第12話 オモシナ山へ


 精鋭兵軍基地前に、三つの部隊が並んでいる。

 我らがユーフィ隊長率いる第五部隊に、アレアロ率いる第四部隊。そして、と言われているルファル率いる第一部隊。この三隊が召集された。

 今回の作戦は賊の討伐。賊が潜んでいると思われるオモシナ山へ出撃し、討伐するとの事だ。

 作戦のメインは第一部隊。第一部隊がオモシナ山の裏に回り、奇襲をかける。その準備の間、第四部隊と第五部隊は正面から攻撃を仕掛ける。まあ囮という事だ。しかし、この作戦は俺達にとって好都合ではある。

 多分戦場は混戦状態になるだろう。そこで、俺とティレンさんは戦線を離脱し、トビネさんを捜索しに向かう。隊長達はその場に残り、囮の役割を果たす。隊長達がトビネさんと思わしき人物を見つけた場合は、ミネさんが連れてきてくれるという算段になっている。


「よし、それじゃあ皆、頼んだよ」

「うおおおおおお!」

 

 軍長の言葉と共に、隊員達が声を上げる。もの凄い気迫だ。これが今から戦場に赴く人達の気合いか。

 俺も周りに負けじと大声で叫ぶ。気合いは充分。不思議と恐怖心もない。死ぬかもしれないのに、こんな落ち着いてる。隊長との特訓の成果なのだろうか。特訓中はずっと殺意向けられてたから、それで慣れたのかもしれない。なんにせよ、隊長には感謝だ。


「第一部隊。行くぞ」


 隊長ルファルを先頭に、次々と出撃していく。第四部隊もそれに続いて出撃する。


「では私達も行くぞ」

「了解!」


 第五部隊も、隊長と共に出撃を開始する。オモシナ山までは少し距離があるらしく、日が昇る前までには到達しなければならないらしい。


 急がなければならないのはわかる。だが、俺にはどうしても聞きたい事があった。


「あの、隊長」

「うん? どうした拓斗。腹が空いたのか?」

「いや、この状況でそれは無いですよ。そんなことより、どちら様ですか後ろの人達」


 さっきの第一部隊にも第四部隊にも兵士達が後ろに着いていた。何百人といる人達が、俺達の後ろを必死な顔して着いて来ている。

 一体なんなのか。


「ああ、まだ話していなかったな。彼らは一般兵軍の兵士達だ」

「一般兵軍の?」

「そうだ。一般兵軍の兵士達は基本、精鋭兵軍の下で戦う事になっていてな。彼らはその中の第五部隊直属の兵士達という事になる」


 なるほど。各軍がそれぞれ個別に活動している訳じゃないって事か。これで一つ目の疑問が消えた。

 ……よし、次の質問いってみよう。


「隊長」

「今度はなんだ?」


 俺は、自分が乗っている物を見る。それは上半身が鷲で、下半身が馬のような姿をしている。

 鷲のような頭に、四足歩行で翼を持ち、馬のように速く、大きい。


「なんですかこの生物」

「グリフォンだが?」


 グリフォン。俺が居た世界では、伝説の生物として知られているそれは、上半身が鷲で、下半身がライオンのような姿をしていると伝えられていたはずだ。

 俺はもう一度自分が乗っている生物を見る。まあ大体は合っている。違っているのは下半身が馬って事と、顔の個体差が激しいって事か。

 隊長のグリフォンは、もの凄くグリフォンっぽくてかっこいいのだが、ザルマスさんのは、何というか……うん、愛嬌がある顔をしている。可愛いと思う。

 そんな事を思いながら見ていると、ザルマスさんと目が合った。


「新人君。言いたい事はわかってる。だから、頼むから言わないでほしい。俺泣いちゃうから」


 ザルマスさんは肩を落として落胆したような様子を見せる。どうやら自分のグリフォンがブ――愛嬌ある顔だと自覚しているらしい。

 ……俺のグリフォンの顔はどうなんだろうか。乗せられる時、驚きすぎて顔見れなかったからなあ。

 俺は気になって、自分の体ごと前に乗り出し、グリフォンの顔を確認する。

 隊長のグリフォンみたいなのでもなく、ザルマスさんのグリフォンのような愛嬌ある顔でもない。なんというか、普通だ。まあかっこいいほうだと思うので、少し安心した。


「それにしてもグリフォンって賢いんですね。手綱握ってるだけでいいとは思いませんでしたよ」

「グリフォンは人間の心を覗く事が出来ると言われているからな。目的地を考えるだけで連れて行ってくれる。これ程騎乗が容易な生物はいないだろうな」


 この世界のグリフォンという生物は、人間の心を読む事が出来るので、馬よりも概要があるのだとか。しかし、不憫な事に、この世界のグリフォンは飛ぶことが出来ない。翼はただの飾りのような物らしい。空、飛んでみたかったな。

 俺はグリフォンの翼にそっと触れる。すると、グリフォンが小さく低い唸り声を上げる。


「拓斗。グリフォンが低く唸った時は怒る合図だ。それとこいつらはプライドが高い。憐れむと怒るから気を付けろ」

「えっ? それもっと早く言ってくださいよ!」


 その後、俺はすぐにグリフォンに叩き落された。







 あれから大分時間が経った。

 グリフォンに叩き落された俺は、許してもらうのに小一時間はかかったと思う。でもなんとか許してもらい、オモシナ山に日の出前には到着することが出来た。

 辺りは薄暗く、静寂している。耳に聞こえてくるのは、木々の揺らぐ音に、鳥の囁き。もうすぐ日の出がやってくると伝えてくれているように感じる。

 

「もうすぐ日の出だ。準備はいいか?」


 隊長は真剣な表情で俺達を見つめる。

 正直、まだ覚悟は出来てない。恐怖心はないが、人を殺す覚悟は出来ていない。そもそも殺す必要があるのかもわからない。でも、殺らなきゃこっちが殺られるんだ。それ相応の覚悟が必要だろう。覚悟を決めろ、俺。

 俺は隊長に頷いて、準備完了の合図を送る。


「さ~て、やるわよ~!」

「流石はミネフェル。今回も気合充分ですね」

「おいおい、そう言うティレンも充分気合い入ってるじゃないか」

「勿論ですよ。気合い入れないと戦えないですからね。妹を探す為にも生き残らなくては……!」


 他の皆も気合充分のようで、それぞれガッツポーズ的な事をしている。

 もうじき夜が明ける。皆の顔が、真剣な表情に変わっていく。

 とても静かだ。まるでここだけ時が止まっているかのように思える。そんな静寂の場を壊したのは一筋の光。夜が明け、日の出が来た。

 それと共に隊長は一気に立ち上がり、声を荒げて言葉を出した。


「マデンカ王国精鋭兵軍第五部隊! 作戦を開始する!」


 その言葉と共に、俺達は立ち上って声を上げて叫ぶ。

 

「行くぞお前達! 私に続けぇっ!!」


 オモシナの戦いが今、始まった。

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