第13話 作戦開始
「私に続けぇっ!!」
隊長の言葉と共に、俺達は走り出した。
兵士達が上げる気合いの入った叫びに、俺自身も奮起させられながら、オモシナ山の中を進んで行く。
オモシナ山は、マデンカ王国領の南に位置する山だ。辺りを多くの木々が囲んでおり、樹海と言ってもおかしくはないだろう。
しかし、山と言われていてもその実態は、なだらかな丘が続く丘陵である。
昔の人々は、丘と山の違いをつけていなかった為、オモシナ山と呼ばれたらしい。
このオモシナ山には三角形状に並んだ三つの丘があり、その中でも一番大きい丘である、“頂点山”に賊達のアジトがあるという。
現在俺達がいるのは“底辺山”。“頂点山”の前方に位置する二つの丘だ。西側は“西底辺山”、東側は“東底辺山”と呼ばれており、この二つを合わせて“底辺山”と呼ぶ。
俺達は、この“底辺山”を真っ直ぐ突き進み、賊の注意を引き付けながら“頂点山”に向かうという作戦なのだが、俺は途中で別行動だ。
「拓斗! 私が合図したら離脱しろ!」
「わかりました!」
隊長が真剣な顔を見せる。そろそろ賊達と接触するのだろう。
俺はティレンさんと共に離脱準備に入る。
「一時の方向に敵影確認! ユーフィ隊長! ご指示を!」
一般兵のリーダー格と思われる兵士が叫ぶ。いよいよ戦闘になるらしく、誰もが殺気立っている。
殺気は別方向からも感じられ、一瞬で賊のものだと察知した。
そして次の瞬間、茂みから次々と賊達が姿を現した。
「げへへへ! 皆殺しだぁぁぁぁ!!」
「やっちまえぇぇぇぇ!!」
賊達は、剣を振り回しながらこちらに向かってくる。
時代劇やドラマなどで見たことがあるような風景だ、と思いながら、俺は隊長の合図を待った。
「第五部隊! 賊を殲滅せよ!」
隊長の声が辺りに響いた瞬間、戦闘が始まった。
兵士たちは勇ましい雄たけびを上げながら、剣を引き抜いて突撃を開始する。
「グリフォンに乗ってる奴らを狙えぇ! 先に首獲った奴は、お頭から褒美が貰えるぞぉぉぉぉ!」
賊の一人が声を荒げて言葉を発する。
その言葉の後、賊達は第五の皆に狙いを定める。
「拓斗。少し下がっていろ」
隊長の言う通りに、少し離れた場所で待機する。その場所からは、戦場の様子をよく見る事ができ、第五部隊の兵士達は、それぞれ賊達と戦っている。
賊の一人が隊長に向かって突撃してくる。その賊は、写真で見た幹部の一人だ。
グリフォンの攻撃をするりと避けながら、隊長との距離を詰めていく。
「げへへへ! 偉そうな奴の首頂きぃ!」
「あ……! 危ない!」
賊の剣は、隊長に向かって真っ直ぐに突き出された。
隊長はそれをかわすと同時に、地面に落ちる。賊は、隊長と向かい合う形で構えた。
「ああ~? あんた女か!
その言葉を聞いていた俺とティレンさんは、凍り付いた。
恐怖。無論隊長へのだ。
背が高い、厳ついは絶対の禁句。これを言った者はただじゃすまない。
漂う殺気。背筋が凍るようなそれは、決して自分に向けられているものでないとわかっていても、恐怖を感じる。
「あんた結構美人じゃねえか!
