第4話 虎の物語(3)

 夜が明ける。

 闇を恐れる鳥たちは歌を歌う。希望の朝の訪れを祝う歌を。


 トラは本来夜行性だ。空が白んできて、時には赤く燃え、夜が明けたら、一日の終わりを悟り、安息な気持ちを得るはずであった。

 だが、彼は夜が明けるのをそれほど歓迎している者ではなかったので、他の夜行性の動物よりも、朝の訪れにはいい印象を抱いていなかった。夜中に獲物を探すことに集中していれば、己の孤独を認識する事もないし、それでまあまあ上手くバランスが取れていた。


 東から訪れる夜明けから逃亡するように、西へ西へと向かう。

 しかし、あっけなく夜は明けた。太陽が月を追いかけるスピードに、彼はとても敵わなかったのだ。

 

 そう、ここでも彼は、とても無力であった。

 

 逃亡者である事も許されない、その絶望的な無力さを振り払うように、一心不乱に獲物を探す。

 

 彼の気配を感じると、その捕食対象である鹿や猪は、一斉に逃げ出す。それは本能による物なのだろう。迫り来る恐怖から逃れるように、一斉に走り出す。それは、まさに逃亡と言う他にはない行動で、この様相を見るたびに、彼は一層孤独を深めるのであった。


 罪悪感と空腹の間で、昨晩の少年の事を思い出す。自分と同じ孤独を抱えた少年の事が気になっていた。


 鳥たちの祝福の歌は、終わりの気配を迎えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る