第6話 騎士団長
「あ、あなたは……?」
「先程の戦い、見させてもらったよ」
「は、はあ。そうですか」
見たからなんだというのだろうか? まさかさっき俺が倒した男……偉い人だったのか……? いや、でも見た目悪そうだったしな……。明らかに山賊っぽい恰好してたし……。ああ、でも人を見かけで判断しちゃダメとかいうしな……。
俺が少し焦っていると、中年の男が口を開いた。
「賊討伐のご協力感謝する。この男は、我々が追っていた輩の一人だった。ありがとう」
中年の男はそう言うと、頭を下げた。
やっぱり賊だったのか……。よかった……。
先程の男が偉い人じゃなくて安心していた俺を置いて、男は話を続けた。
「戦うのは初めてだったか?」
「あ、はい。一応……」
確かに刃物を持った人と戦うのは初めてだ。なぜなら戦いなどには縁もない世界に居たからな。
「やはりそうだったか。しかし、あの反射神経と凄まじい攻撃力。実に素晴らしかった」
中年の男は、笑顔で俺を称えた。
「あ、ありがとうございます……」
「そこで、だ。君、マデンカ王国で兵士をしてみないか? 勿論強制はしない」
「……え? 兵士? 俺が?」
思いもしなかった言葉に俺は耳を疑った。まさか兵士として勧誘されるとは思わなかった。しかし俺が兵士か。いやいやそんな馬鹿な。
でも、これはもしかしたらチャンスなんじゃないだろうか。
マデンカ王国は大陸を代表する大国だ。確かトビネさんの話によると、大陸を代表する大国は、他の大陸の大国と連合軍を結成して魔族と戦う事があるとか。という事は、マデンカ王国で兵士になっていれば魔王討伐に近づくって事になる。つまり、このままフリーでいるよりは、この誘いに乗ってマデンカ王国の兵士になったほうが良いって話だ。
「ああ。どうだろうか?」
これはもう誘いに乗るしか選択肢は無いだろう。断る理由が無い。それに兵士になれば多少は訓練を受けられるだろうから、戦い方等も学べるだろうし。
「な、なります! 兵士に!」
「そうか! 向こうに馬車が待っている。マデンカ王国まで送ろう」
中年の男は嬉しそうに馬車のある方向を指さす。なかなか立派な馬車のようだ。
中年の男がどんな人物なのか気になりつつも、俺は頭を下げてお礼を言った。
「ありがとうございます!」
「そうだ。申し遅れてすまない。私の名は“オルト・グレア”だ。君の名は?」
「俺は晴羽拓斗です」
「うむ、いい名だ。では晴羽君。早速マデンカ王国に向かおう」
そして俺は馬車へと乗り込み、マデンカ王国に向けて出発した。
○
馬車に乗ってしばらくは、オルトさんに話を聞いていた。
マデンカ王国の兵士になるには、一つの試験を受けなくてはいけないらしい。
その試験内容は、模擬戦闘。魔物に似せて作った人形を相手に、どれだけ戦えるかを測る。その結果で、配属先が決まるのだ。
マデンカ王国の軍は三つに分かれていて、騎士団、精鋭兵軍、一般兵軍があるらしい。優秀な者は騎士団か精鋭兵軍に分かれ、そうでない者は一般兵軍に配属されるとのこと。
まず人形相手にどうやって戦いぶりを示すのか疑問に思ったが、そこは大丈夫らしい。
なんでも、魔術を使用して動かすらしいのだ。
魔術は、人間族には使用する事ができないらしいのだが、“
つまり、人形は王宮仕えの“
正直、いきなり魔術だとか“
“
そして人間族よりも高い身体能力を持ち、魔術も扱える。まさに鬼に金棒状態。
この大陸の西にある大陸に“
この世界では、“
国を追放された者達は、海を渡り、各大陸に身を置くという。人間達はそういった者達を丁重にもてなすらしいのだが、中には良く思ってない人間もいるらしく、そういった奴らからは差別的な扱いを受け続けるらしい。酷い話だと思った。
俺のいた世界でいえば、異種族結婚なんて国際結婚のようなものだろう? 認めてあげればいいのに……。
その事について考えすぎていたのか、気付けばもうマデンカ王国の近くまで来ていた。
「晴羽君、そろそろ着くぞ」
オルトさんの言葉を聞き、俺は馬車の窓から外を眺める。目に入ってきたのは巨大な城壁。あまりのデカさに俺は言葉を失った。
俺が驚いていると、城門の門兵と思われる男が近寄って来る。
そして俺は、次の言葉に耳を疑った。
「オルト騎士団長様。ご苦労様です!」
「うむ、ご苦労」
え? 今なんて言ったこの門兵。騎士団長? この人が? そう騎士団長様なのね。そう……。
いやいやいやいや、ちょっと待ってほしい。オルトさんが騎士団長って嘘だろ……。そんな凄い人にスカウトされたのか。
とりあえず俺は真実を聞く事にした。
「あの……オルトさんって騎士団長なんですか?」
「おや? 言ってなかったか? いかにも私が『マデンカ王国騎士団団長オルト・グレア』だ」
まごうことなき真実でした。
その影響で、しばらく俺は放心状態に陥った。
○
気が付くと、そこはもうマデンカ王国内だった。
マデンカ王国城下町。
大勢の人々が賑わい、活気に満ち溢れている。多くの店や民家が並び、奥の方には大きな城のようなものが見える。ゲームでよく見るような中世的な街並みだ。
「晴羽君、ここがマデンカ大陸最大の国。マデンカ王国だ。」
「ここが……マデンカ王国……」
俺は、初めて見る王国というものに少々興奮していた。
そして同時に、これから始まるであろう俺の物語に……。
第一章 『転移編』 終
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