「ほう……言ってくれるな……」
隊長は笑みを浮かべながら賊に近づく。しかし、目は笑っていない。
賊が一歩前に足を踏み出した瞬間、隊長が消える。
気付いた時には、賊の右足が切断されていた。
「……あ? あ、足が! 足がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
賊の体には、次々と切り傷が付いていった。俺は驚きのあまり、息する事も忘れていた。
目の前で、人の足が切断された事よりも、隊長の驚くべき速さに目を奪われていた。
目視は出来るものの、見えるのは一瞬だけ。賊を斬りつける瞬間しか目視出来ない。
「一つ教えておこう。私にそれを二回以上言った馬鹿者で――」
「ひっ……! ゆ、ゆる、し――」
「生きていた者はいない」
二十秒足らずで賊は息絶えた。最後は心臓を一突きだった。
かっこいい。素直にそう思った。隊長の圧倒的な強さに、俺はまた見惚れている。こんな人みたいに強くなりたいという思いがより一層強くなった気がした。
俺が見惚れている間に、賊達は次々と隊長に襲い掛かってきていた。
「この
「死ねぇぇぇぇぇぇ!!」
幹部を一人失った賊達は、仇討ちと言わんばかりに攻撃を仕掛けている。
しかし、そんな攻撃を隊長は、次々にかわし、先程のような速さで賊達を斬りつけていく。
「拓斗! 今だ! 離脱しろ!」
この場が乱戦状態になったのを見計らって、隊長は合図を出す。
俺は合図が来たのを確認し、離脱の準備をする。
「それでは隊長。晴羽さんは必ず守ります」
「ああ、頼んだぞティレン! それと拓斗! さっき見せた技は『瞬乱』という! 使いこなせるようにしておけ!」
「え? は、はい!」
隊長は、襲いかかってくる賊達をどんどん斬り倒していく。もしかしたら隊長は、俺にあの技――『瞬乱』を見せる為にわざとグリフィンから落ちたのかもしれない。というか、見せてもらったところであんなの真似できないと思う。
こんな戦場でも特訓とは隊長はやっぱり鬼だな、なんて事を思いながら、俺は戦線を離脱する為にグリフォンで駆け始めた。
「新人君! ちゃんと見つけるんだぞー!」
「晴羽ちゃん! ファイトよ~!」
「はい! 任せてください!」
途中、ザルマスさんとミネさんに声援をおくってもらいながら、俺とティレンさんは戦線を離脱した。
「晴羽さん。私達はこれから“底辺山”にてトビネさんの捜索を開始します。まずは、この“西底辺山”から捜索しましょう!」
「わかりました!」
俺達は、グリフォンに乗って丘を駆けた。辺りには木が生い茂り、視界が悪くなっている。どこに賊が潜んでいるかもわからない緊張を感じながら、捜索を続けた。
しかし、一向に見つかる気配がないため、“東底辺山”に向かうことにした。
“東底辺山”に着いた俺は、妙な違和感を感じた。俺は、そんな違和感を無視して捜索を続ける。
しかし、なぜだろうか。この場所に来るのが初めてに思えないのは……
○
“東底辺山”に入ってしばらくの時間が経ったが、賊の襲撃によって、あまり捜索ができなかった。
俺達は逃げながらも必死に探したが、いまだにトビネさんは見つかっていない。やはり“底辺山”ではなく“頂点山”にいるのか。それともオモシナ山にはいないのか。それすらわからない俺の心身は、共に疲れ始めていた。
始めの頃は恐怖心などを感じなかった俺も、度重なる賊の襲撃により、死という恐怖を感じ始めた。振りかざされる剣、何十と放たれる弓矢、鋭い殺気。体の震えが止まらなかった。
「晴羽さん。大丈夫ですか?」
ティレンさんは心配そうに俺を見ている。
大丈夫と言ったら嘘になる。全然大丈夫じゃない。でもこれ以上心配させる訳にはいかない。無理にでも大丈夫と言うしかないだろう。
俺は出来る限りの笑顔でそれに応える。
「は、はい。大じょ――」
「おい! いたぞ! マデンカの兵士だ!」
「またですか……!」
俺の言葉は賊達によってかき消された。
まただ。また逃げなければいけない。もういっそこのままここで……いや、駄目だ。必ず見つけないと……!
襲い掛かる賊達をティレンさんが弓で応戦する。ティレンさんの弓の腕は素晴らしく、次々と賊達を射抜いていく。しかし、いくら射抜いても賊達の数は一向に減らない。
「きりがないですね……」
「ティレンさん! とにかく逃げましょう! このままじゃ死んじゃいますよ!」
そうだ。逃げるんだ。逃げながら探すんだ。わざわざ応戦する必要なんてない。
そう考えながら木々の間を駆けていく。後ろから放たれる矢に怯えながら、前に進む。
「……晴羽さん。ここからは君一人で行ってください」
「えっ……?」
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