものでしょうか」
「きっとOKですよ。ちらちらとこちらを見ていましたし、このシュルコを手に取った時は、ちらちら度が極端に増していましたので。ふふふ」
決定。
さて、次は帯を。
「刺繍入りのものが素敵ですよ。お勧めです」
かなり値が張るが、無地のものよりも華やかで好印象。
この美人店員さんは、普段はそんなに高価なものをお勧めしてくることはないのだが、意外にやり手かもしれない。
黒地に赤いバラの柄入りが、優美で大人びた感じの魅力、やはり黒地に赤リンゴ柄は、可愛らしくてなごむ。
「ヒタスキ、バラとリンゴ、どっちが好き?」
「…………………………リンゴ」
「花柄のでお願いします」
「はい花柄ですね」
ヒタスキが、僕の背中をポカポカと叩く。
「やっぱりリンゴで」
「リンゴですね」
ちょっと、からかってしまった。
一式買い揃えることが出来たので、店を出る。
借りてきた猫のようになっていたヒタスキは、すぐに調子を取り戻す。
「ふー。あの女店員、ヘンな匂いがしたな」
「いい香りでしょ」
「ふん。お主あんな女が好みかっ」
「いや、そういうわけじゃないけど……」
ヒタスキが目を細めてそっぽを向いている。空腹なのかな。
「れ、練菌術師さあんっ!」
急に遠くから声を掛けられる。花屋の看板娘だ。物凄い勢いで走ってくる。
「大丈夫でしたかっ?」
「ありがとうございます。なんとか助かりました」
「ああ、よかったですっ! 心配していましたわっ!」
頬がうっすらと赤く染まり、瞳が潤んでいる。なんだか色っぽい。距離近い。
「お元気そうで……。本当によかったです」
看板娘のたおやかな指が、僕の胸に触れる。心臓が高鳴る。
ヒタスキが、また僕のうしろに隠れる。
「あら、可愛らしいお子さんですね」
「……お子ではないっ」
「こう見えても、手練の剣士ですよ」
「えええええええ?」
看板娘がぱっと動いてヒタスキのそばに瞬間移動。花屋さんなのに身体能力がかなり高そうだ。
「まぁ! こんなに可憐な女子でしたかっ! 竜を一撃で倒されたのですよねっ!」
手を握っている。
「あああ、なんて愛らしい」
頭を撫でまわし始めた。
「……た、大した者ではない」
二人とも顔真っ赤。空腹なのかしら。
「お店に遊びに来てくださいねー」
花娘は、別れ際に手を振りながらそう言った。他所者をあまり警戒しない土地柄ということもあるが、かなりフレンドリーな人だ。
「ふー。花の匂いがしたな」
「花屋さんだからね。で、おなか減ってる?」
ヒタスキが素早く腹を押さえる。
「……こっ、小腹が減ったかもな?」
おやつタイム。
食事も出来るパン屋で、ミードを飲みながらフルーツの入った甘いペイストリーを食べる。美味い美味いと言って、おやつというレベルではない量の菓子類を軽く平らげるヒタスキ。とりあえずメニューにあるもの全種類を征服した。
夕食のパンも、ここでヒタスキが購入してくれた。
「なにそれ。一週間分?」
「今日と明日の朝の分じゃが」
そうでしたか。
「パン屋は本当にいい匂いがするのう」
「故郷にはなかった?」
「皆、毎日粥を食べていたな」
「こっちでも食べるよ」
「うむ。そのようじゃな」
家に着く。
少しゆっくりしよう。明日からは、なにが起こるかわからない。
「夕食まで、ごろごろしよっか」
「うん。いいな」
「買ってきたシュミーズ着なよ」
「あ、あまり肌を隠すと、感覚が鈍るような気がするのじゃがなぁ」
「家の中ならいいでしょ」
「そ、そうじゃな」
二人で手をつないで、服を着たままベッドでころんとする。
夕食を摂る。
服を洗ってあげる。水が真っ茶色になった。
また少しころんとする。
さて、明日の準備。物置部屋から久しぶりに引っ張り出してくる。
「ん? 弓か」
「一応ね」
「腕前は?」
「そこそこ」
「我も故郷でそこそこやったが、剣のほうが性に合っておった」
「弓は好きというわけではないけれど、世話になったエルフの形見でね」
「ふむ」
「不思議と当たるんだ」
「……ああ。魔力がこもっておるな」
「わかる?」
「なんとなくな」
「森の加護だって」
いざとなったら、僕も戦わなければ。用意してある熊除け玉も全部持ってゆこう。なにか嫌な予感がして、多めに作ったのだった。
今日はヒタスキと二人っきりで、手を繋いで寝た。
話してくれというので、少しだけ、エルフの話をした。
けれどもヒタスキは、僕の両親のことは、一切聞こうとしなかった。
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