第二章 オモシナの戦い編
第7話 入軍試験
マデンカ王国はかなり広い。
俺も来たばかりであまり詳しくは知らないが、パッと見、東京ドームが何十個分くらいあるのではないだろうか。あまりピンとこないと思うので簡単に言おう。
説明できないくらい広い。本当に広いのだ。その広さに俺も少し混乱してる。
多分、日本の東北地方と関東地方を合わせたぐらいには広いんじゃないだろうか?
マデンカ王国は周りを大きな外壁で囲われており、ちょっとやそっとじゃビクともしなそうだ。
外壁沿いには店が多く並んでいて、どれも俺の知らないような物が並んでいる。食料品や雑貨品など、元いた世界では見たことない物ばかり売っている。そんな中にも、米やコップといった、俺が元いた世界で馴染みある物に似た商品も売られているらしい。
「どうした晴羽君。何か珍しい物でもあったか?」
俺が城下町を物珍しそうに眺めていると、オルトさんが不思議そうに話しかけてきた。どうやら、この世界では特に珍しくもない物を珍しそうに見る俺を不思議に思ったらしい。
この世界の住人にとっては馴染みある物であっても、別の世界の住人である俺にとっては、どれも珍しい物ばかりだ。珍しそうに見るのも仕方ないと思う。
「いえ……ただ、賑わってるなと思って」
とりあえず、賑わっている城下町が珍しいという事にした。
「ここはマデンカ大陸一の大国だからな。人々が集まるのも当然だろう」
俺はそれを聞くと再び城下町を眺める。
正直こんな賑わっているとは思ってもいなかった。でも、オルトさんが言った通りここはマデンカ大陸一の国。何もおかしくはない。
それにしても、この馬車は一体どこに向かっているのだろうか?
宿屋まで送ってくれるのか、それとも賊を討伐した功績で王様から褒美貰えるのか。どちらも違うような気がする。
なぜならこの馬車は、城らしき場所からどんどん遠ざかってるように見えるからだ。先ほどまで賑やかだった光景も今は殺風景な平地へと変わっている。
「あの、オルトさん。一体どこに向かってるんですか?」
オルトさんのほうに体を向け、さっきからの疑問を問いかける。
「おや? 言ってなかったか? 今日はちょうど試験日だから試験場に向かうと」
……初耳なんですが。びっくりしすぎて言葉が出ない。こっちに来てから驚きの連続だ。
というよりも、こっちの人達の間では言った言った詐欺が流行ってるらしい。
「聞いてないんですが……」
「そうだったか、すまない。言ってあると勘違いしていたようだ」
オルトさんは、すまなそうに言っているが、笑いを堪えているように見えた。
絶対これわざとだ。この人って意外と悪戯好きなんだな……。
「だが晴羽君ならば問題ないだろう。きっと余裕で成績トップを取ってしまうんだろうな」
俺が不安そうにしていると思ったのか、オルトさんは軽いジョーク気味で言う。
どうやらオルトさんは俺に期待しているらしい。まあ、あの戦いを見られたら仕方ないのかもしれないが、期待するのはやめてほしい。
まだこっちの世界の人達の強さもわからないし、俺は戦闘経験がない。加護の力で多少強化されていたとしても、それがこの世界で通用するかどうか……。あの賊の時も無我夢中に殴ったから力の出し方とか正直憶えていない。
さて、どうしたものか……。
○
俺は今、試験会場のど真ん中に立っている。
試験会場は、城から遠く離れたドームのような場所。中には観客席と思われる場所やグラウンド、控室みたいな場所がある。そして俺はグラウンドのど真ん中。
試験が半年ぶりということで、今回は俺を含めて六十七人が参加しているらしく、過去の人数と比べると少々多いらしい。
元傭兵や、兵士の息子、貴族の娘など色々な人達が参加しているそうだ。その中でも俺は異例中の異例。
