第28話 希望の救世主


「ミネフェルさん、美原さん。ご馳走様でした」

「ご、ご馳走様でした……。も、もう……食べられない……」


 あれから俺はスープを五杯おかわりし、他の料理が食べられなくなるくらい飲んだ。

 六杯目にいこうとしたが、流石に皆から止められ、仕方なくスープを諦めた。


 その後、吐きそうになるのを堪えながら、なんとか完食した。


「新人君。スープ飲みすぎだよ」

「そうだぞ。いくら美味いからといって食べ過ぎるのは良くない」


 隊長とザルマスさんの言う通りだ。ちょっと調子に乗って飲み過ぎた。

 でも、なぜか飲まないとやっていけない感じがしたんだ。確かに美味しかったのもあるんだけど、清華の嬉しそうな顔を見るたびに胸の奥が苦しくなって……。


 やめだ。やめやめ。こんな事考えても仕方ないだろ。

 違う話題を考えよう。違う話題……。


「あぁぁぁ!」

「えっ!?」


 俺は叫び声を上げながら、勢いよく立ち上がる。


「ど、どうした拓斗」

「完全に忘れてたぁぁぁ!」

「新人君! だから何がだって!」


 すっかり忘れていた。料理に夢中で忘れている事さえ気付かなかった。

 聖の精霊の事、相談するんだった。


「あの……。相談したい事あったんですけど、すっかり忘れてて……」

「なんだ……。そんな事か。とにかく座れ。話はそれからだ」

「はい……。すみません」


 なんか、我に返った途端に凄く恥ずかしくなってきた……。叫びながら立ち上がるなんて……ああ、思い出すだけでも恥ずかしい……。


 俺は恥ずかしさで前を向けず、俯きながら静かに座る。


「それで? 相談したい事とはなんだ?」

「えっと……。皆はルナリスって精霊、知らないんですよね?」


 俺が問いかけると、皆が揃って首を縦に振る。


「じゃあ……“聖の精霊”ってのは知ってますか?」

「…………!」

「……? 晴羽君。そんな精霊実在するの?」


 俺の問いに、首を傾げたのは四人。

 反応したのは、一人だ。


「隊長。知ってるんですか?」

「……ああ。聞いた事がある。それで……その精霊がどうかしたのか?」

「あ、はい。俺が光を操ったのは、隊長とティレンさん、そして清華が確認してますよね?」


 ガレグラムとの戦闘時、俺が光の壁を使ったのを見ていたのは四人。

 ガレグラムに清華。隊長にティレンさんだけだ。


「はい。確かに僕は見ましたが……」

「ああ。あれは確かに光だと思う」

「ええ。目の前で見ていたけれど、光のような感じだったわ。でも、それが何か関係あるの?」


 疑念を抱いたような表情で俺を見つめてくる三人。

 ミネさんとザルマスさんは、俺が加護者である事を話でしか聞いていないため、何が何だかわかっていない感じである。


「でも、俺に加護を与えたのは、ウィル・オー・ウィスプじゃないんです」

「それも話で聞いてはいたが……お前に加護を与えたのはルナリス? 何だろう?」

「はい。そのルナリスっていうのが……“聖の精霊”なんです」


 その言葉を聞いた隊長は、勢いよく立ち上がる。


「……ああ、すまん。続けてくれ」


 隊長はすぐに腰を下ろし、真剣な顔で俺を見てくる。


「じゃあ新人君はその、聖? の加護を受けてるって事?」

「はい。多分そうなんだと思います。それで、本題なんですが……」


 俺は右ポケットから一枚の紙きれを取り出す。その紙きれをテーブルの上に広げ、隊長達に見せる。

 そして、俺は左手で紙きれの中部を指さす。


「この言葉なんですけど、誰か心当たりのある人いませんか?」


 指さしたのは例の謎の言葉。

 その言葉に反応したのは、またもや隊長だった。


「こ、これは……」

「何か知ってるんですか!?」

「……私の故郷に伝わる言葉だ」


 俺はそれに驚き、目を見開く。

 隊長の故郷にこの言葉が伝わっている? もしかしたらこれを記した人の意思を継いだ人がそこにいたのか……?


「ふふっ……。そうか、


 すると、隊長が突然に笑みを浮かべ始める。だが、なぜか隊長の目には涙が溜まっていた。


「た、隊長……?」

「……火水風地に光と闇。それ全て凌駕する者、光を操り輝きを操る。人々の希望を力とし、強大な敵をも滅ぼさん。その力与えられし者、ひじりの加護者と呼ぶ」


 その言葉は、紙きれに記されているものの解読版だった。

 光を操り輝きを操る……か。やっぱり光を司ってたんだな。


「そういう言葉だったんですね……」

「いや、これにはまだ続きがある」


 隊長は目元の涙を手で拭うと、体を小刻みに震わせながら続きを話した。


「その者――聖なる加護を受けし者、いずれ来る災厄を、多くの者達とこれを滅ぼさん。我等はその力を称え、呼び名を与えん。『希望の救世主アマル・ソティラス』と」

「『希望の救世主アマル・ソティラス』……」


 そうか。ルナさんが与えてくれた加護は、聖なる加護……っていうのか。

 もしかしてこの災厄ってのが魔王の事だったりするんだろうか。となると、話の辻褄つじつまが合うな……。


「お前か……。お前だったんだな」


 隊長はスッと立ち上がり、俺のほうに向かって歩いてくる。


 そして、隊長は俺にいきなり抱き着いた。


「た、隊長……? どうしたんです……?」

「やっと……やっと見つけた……」

「な、何をですか?」


 俺の首に冷たい何かが流れてくる。それで理解した。

 隊長は、静かに涙を流しているのだと。


「この世界を救う救世主……それがお前でよかった……」

「え……?」

「ずっと……ずっと探していたんだ。この壊れた世界を救う『希望の救世主アマル・ソティラス』を……」


 俺はこの雰囲気に耐え切れず、周りの皆に助けを求める。しかし、誰もが首を横に振り、動かなかった。


「ありがとう……。私の前に現れてくれて……。ありがとう……」


 なぜ隊長がこれほどまでに

希望の救世主アマル・ソティラス』を求め続けたのかはわからない。だが、誰かの為に――隊長の役に立てるのなら、俺は――

 


 この世界を救う救世主だろうと何だろうと、なってみせる。

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