第1話 運命られた出会い -3-
四日目。リクがまた森へ向かう途中、学校を過ぎて森へ入る道に差掛かる時に、何やら闇市場の方が騒がしいのに気付いた。目をやってみると野次馬が集っているのが見えた。リクがその最後尾で地面にべたりと這って見てみると、何やら自分と同い年くらいの女の子が、自警団の何人かに絡まれている様子だった。
その女の子は、この集落には似つかわしくない美麗さがあった。髪の毛の色が藍色に染まっていて、ひらひらとした白いスカートは、高級感をどこかに感じさせ、どこか掃き溜めのようなこの世界からかけ離れた、そう。彼女はどこかの国のお姫様なのではないか、とさえ思わせてしまうほどの美しさを感じさせた。
そしてリクは思う。……あれっ! ソラだ! 髪の毛の色が純白ではなく、空とも違う美しい藍——リクは生まれてこの方見たことのないものであったが、その藍は美しく透き通る大海の色そのものであった——になっているけれど、あの子は間違いなく、ソラだ。
野次馬の大人達の声を聞いてみると、
「あの子どこかで見たことある?」
「いいや。ないな」
「どこのどいつだ?」
「知らない」
やはり彼女がどこの誰なのかを知る人はいない様子だ。もしかしたら平民、いや。もっと上の上流階級の子供が迷い込んでしまったのかも、そんなことを思っているのかもしれない。リクはソラを助ける、ただそれだけのことを考え拳を握り締めていて、気づけば大人達の
「オイオイ。何ダァ? このガキ」
自警団の男が一人、リクに向かって近寄ると舌打ちをして吐き捨てる。
「そ、そそそ、そのっ!」
震えながらリクが口を開くと、
「おいおいおい! なんだよこのガキ震えてやがるぜ!」
そんな風に男が笑い、それに合わせて別の者共が
「こいつ何なんだよ。オイ。しょんべんチビっちまうんじゃねぇの?」
「ヒッヒッヒ! 違ぇねえや。あんまり怖がらせるんじゃねぇぞお前ら? こんなにキメッキメでレディの目の前に出てきたのにしょんべんちびっちまったら、恥ずかしくってもう二度と外を出歩けなくなっちまうぜ? ガァッハッハッハッハ!」
最後のリーダー格の言葉に
リクは「ぎゃ!」とか、「あぐっ!」とか「ゲェ」といった声にならないうめき声だけを上げ続けるばかりだ。目からは涙が溢れ出してくる。ソラはそんなリクを見ては「きゃぁっ!」と叫んでしばらくは見ていられない、といった様子で顔を背けていたが、ぐっ、と手に力を込めると、リーダー格らしく、暴力に参加せず後ろで薄ら笑っている男の前に毅然と立ち、
「もうやめてっ! この子このままじゃ死んじゃう!」
そう叫んだ。自分と知り合いであることを悟らせたくなくてリクの名前を呼ぶことはしない。だが、知り合いであるか否かに最早関係などなく、その願いがリーダー格には勿論この連中に通じることもない。さっきまでリクを踏みつけていた男が後ろから彼女の髪を強引に引っ張り、叫ぶ。
「おぉそうだったなぁ! てめぇタグが付いてねぇじゃねぇか! アァ?」
痛みにソラは顔をしかめる。すると今度は目の前でニヤついていたリーダー格の男がソラの髪を引っ張っている若い男をたしなめるような声で言った。
「おいおいおい。まぁそんなカッカすんなや。相手はレディだぜ」
その言葉とは裏腹に、顔には下品かつ下卑た嘲笑い。両腕はソラの下腹部に当てがわれていた。
「こんなひらひらしたおべべ着てるような女だ。まぁ今はともかく、何年かしたら上玉になるかもしんねぇだろ!」
その手を頬へ一気に移し掴む。ソラの顔が、歪む。
「やめ……やめ、てよ……!」
それだけを必死に口にした少女の髪の色が、濃い緋色に変わった。この騒ぎを見ていながら何もできないでいる野次馬達が最初にどよめきだし、そして、「お、……おい! 何だテメェ! 気色の悪いガキがァッ!」
リーダー格の男は腰のサーベルを引き抜き斬りかからんとする。少女の、髪と一緒に変色した緋色の瞳から涙が零れたその時でさえもリクはパニックに陥っており、何も考えられないまま、
「ああーー! あーーーー!」
という声だけしか出てこず、泣き叫んでしまっていた。その声を受け、リーダー格の男の手が止まり、
「うっせぇんだよクソガキィッ! テメェからぶった斬んぞこの野郎!」
と怒鳴り散らす。その時だった。
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