身元不明で騎士団長オルト・グレアのお墨付き。
注目を浴びるのも自然な流れだ。実際に、観客席で見ている参加者達の声から注目を浴びているのがわかる。
「ねえ、聞きまして? あの男、騎士団長オルトのお墨付きらしいですわよ……」
「ああ、聞いたさ。一体どれほど強いんだろうね」
「しかし俺には普通のガキにしか見えねえぞ?」
と、まあ俺の話題が尽きないらしい。
というか、この国は人の事信用しすぎじゃないのか? 身元不明の人間を雇おうとするなんて……。
俺が少し腰を下ろそうとした時、目の前にある門が開いた。
その門から、全身をローブで包んだ魔術師の男と、三体の犬の人形が出てくる。
「晴羽拓斗さん、ですね? 準備はよろしいですか?」
魔術師の男が俺に確認する。
「……はい。お願いします」
試験の内容は簡単。
いかに速く敵を倒せるか。いかに強く敵を倒すか。この二つで決まる。
「それでは、試験開始!」
魔術師の男が、そう声を挙げると同時に、三体の犬の人形が散開する。人形たちは俺を逃がさないように取り囲んだ。
俺の武器は右手に持つ剣のみ。俺は左足を前に出して重心を少し下げる。そして、剣を持つ右手に力を込めて構えた。
すると、俺の態勢に驚いたのか、観客席にいる参加者が声を上げる。
「なんだあの構えは!?」
「あんな構え方……見たことも聞いたこともねえぞ!?」
参加者は皆信じられないといったような顔をしているように見える。多分俺みたいな構え方する奴が、この世界には存在しないからなのだろう。
俺は生まれてから一度も剣なんか持ったことがない。これが初めてなんだ。だから構え方はもちろん、戦い方だってわからない。
別に構え方や戦い方が違ったって構わない。この世界の構え方や戦い方が分からない今、俺に出来る事は適当にやるって事だけだ。
「よし……」
俺は一度深呼吸して呼吸を整えると、すぐさま神経を辺りに集中させる。
現在、人形達は、俺の周りを三角形を作るように取り囲んでいる。多分一体ずつ順番に攻撃を仕掛けてくるつもりなのだろう。三体が順番に攻撃することで隙がなくなり、相手が攻撃できない状況を作る作戦だと思う。
だが、俺はこれを強行突破するつもりだ。持ち前の反射神経を活かして攻撃をかわし、そのままカウンターをくらわすという作戦でいく。
俺の体は加護の力によって強化されているから、少しぐらいの攻撃なら当たっても問題ないと思うし、この試験の内容がどれだけ速く、強く倒せるかである以上、隙を伺う時間は惜しい。だから勝負は一瞬だ。初手でカウンターが決まれば俺の勝ちはほぼ確実。カウンターが決まらなかった場合、又は俺の予想した作戦と違うなら向こうの勝ち。あとは自分を信じるのみだ。
俺が、辺りの動きに神経を集中させて攻撃に備える一方、人形達は三角形の陣を維持しながら、俺の周りをぐるぐると走り回っている。
すると人形の一体が、俺目掛けて飛びかかってきた。
「予想通り……!」
飛びかかってくる人形を、体を後ろに反らしてかわす。あとはカウンターをくらわせるだけだ。
俺は反らした体を起き上がらせ、その反動を使い、腕をしならせながら人形を斬りつけると、人形は真っ二つに引き裂かれて地面に落ちた。
その直後、観客席からどよめきが起こったが、今はそんな事を気にする暇なんてない。なんせまだ二体も残っている。
俺がすぐさま態勢を立て直すと、二体目の人形はすでに飛びかかってきていた。すぐにサイドステップで左に避け、人形向かって剣を横に振るう。二つ目の人形も真っ二つになって地面に落ちる。残すはあと一体のみ。
残った人形に意識を集中させ、俺は剣を構える。
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